「沼にハマる」とは、ある物事に興味を持つうち、気づけば引き返せないほど没頭している状態のこと。ネット文化に由来するこの表現をあえて番組タイトルに冠した『沼にハマってきいてみた』(NHK Eテレ)は、放送開始から1年あまり。10代の若者を中心に、幅広い層から支持される人気コンテンツとなり、その若者の「好き」という気持ちを尊重したその番組づくりは、多くの支持を集めている。

◆個々の「好き」にクローズアップ ネットで参加したくなる工夫も

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“ハマったさん”と呼ばれる若者たちに取材し、夢中になっている趣味の魅力や奥深さなどを存分に語ってもらうのが青春バラエティ『沼にハマってきいてみた』の基本スタイル。「#NHK沼」付きのSNS投稿がトレンド入りするほど注目されるテーマも多く、数多くの「沼」が確かに存在することを世に発信し続けている。

「今は趣味嗜好がすごく細分化していて、大多数の10代はこれが好き、というものを提示しにくい時代です。以前は10代のトレンドや知りたいことを重視していたこともありました。ですが、この番組では、多種多様な個々の青春をきちっと取り上げ、掘り下げていくことに改めてチャレンジしようと。月曜の生放送は、なるべくテレビという媒体で遊んでもらえる、ネットやデータ放送でも参加したくなるようなテーマを意識しています。火・水曜は収録でじっくり話を聞き出し、たっぷり語ってもらったものを凝縮しています」(NHK制作局<第1制作ユニット>教育・次世代チーフ・プロデューサー/石塚利恵氏)

 ハマったさんから趣味にまつわる話を引き出すMC陣には、お笑い芸人・サバンナ高橋茂雄、女優の桜井日奈子(月曜)、モデルの松井愛莉(火・水曜)。

「高橋さんは、そもそも好奇心が旺盛で多趣味な方。なにより、基本的に人を肯定し、まず10代の話をきちんと聞いてくれます。愛あるいじりも含めて、トークのさじ加減が本当に素晴らしい。桜井さんは伸び盛りの女優さんですし、松井さんも人気モデルですが、どちらもとにかくリアクションが素直。知らないことは知らないと言える方たちで、未知の物事に対して変に構えたり、否定から入ったりといった部分がなく、より10代の感覚にも近い。結果、ハマったさんたちも楽しくそれぞれの沼への思いを言葉にしてくれる環境が実現できているのだと思います」

 番組では、本放送の見どころダイジェスト動画や、収録時の小ネタ動画、さらに番組キャラクターであり、バーチャル沼チューバーでもある「ぬっしー」によるスピンオフ動画など、多様な短尺動画を公式サイトやYouTubeに連日アップ。さらにTwitterやInstagramでも積極的な情報発信を継続している。

「もちろん本放送はしっかりやりつつ、という前提ではありますが、10代の若い視聴者層にリーチするために、必要かつ使えるツールはどんどん使うというスタンスです。SNSなどネットで話題になり、後から興味を持ってくれる人たちにも、番組を知ってもらって、再放送などで楽しんでもらう。放送をリアルタイムや録画で観た人にも、もっと番組を多面的に楽しんでもらいたい、という思いもあり、ネット動画やSNSとの連動は積極的に行っています。バーチャル沼チューバーぬっしーには、人気声優の伊東健人さんが演じてくれていることもあって、固定ファンもたくさんいますしね(笑)」

◆番組がなかったら出会っていないその道のプロと若者たちをつなぐ

 番組開始からすでに110本以上を放映。なかには「謎解き」「お笑い」など好評シリーズ化されているテーマもあるが、取り上げる沼はどのようにチョイスされているのだろうか。

「まず何かにハマっている若者を見つけることから。学校や大会の主催団体にアプローチしたり、取材の過程で出会うことや、SNSでの発言をたどったりすることもあります。基本、ディレクターや制作会社がやりたいネタを上げてきて、月に1回、プロデューサー陣で集まって選定会議を行って決めています。ニッチなネタでも、今の10代ならではの楽しみ方をしているかどうかも選定ポイントのひとつ。たとえば「けん玉」のハマったさんなら、自らカッコイイ動画を撮影し、SNSにアップしてリアクションを楽しんでいるとか。今はいろんなデジタルツールもあり、楽しみ方も多様化していますので、そこが可視化できるかも大事ですね。もちろん、ハマったさんたちのキャラクター性もとても重要です。「声優」「VTuber」「ゲーム実況」など、沼が深いネットカルチャーやポップカルチャーは生放送で扱って盛り上げるといったことも意識しています」

 ちなみに、これまで特に10代視聴者から反響があった主な「沼」(リアルタイム視聴時のNHK調査による)は、工作系だと「グルーガン」「からくり装置」「紙ヒコーキ」、ムーブメント系では「謎解き」「eスポーツ」「ゲーム実況」、 憧れのアーティストや「推し」系では「バンドリ!」「Youtuber・すしらーめんりく」「IZ*ONE」。さらにマニア系では、「パンダ」「探検」「盆栽」などが、大きな反響があったという。

 そして11月20日には、Perfumeと高校生ハマったさんたちのコラボ回が放送された。彼女たちの新曲のステージ演出の要となるダンス・衣装・テクノロジーというそれぞれの沼にハマった高校生53人が、実際のPerfumeのライブ演出に挑戦する姿が大きな反響と感動を呼んだ。

「他の沼に興味のない若者同士や、こういう番組がなかったら出会っていないその道のプロと若者たちをつなぐ。それは、もともとこの番組が実現したかったことのひとつです。好きなモノを扱うことは、断絶を超えるパワーを持っていると思います。大げさではなく、国境も性別も世代も軽々と超えていくポテンシャルがある。番組をつくりながら、日本にはこんなにすごい10代がいるんだ、という発見で私たちも元気をもらえています。教えてもらうことも多い。好きなことを持っている子って、いろんな困難を乗り越えられる強さがあるんですよね。そんなハマったさんたちが大事にしている世界だからこそ、リスペクトの気持ちを持って、知ったかぶりせず、ゼロから話を聞くことは常に意識しています。自分の沼がまだ分からないという子たちにも、興味を持ってもらえるよう、丁寧な番組づくりを継続していきます」

 なお、Perfumeの放送は「45分拡大版」として、12月22日(日)0:30~1:15(土曜深夜)に再放送を予定している。
(文/及川望)