サッカーの世界的名将アーセン・ヴェンゲル氏(70)が24日、都内で基調講演会を開催。元サッカー日本代表監督でFC今治の会長を務める岡田武史(63)氏と対談し、爆笑トークを繰り広げた。

【全身ショット】スーツ姿がビシッと決まったアーセン・ヴェンゲル

 ヴェンゲル氏は1981年にフランスのRCストラスブールのユースで監督業をスタートさせると、95年に来日し、Jリーグの名古屋グランパスエイトで指揮を執って天皇杯を獲得。96年に渡英し、名門・アーセナルの監督に着いた。22年という長期間にわたりガナーズ(アーセナルの愛称)を率いると、3度のプレミアリーグ、7度のFAカップと多くの栄冠に輝いた。2018年をもって惜しまれつつも、同クラブの監督を退任した。

 岡田氏はヴェンゲル氏が名古屋の監督時代に知り合い、2010年のワールドカップ南アフリカ大会前にはアドバイスをもらっていたそう。岡田氏は「ヴェンゲルのサッカーは日本人に合ってる。ショートパスをつないで、相手の組織を崩す。力づくでこじ開けるより、戦術的に知的なサッカー」とヴェンゲル氏のサッカー観を評価した。一方で、講演会場が吉本興業の劇場であるよしもと∞ホールとあって、岡田氏は「ここは吉本の劇場だよね。さっき聞いてたら、めっちゃ暗かった」とニヤリ。苦笑いしながらもヴェンゲル氏は「俺だってコメディアンだぜ」と返して、笑わせた。

 2人はW杯で南ア大会で“ある約束”も交わしていた。岡田氏が「覚えている?」と振ると、ヴェンゲル氏は「一緒にスタジアムの隣に作った老人ホームに入ろうだっけ?」とジョークで返答。話題を引き取った岡田氏は「2010年のワールドカップのときに選手を見にヨーロッパを回っていた。アーセンの練習場に遊びに行って話してたら『このグループ突破できるわけがない。セットプレーでドンで終わりだよ』と」と当時の会話を再現。ヴェンゲル氏は日本代表がオランダ、デンマーク、カメルーンというグループに入り、ベスト16進出は困難と考えたため、岡田氏に「もし突破したら東京にビッグスタチュー(大きな像)建ててやる」と宣言していたそう。岡田氏が「渋谷にビッグスタチュー建ててもらわないと」と見やるとヴェンゲル氏は「クレジットカード忘れちゃった」とトボケた。

 岡田氏は便利快適な生活をした結果、困難を乗り越える“スイッチ”が入っていないという説を唱え、自身の経験を語った。97年に加茂周監督が解任され、41歳で監督経験すらないまま、代表監督に就任。「有名になると思っていなかったから電話帳に番号を載せてた。脅迫状も脅迫電話も止まらない。子どもの学校も危険だから家内が送り迎えをしていた」と極限状態を振り返る。ジョホールバルで妻に「明日、勝てなかったら日本に帰れない。海外に住むことになる」と告げると、何かが吹っ切れた。「今の自分の力を出すしかない。ある意味、命がけ。それでダメなら自分の力が足らんから、しょうがない。『国民のみなさん、申し訳ございません』と謝ろうと思った。でも、俺のせいじゃない。『俺を選んだ会長のせいや』と思った。自分の遺伝子のスイッチが入った。自分の人生が変わって、怖いものがなくなった」としみじみと口にした。

 それが困難を乗り越えるメンタリティーの基本になりえると力説。ヴェンゲル氏は「選手も一緒。プレッシャー下でいかにいいパフォーマンスを出すかということに専念する」と同意した。「プレッシャーが掛かると逃げるか、直面するかの2択。怖いと思うのは自然なこと。負けないために何をしたらいいかが俯瞰で見るとわかってくる」と勝負に対する哲学を語った。

 サッカーの未来についても語った。岡田氏は「数年前からサッカーの習熟しきってきた。昔はワールドカップごとに劇的な新しい戦術が出てきたけど、出なくなってきた。より速く、より強く、より性格に、となってきている。これは、もう少し続く」と予言。ヴェンゲル氏は「確かにサッカーは成熟期かもしれない。テクニックとフィジカルではトップレベルに達している」と同意しながらも「忘れてはいけないのはクリエイティビティー。クリエイティブで想像的なサッカーをする選手がクビになったり、ゲームから外されるのを見てきた。フィジカルがあまりにも強くなって、クリエイティブが殺されるのが残念でならない。サッカーは芸術であり続けなければならない。我々、監督がしなければならないことはフィジカルな面、クリエイティブな面の両方を複合して伝えて実践すること」と、欧州でも屈指の優雅なサッカーをしていたアーセナルの監督らしいコメントを未来へ残していた。