「好き」でもないし「嫌い」でもない…どこかあいまいながら、最近ネットや日常生活で目にする機会が増えているのが「個人的には嫌いじゃない」という表現。自己主張しているようで断定はせず、でもどこか知的にも聞こえる使い勝手の良い汎用性の高いキラーフレーズだが、この「個人的には嫌いじゃない」を多く勝ち得ることが出来る対象は意外に少ない。

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■「推しすぎず」「否定しすぎず」表現としての使い勝手

 このフレーズの頭にある「個人的には…」だが、「個人」の部分に自分の名前を入れるととたんに知的に聞こえなくなるから不思議だ(例/浜崎あゆみのあゆ的には~)。あくまで「個人」であり、しかも「的」がつくから、「私」や「俺」よりも自分を客観視できているように思われる。さらに「個人的に」の後に「は」を入れることで、「個人的に嫌いじゃない」よりも断定しておらず、(みんなはどう思っているかは知りませんけど、私「は」そう思う)といった冷静な立場表明のような余裕がある。つまり、「個人的には嫌いじゃない」に込められている配慮や言葉の響きからは、「大大大好き!」「死ぬほど嫌い」的な一直線な感じを与えず、「推しすぎず」「否定しすぎない」といった玄人目線、上級者っぽさが感じられる。言葉の流れとしても俳句や短歌のようなリズム感もあり、言葉としての“すわり”がよい。

 最近、このフレーズをよく聞くようになった理由としては、やはりSNSの普及があり、個人が意見を発信する「場」が急増したことが挙げられるだろう。個人的な趣味や好みに関する議論が地域や世代を超えて活性化する一方、相手によっては思いもよらぬ解釈や誤解、曲解によって炎上する…という事態も増えている。自分の意見を表明したり、相手を知る際にもまずお互いの「好き」を知ることが重要事項となってきており、炎上を防ぐためにも、強すぎず弱すぎもしない「個人的には嫌いじゃない」というフレーズが重宝されるようになったのではないか。

■芸能界での「個人的には嫌いじゃない」、足りうるのは「程よい芸人」枠の“ベテラン”

 そうした現代社会におけるパワーワードを芸能界に当てはめるとどうか。「個人的には嫌いじゃない」=「ちょうどよい立ち位置」とすると、『バイプレーヤーズ』(テレビ東京系、2017年)でも共感を得た遠藤憲一や松重豊、女優では片桐はいりや江口のりこ、木村多江など実力派が名を連ねる傾向にあるようだ。一方で、俳優や女優の好みに関しては登場作品や、演じる役柄に左右されることも大きく、作品単位で評価が分かれることが多い。
 
 「個人的には嫌いじゃない」=「テレビで毎日見るに堪えうる」とすると、テレビ番組・CMのリサーチを行うエム・データが出す『2019年上半期TV番組出演ランキング』によると、1位は国分太一(TOKIO)、2位は設楽統(バナナマン)、3位は坂上忍、4位は博多大吉(博多華丸・大吉)。帯番組MCを始めとして、「好感度でテレビ出演時間が急変化する」という意味ではお笑い芸人が指標足りうる可能性が高い。

■M-1ほかお笑いコンテスト総なめも ノンスタ・石田は「どこか地味」

 そんな中、「個人的には嫌いじゃない」が当てはまる芸人としては、NON STYLEの石田明が挙げられる。NON STYLEと言えば、不細工なのにナルシストキャラの井上裕介が思い浮かぶが、そもそも2008年のM-1グランプリ王者をはじめ、数々のお笑いコンテストを総ナメにした超実力派コンビ。コント漫才をやり続けるストイックさから、お笑い好きからの支持も厚い。そのツッコミとネタ作りを担当している石田は、NON STYLEの頭脳といってもいい存在だ。『ナインティナイン岡村隆史のオールナイトニッポン』で『M-1グランプリ2018』を解説したラジオは的確と評され、YouTubeでも150万回超の再生回数を誇る。今月7日には、カンテレのバラエティー番組『おかべろ』の司会に抜擢され、芸人としての地位を高めた。

 しかし、芸人としてトップの賞は獲得したが、世間的には「天下を取った」とは言えず、存在感も微妙。どこか地味感を払拭できないものの、TVタレントとしては「中間の知名度と好感度」を持つ「ほどよい芸人」枠として、それなりにテレビには出続けている(相方の井上が不祥事を犯したとき以外)。

 今、各メディアを見渡せば、「好きなお笑い芸人」ランキング1位と言えばやはりサンドウィッチマンだ。漫才の実力もさることながら、超コワモテなのにどこか人のよさが感じられるギャップで好感度を上げている。しかし一方では、少しでもネガティブなネタをやれば好感度ダウンもまぬがれず、視聴者から「よい人」を期待される分だけ、本来お笑いが持ち合わせているべき毒を吐けないという不安も抱えている。

 逆に「嫌いな芸人」として急上昇(急下降?)しているのは、安田大サーカスのクロちゃん。『水曜日のダウンタウン』(TBS系)などで見せるクズっぷりは“モンスター”の異名を持つほどだが、もはやお笑い業界でも“必要悪”としての需要を確保しただけに、今後はひたすらクズ&ゲスな芸風で突っ走っていくしかないと思われる。

■TVで見せない顔で “らしさ”拡大中 パパキャラで足場を固めはじめた

 特筆すべきは、石田が持つあらゆる場面に対応する“マッチング機能”だ。井上の事件の際には、謝罪会見で号泣する井上に対し、公式ブログで「(井上は)優しい意見に甘え、厳しい意見からは目を背ける。都合の悪いことにはフタをしてきた」とバッサリ断罪したかと思えば、号泣する井上の写真を掲げながら「痩せてへんのかい!」「ハンカチなんか普段持ってへんやん!」「泣き顔ブスやな!」と愛あるツッコミで笑いに変換し、結果的に相方のピンチを見事に救って見せたのである。

 また、同期であるカジサックことキングコング・梶原雄太のYouTube公式チャンネルに出演すると、同期愛にあふれるトークと論理的な思考力の展開を見せて株を上げた。さらに、妻との結婚記念日を報告したツイートには23万「いいね」が付き、「相方の井上さんとは異なる家族しかない世界にうっとりします。お仕事、頑張ってください」といったコメントもつくなど、ファンから「嫌われていない」(見守られている)といった立ち位置を確保している。

■「個人的」が取れる日は遠くない? 漫才軍師、ノンスタ・石田の今後

 「大好き」でも「大嫌い」でもなく、あくまでも「コア」と「マス」のバランスを維持している石田だが、漫才の技術ではトップクラスで「漫才軍師」とも言われる。ナインティナインの岡村隆史も石田の才能を非常に高く評価するひとりであり、『ナインティナイン岡村隆史のオールナイトニッポン』(ニッポン放送)では「2018M‐1答え合わせ」と銘打ち、石田を招いてM‐1の振り返り解説を行なっているが、その異常なほど細かく鋭い分析は岡村も舌を巻くほどで、YouTubeにアップされた音声には「石田の解説凄すぎる」「やっぱりM‐1獲った人間の頭脳は違う」など絶賛コメントがあふれた。

 今やTVだけではなくSNSやYouTubeなど、芸人の活動する場が広がっている中、石田は各メディアの特性を活かし、実力に恵まれながらも「一流漫才師」感を前面に出さず、「中間」のポジションをうまくキープしている。石田こそはまさに視聴者をして「個人的には嫌いじゃない」と堂々と言わしめる存在たりえているのではないだろうか。

 年齢的(39歳)にも中堅と言える石田だが、安定性を保ちながらも漫才の才能という“牙”は常に磨いているだけに、今後は「個人的には嫌いじゃない」から「嫌いじゃない」、さらには「わりと好き」へと変換し、「一番好き」に辿り着く。視聴者たちの印象が変化する日もそう遠くないかもしれない。