29日に公開される太宰治の名作『人間失格』を大胆に再構築した劇場アニメーション『HUMAN LOST 人間失格』。医療革命により“死”を克服した昭和111年の東京を舞台に、文明の再生と崩壊の可能性をSFの世界観で描いた作品だ。そんな大作に不思議な力を持った少女・柊美子役として声優の花澤香菜が出演する。小説の“第一の手記”は「恥の多い生涯を送って来ました」の書き出しから始まるが、「私は恥の多い人生を送って来たかもしれません」と語る彼女に、太宰作品の魅力や今までの人生を振り返ってもらった。

【全身写真】満面の笑みを見せる花澤香菜

 『走れメロス』『斜陽』など数々の名作を世に送り出してきた太宰。学生時代は文学部だった花澤は、友人とともに太宰にゆかりの場所を“聖地巡礼”していたという。「太宰治さんの作品は全てを読んだわけではありませんが、『人間失格』は好きな作品のひとつで、友人と“三鷹散歩”をしていました」と、太宰が亡くなった場所である現在の三鷹市内を訪れて彼の軌跡を辿ったと告白。

 その中で『人間失格』に対しては「とにかく主人公がモヤモヤしているのが印象的です。心情描写の描き方が、共感できると言いますか、人間の暗い部分の感情を表現しているなと思いました」と文学部ならではの目線で語りながら「『男の子はこういう生き方に憧れるんだな』と思いました(笑)私の周りには彼のような文学青年がたくさん居ましたので、女性目線から見ると放っておけない魅力、色気がある人だと作品を通して感じました」と人物像も分析した。

 太宰は38歳で自ら人生を終えたが、花澤は今年30歳になり人生の節目を迎えた。このタイミングで太宰作品へ出演することも何かの縁なので、今までの人生を振り返ってもらうと、笑って答えたのは「恥の多い人生を送って来たかもしれません」という『人間失格』第一の手記の書き出し「恥の多い生涯を送って来ました」に似た言葉。

 この“恥”については、自身にとって大切な言葉だという。幼稚園児のころより子役として活動し、バラエティー番組『やっぱりさんま大先生』やテレビドラマ『ガッコの先生』などに出演してきた。10代前半に初めてテレビアニメの声優を務めたが「今の事務所に入る前のころですが、声優のお仕事を始めた時、周りが見えていなくて、アフレコ現場で泣いてしまったことがあるんです」と照れエピソードを展開。

 「ギャグアニメだったのですが、人生で言ったことのないような罵倒セリフを小さな女の子が言う設定でした。そのセリフ自体も言い慣れていなかったですし、相方の演技がうまいこともあり『うわ~、無理っー!』って」と当時を振り返る。

 「セリフが多い人が使う“主役マイク”というのを、私たちは暗黙の了解で対象となる方へ使いやすいように配慮する。でも、右も左もわからない私は業界用語、業界用具も知らなかったので、主役マイクを使ってしまい…。その後、優しい先輩が丁寧に教えてくれたのですが、その方の声がいい声過ぎて勝手に『怒られている…、やってはいけないことをしてしまったんだ』と解釈して号泣したのは今でも覚えています。今考えると現場で泣くとか…、お恥ずかしい限りです」と説明。

 ただ、“恥”から学ぶことが多かったそうで「最初は誰でも失敗をして恥をかくことはあると思います。そこから、繰り返さないように学習をして成長していくため、恥というのは必要なことだと感じました」と力強く話す。

 驚いたのは、当時の“恥”が今も縁になっているという。「その恥をかいた現場に居たスタッフさんと数年後、別の仕事場でお会いして『あの時は、すみませんでした!』と謝りました。恥は一生ついてくるものなんだと実感しています。これも何かの縁なのか、号泣したエピソードは、今作の音響監督を担当している岩浪美和さんの現場でした。今作の現場でこのお話をしたわけではありませんが、別の現場で『あの時は…ねぇ~。でも、こうして声優を続けてこられてよかったね』と話題にはなりました」。

 “恥”とともに歩んできたと言う人生だが、後悔はまったくなく、むしろ経験できたことに感謝の気持ちがあるそうで「ありがたいことに仕事に恵まれてキャリアを積み重ねてきていますが、振り返ると“恥”というのが隣に居て一緒に歩んできた気がします。声優以外でも、舞台やテレビ出演のお仕事をした際、わからないことや感覚が違うことに戸惑う瞬間がありましたが、『ここでの恥は先行投資だ!』と思って色々と挑戦するように考えています」と原動力になっていると告白。

 「その時は恥ずかしいですけど、自分のためになることなので“恥”は成長に必要なこと。過去に経験した失敗から生まれた“恥”は、無くせないことですし、これからも“恥”とうまく付き合っていきたいです」と伝えてくれた。