合成麻薬MDMAを所持していたとして麻薬取締法違反の容疑で逮捕された女優の沢尻エリカ容疑者。出演予定だった大河ドラマ『麒麟がくる』は再撮により放送延期、オンエア中のCMも放映中止になるなど、大きな波紋を呼んでいる。今回の件で、ワイドショーやネットで活発に議論されたのが、薬物検査の是非だ。芸能人側からも「薬物検査のルールを設けるべき」との意見が出る一方、「人権侵害」を理由に否定的な意見を述べる人もいる。多額の賠償問題にも発展しかねない事情である本件について、『芸能人の権利を守る 日本エンターテイナーライツ協会』の発起人であり、様々な情報番組でコメンテーターとしても活躍する佐藤大和弁護士に話を聞いた。

【写真】布が少なすぎ? 美脚&美ボディあらわな大胆露出の沢尻エリカ

■テレビ局と事務所が「薬物検査」を出演条件にしても、タレントに強制はできない

――沢尻容疑者の逮捕によって大河ドラマの放送開始が延期になるなど、大きな影響が出ています。その際、「未然に防げなかったのか」という観点で、出演者に「薬物検査を行う」ことへの是非については、弁護士の立場からどのようにお考えでしょうか?

【佐藤弁護士】私は制作会社や映画会社の代理人をすることもあるのですが、タレントや俳優ら芸能人が薬物問題を起こすことによって、作品がお蔵入りになったり、再撮で費用が莫大にかかったり、経営的な危機に陥ってしまう事例を何度も見てきました。その意味で、薬物検査を行うことは非常に大切なことだと思っています。一方で、薬物検査を強制的に行うことは、確かに「人権侵害」であり、大きな問題が生じるかなとは思っています。

 ただ、あらかじめ十分に説明し同意を得たうえで薬物検査をし、問題のなかった芸能人が作品に出演するという制度は導入していくべきだと思っています。同意を得れば人権侵害という部分はクリアできる。タレントさんの自覚を促すうえでも、第三者の機関を立ち上げて、薬物検査を事前にしておくというのは大事なことだと思います。芸能界は、これまでは口約束や、信頼という部分が美徳とされてきていますよね。もちろんそれは大切なことかもしれませんが、過度にセンチメンタルな部分を大事にし過ぎて、契約をないがしろにしてはいけないと思います。新しい慣習を作っていくべきです。

――あくまで強制ではなく、同意のもとならば、人権侵害にはならないということですね?

【佐藤弁護士】例えば、芸能事務所とテレビ局が、「タレントに薬物検査させることを出演の前提条件にします」という契約を結んだとします。ですが、その契約をもとに芸能事務所がタレントに薬物検査を強制できるかというと、それはできないんです。芸能事務所による、タレントに対する人権侵害になりかねない。あらかじめ、芸能事務所とタレントのマネジメント契約書のなかで、「ある作品に出る場合、薬物検査が条件にあったら同意する」と条項を入れる必要がある。その際、「でもあなたにも拒否権はあるので、いやだったら受けなくてもいいです。ただその代わり、作品には出られませんが受け入れてくださいね」と付け加えれば、「人権侵害」にはならないです。

――事務所とタレントのマネジメント契約を締結するうえで、「薬物検査を受けなければ契約をしません」と説明することは問題ないのでしょうか?

【佐藤弁護士】問題ないと考えています。コンプライアンスを考えた場合、一般企業でも「薬物使用者を入社させない」というのは法令順守の意味でも間違っていることではない。芸能事務所でも同様です。薬物検査を条件にすることは合理的な区別であり、憲法に違反する差別でもないため、僕は問題ないという立場をとっています。芸能人の権利を守るためにも、行うべきだと思います。

■芸能人の権利を主張する立場でも…「権利があるならば義務も大事」

――お話を聞いていると「人権侵害」の部分をクリアすれば、薬物検査を実施することは芸能人自身を守ることにもなると思いますが。

【佐藤弁護士】僕は芸能人の権利を主張する側の弁護士ですが、多くの人たちが関わる作品に出演する以上、適正な検査を受けることは芸能人の「義務」だと思っています。もちろん拒否権はありますが、なるべく応じていただきたい。芸能人の権利ばかり主張していると思われがちですが、権利があるならば義務も大事。それは芸能人の方々にも伝えていかなければいけないと思います。

――今後数年で、芸能界も薬物検査導入などの方向に進んでいきそうですか?

【佐藤弁護士】僕は推進している立場なので、そうなることを願っています。芸能事務所側でも、薬物検査導入に賛成している人、反対している人、それぞれいると思います。ただ、世の中の動きがコンプライアンスを徹底する方向に向かっている以上、遅かれ早かれ芸能事務所もそれにならう流れになっていくでしょう。以前は、芸能界特有のしきたりが存在し威力を発揮していましたが、ここ数年でそういうものは通用しなくなってきていますよね。

――ただ、撮影前に薬物検査をして陰性でも、作品公開や放送が開始されるまでの間に、薬物を使用してしまうというリスクもありますよね。

【佐藤弁護士】定期的に薬物検査を行う必要はありますが、それでも薬物によっては反応が数日で消えてしまうものもありますし、検査しても100パーセント防げるものではないでしょう。ただ、60~70パーセントでも防げれば大きな前進になるだろうし、定期的に検査を行うことでタレントの危機管理意識も高まると思います。

――こうした手順を踏めるならば、薬物検査を導入することのデメリットはなさそうですね。

【佐藤弁護士】今後はそうなっていくべきだと思います。芸能の世界をクリアで透明性のある業界にしておかないと、結局、損害は誰が被るのかということになります。薬物によって逮捕され、作品がお蔵入りになるなどした場合、損害賠償請求は出演契約をした芸能事務所もしくは事件を起こした当事者(タレント本人)にいくかもしれませんが、それが払えなかった場合、最終的には制作会社が負担することになる。下手したら会社が倒産してしまいます。

――今回のような事件が起こり、再撮になった場合に多額の費用が発生すると思うのですが、実際に損害賠償請求はどのようにされるのでしょうか?

【佐藤弁護士】第一次的には、制作側(テレビ局)から芸能事務所に損害賠償請求がされると思います。今回について言えば、出演契約はNHKと沢尻さんの所属事務所の間で結ばれている。だから、契約に基づく損害賠償は、基本的には芸能事務所側にしていきます。その後、芸能事務所がタレントに対して損害賠償請求をしていくという流れですね。たた、不法行為に基づく損害賠償請求というのもあります。契約のない関係でも、自分たちに対して不法な行為をした人に対して損害賠償請求はできる。その意味では、NHKがダイレクトに沢尻さんに損害賠償請求をすることは可能です。

■事務所が賠償を肩代わりした事例も…、リスク回避のためにも検査は必要

――タレント本人に支払い能力がない場合は、所属事務所が肩代わりするという形の決着なのでしょうか?

【佐藤弁護士】そうですね。これまでも、同様の事例はあったと思います。だからこそ、そういったリスクを背負わないためにも、芸能事務所は定期的に薬物検査を行う必要があるんです。セミナーなどを開いている事務所もあるようですが、やはりセミナーと講習、薬物検査等はセットで考えていったほうが良いと思います。コンプライアンスは徹底していくべきだし、芸能人に「権利と義務」を教えていく必要があります。研修義務は人権侵害ではないので、しっかり課していくべきです。

――薬物検査はもちろんですが、こういった事件が起きないようにするためには何が必要なのでしょうか?

【佐藤弁護士】芸能界をクリーンにして、エンタテインメント業界を健全にすることが、日本のソフトコンテンツを世界に示していく土壌作りになると思います。今こそ、芸能界特有の家族的な感覚ではなく、会社として、ビジネスとして律していくべきだと思います。

(文・磯部正和)

<プロフィール>
佐藤大和(さとう・やまと)。レイ法律事務所代表弁護士。2017年に、芸能人の権利を守る団体である「日本エンターテイナーライツ協会」を立ち上げ、共同代表理事を務める。エンタテインメント、芸能法務、マスコミ対応、企業法務、第三者委員会の対応などが得意分野。厚生労働省「過重労働解消のためのセミナー事業」委員。これまで、『バイキング』(フジテレビ系)、『モーニングCROSS』(TOKYO MX)など、メディアにも多数出演。