スマホのカメラ機能の向上とともに、日本のデジタルカメラ市場は縮小傾向に歯止めがかからない。全国の家電量販店やECショップでPOSデータを集計する「BCNランキング」によると、2018年のデジタルカメラ市場は絶頂期だった2010年の約30%にまで縮小しているという発表もあった。そのなかでも、とくにスマホとの競合にあたるコンパクトデジタルカメラはかなりの苦戦を強いられている。厳しい市況のなか、存続の岐路に立たされているデジカメの未来について、国内最大手メーカーであるキヤノンの考えを聞いた。

【画像】高感度性能のミラーレスカメラ最上位機種で撮影されたマデイラ島の絶景の夜景

■ここ3~4年で急激に売上が下がり、業界に大きな危機感が生じた

 スマホの普及により、さまざまな生活様式に変化が生じた。デジカメ業界もそのあおりを受けている産業のひとつだ。一口にデジカメと言っても、レンズ一体型で小型のコンパクトデジタルカメラと、一眼レフ、ミラーレスといったレンズ交換型では、ユーザー層は大きく異なる。キヤノンマーケティングジャパンのコンスーマ商品企画本部、阿部俊介氏は市場動向をこう語る。

「CIPA(カメラ映像機器工業会)のデータで見ると、2013年に233万台出荷のあったレンズ交換型デジカメは現在約87万台前後に、コンパクトデジカメは2007~2008年に約1000万台に近い市場規模があったのが、いまは約140万台ほどまで落ち込んでいます。どちらも下落傾向ではありますがコンパクトデジカメの下がり具合が大きいです」(阿部氏)

 コンパクトデジカメの出荷台数が下がってきたのが、2008年くらいから。その前年に初代iPhoneが発売されており、まさにスマホの普及とともに、撮影は画質よりも、手軽さと通信によるコミュニケーションの要素が重視されるようになってきた。確かにこのころから、子どもの運動会やお遊戯会などで写真を撮る親がデジカメではなく、スマホを手にしている姿が目立つようになってきた。

「スマホの影響をダイレクトに影響を受けているのはやはりコンパクトデジカメです。一眼レフやミラーレスカメラは、ハイアマ(ハイアマチュア)向けモデルはそこまで大きな変化はないのですが、エントリー機と言われる初級者モデルは、やはり影響があります」(阿部氏)

 それでもデジカメ業界全体で見れば、2013年ぐらいまでは、一眼レフ、ミラーレスなどの売れ行きが好調であり、一定の規模を維持していた。急激に市場が落ち込んできたのはここ3~4年だと阿部氏は言う。

■スマホへの敵対意識はない 親和性のある製品開発による共存がベスト

 近年、スマホは“手軽さ”だけではなく、〇〇万画素と、画質のキレイさを謳う機種も増えてきた。コンパクトデジカメがスマホに勝る“クオリティ”の部分でも、着実に歩みを速くしている。得意分野においても後ろに足音が聞こえてくる状況のなか、メーカーの意識を聞いてみた。

「確かに高画質を売りにしたスマホも登場していますが、さらなる高画質、高倍率、防水というスマホに勝る部分で差別化できる、コンパクトデジカメならではの製品を打ち出すことが重要だと思っています。また、対立構図として報道されがちですが、若年層を中心にSNSによる情報発信が進んでおり、写真を撮る機会が増えてきていることに対してはむしろビジネスチャンスと捉えており、我々としては、スマホに対して敵対意識を持っているわけではありません。比較される選択肢ではありますが、親和性のある製品開発により、アプリでの連動など共存できることがベストだと思っています」(阿部氏)

 こうした発想のなか、キヤノンが12月下旬に発売するコンセプトカメラ「iNSPiC REC(インスピック レック)」では、新しい撮影スタイルを提案する。このカメラは、手のひらサイズの小型軽量という特徴とカラビナデザインで携帯性に優れ、防水機能・耐衝撃性能に長けている。服やバッグに簡単に取り外しが可能で、スマホより動作回数が少なく、手軽に撮影が可能。水深2メートルにも対応し、スマホにはない撮影機能を追求している。ディスプレイが搭載されていないため、撮影したデータはスマホで閲覧、保存と、両方のメリットを活かし、お互いの機能を補いながら共存していくことを図る。

「若者を中心とした生活スタイルに、新しい性能を持った新コンセプトのデジタルカメラを提案することで、“カメラで写真を撮る”という行為をもっと身近なものにしたい」(阿部氏)

■とことんこだわったカメラで写真や映像を残す価値はこの先も消えない

 スマホのカメラ機能の向上、デジカメを使わないSNS世代の増加といった要因が止まらない市場縮小の背景にあり、世の中的には、近い将来、デジカメがスマホに取って代わられるのでは、との見方も出てきている。それに対して、「ダウントレンドであることは、携わる人間は誰もが自覚しています。デジカメがこの先、すぐになくなることはありませんが、30年後はわからない。そのために10年、20年後を見据えています」と語る阿部氏だが、危機感を持ちながらも、悲壮感はない。

 カメラは、日本が世界に誇る光学技術を結集した、誰もが使える製品であり、レンズ越しに収められる、あらゆる瞬間を切り取る芸術は、カメラあってこそ生み出される文化でもある。そこには、多くの人の日常生活に“豊かさ”を与える、社会における存在意義がある。

 そういった自負や誇りをにじませる阿部氏は、「写真や映像として残す価値は、この先もずっと消えないと思っています。我々の目標は、プロダクトやサービスを含めて、写真の価値をいろいろな方に理解していただいて、その楽しみを世の中に提供し続けること。そのなかで『スマホでいい』と思われない最適なハードやサービスを提供していきたい。嗜好品に近い部分はあるので、こだわるところはとことんこだわって作っています。作り手の思いを含めてしっかり届けていきたいと思っています」。未来へ想いを馳せながら、カメラメーカーとしての矜持を語ってくれた。

 日本の匠の結晶が詰まったカメラ。そこには、単なる利便性や合理性だけでは計れない、人々の生活に根ざした庶民の文化としての価値と役割がある。カメラ好きな人たちは年配層が多いが、マスではなくても、若い世代にもいろいろな趣味趣向のジャンルにそういう人たちがいることは心強い。一方、「まだまだ若い人へのコンタクトポイントが少ない」と課題を挙げる阿部氏だが、「技術力を駆使したカメラで、若い人に“写真を撮る”ということの豊かさやリテラシーを植え付けていくことが今後は大事になってきます」と前を向く。
(文/磯部正和)