「『大人になるとツライことばかり』って、(気持ちはわかるんだけど)若い人にはなるべく言わないほうがいいと思うって漫画」というコメントを添えてTwitterに投稿された漫画が話題になっている。投稿者は漫画家のオキエイコさん。「大人が辛くないわけなんてない」こともわかったうえで、「むしろ昔の自分に対してこの漫画を描いていた」と語るオキさん。投稿のコメント欄を見て、意外にも「大人って楽しい」というコメントが寄せられたことに驚いたという。この漫画を描いたきっかけや、“社会人”への思いについて語ってもらった。

【漫画】「大人になるとツライことばかり」若い人には言わないほうがいいと思った話

■「楽しいのは今のうちだよ」その言葉を聞くたびに感じていた絶望

 オキさんが、「大人になるとツライことばかり~」の漫画を描こうと思ったきっかけは、学生時代の恩師に会ったことに始まる。

「最近、学生時代の恩師にお会いする機会があって、それで自分の学生時代のことを無意識に振り返ったんです。『20代の若者たちへ』みたいに偉そうに描いていますが、実は描いている内容は、全て『過去の自分』に向けたもの。昔の自分が欲しかった答えや求めていた言葉を、今の自分が届けられたら…と思いながら描きました」

 漫画には「楽しいのは今のうちよー、小学生になったら毎日楽しくないんだから」と大人から言われた当時6歳のオキさんが描かれている。何をしても浮いてしまう気がして、常にビクビクしていた。学生時代には窮屈さしか感じていなかったので、大人たちからの「楽しいのは今のうち」という押し付けには“今ですらも楽しくないのに…”と「絶望感」すら覚えたという。しかし、大人になるに連れて“図太さ”が身についたり、経験を積み重ねてうまく交わすことができるようにもなっていった。社会人として働いたことで、お金も自由も手に入れることができたオキさんは「大人って楽しい」を実感することができたのだという。

■実はたくさんの人たちが「今を楽しんでいる」ことを知ってうれしくなった

 これから大人になっていく人たちが、「自分の未来は明るい!」と思えるようになってほしい。「大人は楽しくない」という言葉を若い人たちに植えつけたくない…。その一心で描いた漫画の投稿には、「私も10代前半の頃より、今の方がずっと楽しいです」「大人になってからの方が生きるのが楽になった」など肯定的な意見が多く集まっていた。

「むしろ私は、『大人の方が辛いわ、このやろうー!』的なリプライがもっと届くと思っていました。炎上覚悟というわけではないのですが、世の中そんなに「今が楽しい」と思う人ばかりではないと知っているので…。でも蓋を開けてみると、圧倒的に「わかる、大人って楽しいよね!」という反応の方が多くて驚きました。普段の会話やツイートで、「今楽しい~」なんて言っている人はそう多くない印象でしたが、言わないだけで実はこんなにもたくさんの人が今を楽しんでいるんだなと嬉しくなりましたね」

 漫画について多く寄せられたコメントの中でも、社会に出る前の学生さんたちから届いたものは、オキさんの中でも特に強く印象に残っている。

「やはり若い人からの『今まさに絶望していましたが、大人になったら楽しいことが待っていると思って頑張ります』という言葉は印象深いです。大人が『楽しいのは今のうちだけ』などと言うのは、若い人に対するマウントでしかないなと。咲くかもしれないツボミを、咲く前に摘んでしまうようなことはしたくないんです。若い人たちに、少しでも希望の光をさせたらという思いでした」

■大人になるとどれだけ変わるの? SNSで繰り広げられた学生さんとの対話

 「大人になると~」の漫画を受けて、「実際にどう変わったのか教えてほしい」と学生さんからさらにコメントをもらったオキさん。「社会人になって、学生とは違う自由を得られた話」という漫画には、オキさんなりの答えが描かれている。

 漫画はオキさんが学生時代どのような子どもだったかという話から始まる。普通の行動をしているつもりなのに、なぜか笑われる。存在感をどうしたらなくせるのか悩み続け、“変な人”と思われないよう注意深く生きてきたという。

「とにかく学生時代は『こうでなければいけない』という仕切りがあって、そこに入れない自分は『ダメな子だ』と思わされる場面が多かった。『〇〇しなさい』と言われても、『どうして〇〇じゃなきゃダメなの?□□じゃダメ?』という気持ちになっちゃう。そしてそれが声に出てしまう。友達は多い方だったのですが、なんとなく居場所がない窮屈さを感じていましたね。とにかく『嫌われないように』していました」

 環境がガラリと変わったのは、高校に入学してから。オキさんが入ったのは、美術系の専門クラスで、変わっている子を40人集めたようなクラスだったという。そこでは悪目立ちすることはなく、“自分を抑えず楽しめる環境”を手に入れることができた。専門分野になるほど理解し合える仲間が増えることが分かったオキさん。社会人となって、さらなる変化を実感したという。

「学生時代は自分の努力以前に、生まれたときから持っているカードで戦っている感がありました。生まれた土地、親の経済力など、自分ではどうにもならない部分で勝負している感が否めなかった。対して社会人になると、自分に決定権があるし、給料の使い方も自分で決めることができる。“本当にやりたいこと”を優先できる環境があったんです」

 当然、学生よりも責任は大きくなるし、リスクも増える。合わない人だっているし、仕事でミスをして消えたいと思ったこともある。それでも、社会では色々な役割の人が集まって仕事を進めるので、学生のときのように“一律であること”は求められない。もともと持っていたカードに加え、さらに自分で手持ちのカードを増やして戦うこともできる。それが、オキさんが感じた“社会人の自由”だった。

 今後は漫画家としてSNSなども含めて、どのような発信をしていきたいとオキさんは考えているのか。

「漫画を描くときには、『読み終えたとき、少しハッピーになれるような漫画』を心がけています。そして同時に、『この漫画を読んで悲しい気持ちになる人がいないか』を気にして描いています。最近はありがたいことに、SNSや情報サイト、本など様々な媒体でお仕事させていただいているので、これからも読んでくれる人がちょっとハッピーになれる漫画を心がけていきたいと思います」