アイドルを目指す女の子とアイドルを辞める女の子。両極端の両者が崖っぷちに立たされてもがく姿を映し出した映画『IDOL-あゝ無情-』が11月1日より公開される。同作は、BiSH、BiS、GANG PARADE、EMPiRE、WAggが所属する音楽事務所・WACKのオーディションと、その裏側で起きていたある悲劇を捉えたドキュメンタリー。その壮絶な現場を一般公開する意図とは? WACK代表であり本作のプロデューサーを務めた渡辺淳之介氏、岩淵弘樹監督、そして被写体の1人となったBiSHのアユニ・Dに集まってもらった。

【インタビュー動画】アユニ・D、過酷な撮影現場を監督とプロデューサーへ問いかける

■切り取れば切り取るほど残酷な物語がそこにはある

──WACKのオーディション密着ドキュメンタリーは過去にも数作公開されてきましたが、本作はいつにも増して鬼気迫るものがありました。
【渡辺淳之介】僕としてはこれまで以上に普遍的な作品になったと思っていて。もちろんオーディションから脱落する子とか、アイドルグループの解散劇とか、切り取れば切り取るほど残酷な物語がそこにはあるんですけど。映画になるかどうかはともかく、オーディションの記録映像はいつも撮っているんですね。ただ今回は、WACK所属メンバーのファンとかアイドルに興味がある人だけでなく、広く一般の人たちに刺さりそうな内容が撮れたので、前作(『世界で一番悲しいオーディション』2019年1月公開)からあまり間を置かずに公開することにしたんです。
【岩淵弘樹監督】口当たりのいい言葉や態度ではもはや人の気持ちは動かせないというのは、WACKのアイドルにも通じることですけど。人間のむき出しの感情が全編にわたって収められているという意味では、誰が観てもズシンと残るものがあるドキュメンタリーになったと思います。

──アユニさんはご自身も出演していますが、完成作をご覧になっていかがでしたか?
【アユニ・D】私はオーディション合宿の3日目からの参加だったこともあって、見ていない場面も多かったので、映画で初めて知ったことがほとんどでした。こんな殺伐とした出来事が起こっていたんだなと。あと、カメラの台数がすごく多かったのは気になっていました。
【渡辺淳之介】今回はオーディションだけでなく、第2期BiSの戦力外メンバーとのやりとりも撮っていたので、前作の3倍くらいのカメラマンを入れているんです。あと過去のオーディションの記録は男性カメラマンだけで撮っていたんですけど、女性の視点で切り取ったらまったく違う映像が撮れるんじゃないかという仮説を立てて、女性カメラマンも何人か入れたのが今回初めてのことでしたね。

──そういう部分では、いつもとは違う映像が撮れましたか?
【岩淵弘樹監督】もちろん女の子たちの部屋など、これまで男性が踏み込めなかった距離感の映像は撮れましたけど、それ以上に女性カメラマンは感情移入しすぎてしまうんですよね。実際、脱落して泣いている子と一緒に泣いてしまって、カメラが回せない事態になっていたこともありました。そういう意味では、編集する上ではあまり女性目線はフィーチャーしなかったかもしれないです。

──男性カメラマンであれば、その場で起こっていることを冷静に撮れる?
【岩淵弘樹監督】そのためにこの現場に来ているわけですし、変に空気を読みすぎてしまうと何も撮れないですから。脱落して泣いている女の子に「なんで泣いてるんですか?」って聞きにいくのがカメラマンの仕事なので。その子からしたら、そんなの見ればわかるでしょ、そっとしといてよと思うでしょうけど。
【渡辺淳之介】そこはやっぱり彼女の言葉がほしいですよね。映像って情報量が多いようで、実は何も語っていなかったりするので。でもさすがカメラマンさんたちはプロだなと。無理やり聞くとかも面倒だし気にしちゃうので僕だったらたぶんああいう場面で聞きにいけないと思います。

■ギリギリの精神状態になる前から容赦なくずっと撮られている

──本作では渡辺さんが女の子たちに投げかける言葉も印象的でした。なかでも第2期BiSのメンバーの1人が精神状態ギリギリになり、「ここは映さないでください」と泣きながら訴えた。それでも渡辺さんは「カメラがあることが当たり前じゃん、芸能界だよ」とカメラを回し続けた場面がありました。
【渡辺淳之介】この作品を撮っているカメラマンからしたら、絶好のシーンじゃないですか。そこを撮らせないという選択は、プロとしてはあり得ないんですよ。そもそも24時間密着でカメラが回っていることが前提でしたから。それでもどうしても「ここは撮られたくない」と思ったら、カメラがいなくなったところで僕らに言うべき。表舞台に立つ人間としてそのくらいは計算してほしかった。

──アユニさんはこの合宿中に「撮られたくない」と思った場面はありましたか?
【アユニ・D】もちろんずっと撮られていること自体、嫌でしたよ。だからベッドも一番端っこを選びました。だけど24時間ニコニコ生放送されていることはわかっていたので、そこはしょうがないというか。

──アユニさんはこの合宿が終わってもBiSHのメンバーとして活動することに変わりはなかったわけですが、もし自分が候補生や戦力外メンバーだったら、あの場面を「撮られたくない」のは共感できますか?
【アユニ・D】うーん、そこは私の性格の問題なんですけど、人の気持ちはよくわからないです。ただ精神状態がギリギリになる前から容赦ない場面はずっと撮られているわけだから、今さら「撮られたくない」というのも違うなって思うかもしれないです。
【岩淵弘樹監督】ひとつお伝えしたいのは、本作では渡辺さんも被写体の1人なわけですよね。またプロデューサーでもある。だけど自分が都合が悪そうな場面でも、撮るなとかカットしてくれとかいう指示は一切なくて。
【渡辺淳之介】そうですね。監督に課したのは90分くらいに収めてほしいということくらい。
【岩淵弘樹監督】今までのドキュメンタリーでもわりと辛辣な場面を切り取ることが多かったので、とくにWACKのファンのなかには渡辺さん=サディストという印象を持ってる人もいると思うんです。だけど相手と真剣に対峙しているからこそ、ああいう言葉が出るわけで。
【渡辺淳之介】僕としては真っ当なことしか言ってないつもりなんですけどね。本当にやりたいことに対してだけはウソをついてほしくないとか、100%の力でやれないんだったら本当にやりたいことではないんじゃないかとか。そういう視点でオーディションもふるいをかけているところはあります。だけど、真剣にやりたいことがある人に対して、これだけ真面目に向き合う事務所ってほかにないと思うんですよ。「そんなのできっこないよ」とも絶対に言わないですし。
【アユニ・D】私はWACKしか知らないですけど、たぶんほかの事務所を受けたら絶対に落ちる人間なんです。私の勝手なイメージなのかもしれないけど、アイドルって学校一可愛くて明るい子が選ばれてなるものであって、だけど私はぜんぜん学校が楽しくなくて、人と上手にしゃべれない。そんな私みたいな人間がBiSHのメンバーになれてる。しかもアイドルとして“商品化”されないで、髪型とかキャラクターとかもありのままの自分を受け入れてくれて。そういうところに希望を持ってオーディションを受ける子は多いと思います。
【渡辺淳之介】うちには坊主頭のアイドルとかもいますしね。けど、そこは重要じゃないんですよ。本人が本当にやりたい表現を一緒に作っていくのがWACKの信条なので。だけど、僕らみたいな新興の事務所から出たBiSHが今や数万人規模を集客している。その背景に生半可じゃない覚悟と努力があっただろうことは、普通の想像力を持っていればわかると思うんですけどね。
【岩淵弘樹監督】むしろ今、面と向かってそういうことを言ってくれる大人が少ないから「厳しすぎる」とか言われるんじゃないですかね。

■映画で映しているひとつのアイドルグループの終わり

──芸能界は特殊な世界だと思われがちですが、冒頭で渡辺さんがおっしゃったように、普遍的に通じるテーマがそこにはあると?
【岩淵弘樹監督】いかに相手と真剣に向き合えるか、ということですよね。それを通して信頼関係を築いているのがWACKという事務所だと思いますし、そういう意味では普遍的なテーマを映し出した作品だと思います。
【渡辺淳之介】あと芸能界でいうと、ここ最近、事務所と所属者の関係のこじれで生じる問題が何かと話題になりますよね。それも根本は信頼関係が築けていなかったからだと思うんですよ。ひと昔前は事務所がタレントを契約で縛ることもできたんだろうけど、社会構造が変わって今はタレントが自分の意思を主張できるようになった。正直、3年間大切に育ててきて、これからというときに辞められたら大打撃だけど、事務所としては受け入れざるを得ない。そんな時代に来ているんですよね。その辺は単純に一般の人にも興味があるトピックスだと思うし、あとはやっぱりこの映画で映しているひとつのアイドルグループの終わりについては、僕らの反省点としてこの映画で反芻したいところですね。
(文/児玉澄子)