興行ランキング4週連続1位を獲得した『ジョーカー』、同作を押さえて初登場1位を獲得したホラー『IT/イット THE END “それ”が見えたら、終わり。』の洋画2作が日本でもヒット中だが、米国では今年の映画シーン全体的にR指定映画が好調。ジャンルもヒットの理由もさまざまだが、大人が楽しめる映画へのニーズが高まっているようだ。

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■多様なジャンルの“大人向け映画”ニーズが高まっている

 今夏の時点で、米国のボックスオフィスにおける最大のニュースといえば、興収TOP6作をディズニー関連映画が独占したというものだった。それも、すべてフランチャイズや続編。『アベンジャーズ/エンドゲーム』『ライオン・キング』『トイ・ストーリー4』『キャプテン・マーベル』『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』『アラジン』という強豪たちは、多くの家族連れを動員し、子どもたちの目を輝かせた。ところが、これらの作品群にはない、新鮮な大人向け映画を求める層にとっては、必ずしも満足のいく夏ではなかったようだ。

 夏の終わり頃からは、そんな米ボックスオフィスをR指定映画が席巻し始めた。ブラッド・ピット&レオナルド・ディカプリオのダブル主演で、クエンティーノ・タランティーノ監督が古き良きハリウッドを描いた『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(7月26日公開)に始まり、『IT/イット THE END “それ”が見えたら、終わり。』(9月6日公開)、『ハスラーズ』(9月13日公開)、『ジョーカー』(10月4日公開)、『パラサイト』(10月11日公開)などが立て続けに特筆すべき結果を出している。

 興味深いのは、これらの作品のジャンルが、コメディ、ドラマ、ホラー、犯罪、サスペンスとさまざまであること。「今年はこのジャンルが来ている」というよりは、「大人向け映画のニーズが高まっている」という分析のほうが近そうだ。そして、上記のどの作品も、そのニーズを満たす見応えのある内容で、程度は異なれど、映画祭でのバズ、批評家の賞賛、観客による口コミを味方につけている。

■夏に満足できなかった大人に刺さった『IT/イット』

 米国では9月初旬に公開された『IT/イット THE END “それ”が見えたら、終わり。』。公開初週末の興収は、前作の1億2300万ドルを下回る9100万ドルであったものの、同週末の2位~10位までの作品興収の総計より高い数字で、ボックスオフィスを制覇。これまでに米国内で2億1140万ドル(11月13日現在)を稼いでいる。

 同作のレビューは賛否両論。3時間という長尺ながら、観客の支持を受けた理由について、興行アナリストのポール・ダーガラべディアン氏は「抜群のタイミング」とする。夏の大人向け映画が不作だったために、映画館に行く理由を見失っていた映画ファンたちにハマったというのだ。また、前作からちょうど2年後という公開時期は、キャラクターへの興味が薄れず、かつ満腹感もないという、こちらもちょうどよいタイミングだった。

■R指定の王者ジョーカーをデッドプールが祝福?

 R指定映画として史上初となる世界興収10億ドルを視野に入れているのは、日本でもヒット中の『ジョーカー』。米国だけでも3億1500万ドルを稼いでいる(11月13日時点)。こうしたなか、これまでR指定映画としての興収記録を保持していた『デッドプール』シリーズのライアン・レイノルズが、ツイッターに投稿したポスターも話題となった。

『ジョーカー』のメインビジュアルとしておなじみの、階段でホアキン・フェニックス演じるジョーカーが天を仰いで踊る画の下に、「デッドプール、ネオ(『マトリックス:リローデッド』)、ペニーワイズ(『イット』)、キリスト(『パッション』)、ヒュー・ジャックマン(『ローガン』)、ザ・ウルフパック(『ハングオーバー!! 史上最悪の二日酔い、国境を越える』)、ミスター・グレイ(『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ』)、テッド(『テッド』)」と歴代のR指定スターたちの名前(役名、俳優名、愛称と表記はさまざまだが)を羅列し、一番上にハートマークを付けたもの。自身の記録が破られたことをユーモアたっぷりに嘆くことで、最大級の賛辞を贈る、なんとも気の利いた投稿で話題を巻き起こした。

■大人の女性を取り込んだ『ハスラーズ』

 大人の女性層の支持を集めたのは『ハスラーズ』。2008年のリーマンショック前後を舞台に、ニューヨークのストリップバーで働く女性たちに焦点を当てた犯罪ドラマで、ジェニファー・ロペスやコンスタン・ウー、カーディBらがストリッパー役を演じている。ポスターやトレイラーでは、派手なネオン・サインやピンクのロゴに目を奪われるが、観終わった後に抱く感覚は、観る前とは大きく異なる。物語はリアルで重みがあり、メッセージには説得力があるのだ。

 また、「女性による女性についての映画」というコンセプトのもとに、トレーラーも過剰にセクシュアルにせず、女性たちの人間性にフォーカスした。SNSフォロワー数と興収は比例するものではないが、ロペスの1億人、カーディ・Bの5000万人というインスタグラムのフォロワー数も、今回ばかりは吉と出たようだ。

■韓国映画『パラサイト』もロングラン&オスカー入りの予感

 外国語映画として、R指定枠を盛り上げているのは、韓国のポン・ジュノ監督による『パラサイト』。11月13日時点での米興収は1131万ドルだが、強力な口コミと高評価により、最終的には2000万ドルに到達すると予測されている。米国においてもっとも有名な韓国人監督の1人であるポン・ジュノですら、これまで『スノーピアサー』(2013年)の460万ドルが米興収記録であったことを考えると、『パラサイト』の強さがよくわかる。ハリウッドの複合映画館では、複数スクリーンで上映しているにもかかわらず、チケットが取れない夜もある。

 同作成功の裏には、『カンヌ国際映画祭』の最高賞という名誉はもちろん、米配給を担当するネオンのマーケティング戦略があったようだ。同社のマーケティング担当者が米メディア「デッドライン」に語ったところによると、米国用のトレーラー制作においては、「ヒッチコックの映画公開方法を見習った」とのこと。ネタバレ要素は言うまでもなく、ほんの少しの手がかりもトレーラーから完全排除し、映画館で驚きを体験してもらうという手法だ。

「とにかく観て」と勧める口コミが拡大しており、観客層は男性が多いものの、年齢では35歳以上と以下の比率がほぼ同じと言われており、幅広い“大人”を映画館に動員しているようだ。『アカデミー賞』においても、外国語作品賞はもちろん、作品賞、監督賞へのノミネートを予想する声もある。

■R指定映画の内容的なおもしろさに改めて気づかせた

 このようにジャンルもマーケティング手法もさまざまでありながら、今年の米興行を潤しているR指定映画。そこには、フランチャイズや続編大作ばかりとなった夏の反動もあるが、そういった作品にはない、大人向け映画の内容的な深さや映像描写のおもしろさに改めて気づいた人たちも多いはずだ。

 ビジネスとしては、少しでも興収を増やすためにR要素を削るという大作に多い流れは間違いではない。しかし、映画とはそれだけではない。文化として多様な作品があるべきであり、そうした作品がヒットすることで、シーンからさらなるヒットが生まれていくのであろう。

 いままさにハリウッドを席巻しているR指定映画の波は、おもしろい映画のためならば、子どもやファミリー層ばかりではなく、大人たちも喜んで劇場に足を運ぶことを改めて証明している。
(文:町田雪)