あおり運転や児童虐待、パワハラなど、今年は、「怒る大人」が引き起こしたニュースが数多く話題となった。そもそも、人間はなぜ、キレてしまうのか。脳科学者で今年6月、『キレる! 脳科学から見た「メカニズム」「対処法」「活用法」』を刊行した中野信子氏は「“キレる”という感情は、人間にそもそも備わっているもの」と説明する。“キレる”人にはどう対処すべきか、またはキレないためにはどうするべきか、中野氏に話を聞いた。

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■最も恐ろしいのは、自分には怒る正当な理由があると脳が判断した場合

「非常に不条理な仕打ちをされたり、危険を感じたとき、脳の新皮質、前帯状皮質が刺激され、“闘うホルモン”と言われるノルアドレナリンが分泌されて脳は興奮し、攻撃的になります。激しい怒りを感じたとき、顔が赤くなったり、心臓がバクバクしたり、声や手が震えるのは、ノルアドレナリンの分泌によって起きた身体の反応です。同時に筋肉に作用するアドレナリンも分泌され、闘いにおいてより力を発揮できるようになります」

 アドレナリンは、持続効果が短いのが特徴。一瞬カッとなっても、しばらくしたら平静に戻ったという経験は誰にもあると思うが、それはアドレナリンの作用というわけだ。
 しかし、時間が経ってもキレ続けている人がいるのも事実。中野氏は言う。

「その場合は、脳内で怒りの感情を抑制するブレーキの領域である前頭前野がしっかり働いていない状態の可能性があります。前頭前野の機能が低下する理由として考えられるのは、飲酒や睡眠不足、体調不良や麻薬の使用、そして脳の老化現象が挙げられます」

 反対に、前頭前野の機能が強すぎる場合も、相手を過剰に攻撃する言動につながることがあると言う。

「最も恐ろしいのは、自分には怒る正当な理由があると脳が判断した場合です。正義感から制裁行動が発動するとき、前頭前野の働きで怒りは加速し、さらに、脳内にはドーパミンが放出され、快感を覚えます」

 このほか、思春期の子供がキレやすいのは、テストステロンの分泌と前頭前野が未発達なため、家族間の暴力的行為が多いのは、“愛情ホルモン”と呼ばれるオキシトシンの働きによって、愛情が強すぎるあまり、憎しみや妬みの感情も強まる、いわゆる“かわいさ余って憎さ百倍”の状態になるためと言う。

■“心はキレても、言葉はキレない”スキルを身につけるべき

 怒りを抱くことが、脳科学的にはヒトであれば誰でも感じる自然な感情であるにしても、できるだけキレずに過ごしたいし、キレている他人の言動に巻き込まれたくはない。そのためには、「“心はキレても、言葉はキレない”スキルを身につけるべき」と中野氏は提唱する。

「不満があるときや、キレてしまったときの対処法には3種類あります。まず1つ目は、言葉でもキレてしまい、攻撃的になる。2つ目は、不満があっても飲み込んでしまい、ひたすら耐える。3つ目は、言葉ではキレずに、伝えたいことは伝える、アサーティブという方法です。日本の学校では話し言葉を学習しないので、言葉を使ってどう自分の“怒り”を表現して抵抗するのかを学ぶチャンスがありません。どういうふうに主張して相手を説得したらいいか、その方法がわからない日本人が多いんです。結果、キレられても言い返せず、いいように扱われ、都合のいい人になってしまう。よいキレ方と悪いキレ方があるとすれば、よいキレ方は、正当な怒りで、相手に強くこちらの気持ちや意思を伝えるためのものであり、悪いキレ方は、自分本位の身勝手な怒りを相手にぶちけ散らすことです。“よいキレる”は自分を大事にするということの第一歩なので、その練習をしなくてはなりません」

 例えば支配的で、立場を利用しパワハラをする上司には、はっきり「怒鳴らないでもらいたい」と言い切ったり、眼力を使って黙ってじっと冷静に目を見つめるなどして、こいつはちょっと支配するのは難しそうだと思わせる。侮辱的な言葉で相手を貶めようとする同僚や上司には、にっこり笑って「?」と余裕のある態度を見せるだけでもそこそこの効果が見込めます。ダメ押しをもししたければ「おっしゃりたいことは受け止めました。作業がありますので戻りますね?」などと言って、相手の行為にやんわりと不快感を表し、卑劣な行為には屈しない姿勢を示すなど。「メディアには参考例がいくつもある」と中野氏は言う。

「漫画でもアニメでも映画でも、劣勢に見えた人が起死回生の一手を打つシーンはたくさんあります。そこには必ずキーワードやキーフレーズがあるはずなので、参考にするといいと思います。それから、いわゆる“キレ”キャラのタレントやゲイバーのスタッフも、いいタイミングで上手にキレて、うまいなと私は感心し、勉強させてもらっています。感情の赴くままにキレているように見せながら、まわりをとてもよく観察していて、絶妙なタイミングで、上手に言葉を選び、賢くキレる。キツイ言葉を発しているように見えても、決して相手を傷つけたり、打ちのめしたりするようなことがなく、怒りながら人を和ませる。そういうコミュニケーションが上手な人を見つけて、ちょっとずつ吸収していきましょう」

 それでもどうしても勝てないと思うことがあったら、「闘わず逃げたほうがいい」と中野氏。

「ダメなキレ方をする人の近くには極力近づかないことです。怒っている人自体も決していい気持ちにはなりませんから、攻撃させないことも優しさなんです。ミスをとがめられたら、一言謝って、「勉強してきます」と言って、その場をサッと逃げるとか、また、あまりにもひどい場合は思い切って辞めてしまうなど、物理的に距離をおくという選択肢もあるということを忘れないでほしいと思います」

 悪いキレ方は相手も自分も不幸にする。「キレる」を理解し、上手に活用するスキルを磨いて、2020年を少しでも良い年にしよう。