哀愁と浪漫を掻き立てる旧日本海軍艦艇。疾走する軍艦が作り出す波や海の模様を表現する鳶色2号氏と、九十四式46センチ砲を備え、当時世界最大最強と謳われた『戦艦大和』を緻密に再現した渡辺真郎氏。2人のトップモデラーが考える“機械が生む美しさ”とは?

【写真】大和の甲板をズームアップ!よく見ると1/350の兵員たちが生き生きと躍動!!

■歴史を知り「非力」「悲壮」「反骨」といったイメージを艦艇に重ねる(鳶色2号)

 先ごろ、日本海軍航空母艦『加賀』と『赤城』がミッドウェー沖の深海で発見され話題となった。軍艦『大和』をはじめ、日本海軍の艦艇は今なお人気だが、鳶色2号氏にとっての憧れは「第二次世界大戦時の日本海軍の小艦艇」なのだそう。その理由として、「各国の同じクラスの軍艦を並べるとよく解りますが、日本の船は“日本人が美しい”と思う形をしています」と解説する。

 モデラーは模型の資料を集める過程で、対象物の背景にも触れ、小艦艇のエピソードや乗り組んだ人々の内情を知るにつけ、非力、けなげ、闘志、悲壮、反骨、精一杯といったイメージを艦艇に重ねて見るようになるのだそう。「そこが日本軍艦艇の魅力となりました。小型艦の方が、模型的にダイナミックな動きを付けられるという側面もあります」

 では、制作された中で一番好きな作品は何なのか。

 「軽巡洋艦時代の『三隈』(後に重巡洋艦となる)を再現した『30ノット』という作品です。特に、大型高速艦の生む巨大な艦首波とそれに続く航走波の表現は気に入っています。非常に稀なケースなのですが、準同型艦『鈴谷』の高速走行を飛行機から撮った写真が数枚遺されており、それを参考にリアルな波形の表現が出来ました」

 前述の通り、艦船が起こす“波表現”にこだわりを持つ鳶色2号氏だが、技術を高める過程で“壁”もあったのだそう。中でも「船の部分では、実艦の資料に限りがあり不明点が多くある事。海の部分では、表現方法が無数にあってすべてを試すことができない事」だと強調する。

 その壁をどう突破したかについて、氏は「船の正確さの追求については、適度に切り上げることにしました」と打ち明けた。その理由として「適度とは人それぞれで違いますので、おのおのが良いと思うところで切り上げればよいと思います」と説明する。

 もちろん、“本物っぽい作品”を制作するためにはそれなりの知識と情報が必要となるため、一通りの調べ物はするとのこと。つまり「答えの出ない(出にくい)考証の時間は適度に割り切って、制作の為の時間に振り替える」こと。スケールモデル制作においては、考証に対する適度な“割り切り”も大事なテクニックのひとつだと教えてくれた。

■模型作家として目指すのは「艦船模型と建築模型を融合した作品」(渡辺真郎)

 自身のモデラーとしての“強み”について、「艦船模型と建築模型を融合した作品」と語る渡辺真郎氏。以前に建築模型の制作会社に勤めていた時代があり、その時に身に着けた技術を取り入れ、港湾施設の情景模型の制作をはじめたことで一般の艦船モデラーとは違った表現方法を得るに至ったとのこと。

 「港湾施設の作品のモチーフは、戦前に撮影された写真や、旅行などで訪れた思い出深い情景をそのまま表現することもあります。もちろん、建物などの図面は手に入らないので、現地の写真や地図を参考に寸法を割り出し、自分で図面を書く必要があるのですが、キットだけでは表現できない世界観を作り上げる喜びが味わえるので、非常にやりがいを感じています」

 そんな渡辺氏にとっての代表作は、今年2月に発売された『艦船模型スペシャル No.71』の掲載作例として制作した1/350戦艦『大和』なのだそう。氏は、『大和』は思い入れの深い船なので、これまでの制作経験の全てを注ぎ込むとともに、「日本海軍最後の水上部隊の最期の姿に想いを馳せ、厳粛な気持ちで制作しました」と、当時を振り返った。

 続けて、渡辺氏はスケールモデルについて「一番得意なことであり、私にとってひとつの生き方を示してくれた存在」と強調する。ただし、スケールモデルという分野だけを見ていると視野が狭くなってしまいがちなので、「より幅広く、アートやモノづくりの世界を見て、自分自身の引き出しを多く持つことも大切にしたい」と考えを語った。