1958年の国産プラモデル誕生から60余年。対象となる物の形状をスケールに基づいて忠実に再現した模型「スケールモデル」は、今なお不動の人気を誇っている。今回紹介するのは、戦争映画などの名場面で登場する「取り舵いっぱい」のシーンをジオラマ再現した鳶色2号(早野治朗/@Tobiiro2)氏。海の色や波の大きさで“情景を表現”する匠の技について聞いた。

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■1/350の艦船ジオラマ模型で海の表現を追求

――艦船模型を制作するようになったキッカケは?

【鳶色2号】もともと日本海軍が好きだったので、艦船模型を作るのは自然な流れでした。友人からの誘いでプラモデルに出戻った2012年頃は1/350という縮尺が定着し、有名な船のキット化が進むと共に、サードパーティーから専用のエッチングセットが販売されて、大型で精密な艦船模型が手軽に作れるようになっていました。1/700の模型は既に経験があり、どのようなものかも想像がついたので、新しい流れである1/350に手を染め、それが今に続いています。

――では、鳶色2号 さんがジオラマ制作に力を入れた理由というのは?

【鳶色2号】友人からの誘いというのが「コンテスト参加」の話でした。当時から模型制作の上手な方は大勢居られますが、作り込まれた海を持つ洋上ジオラマ作品は少なかったので、そこで勝負しようという思惑でした(苦笑)。また、プラモデルを盛んに作っていた子どもの頃、完成すると作品を床の上に置いて、畳に顔をこすり付けて眺めながら妄想を膨らませていた楽しみは、大人になっても変わることがなく、ならば海まで作って情景を楽しもうという気持ちに自然となりました。

――情景を表現するうえで、こだわっている部分は?

【鳶色2号】模型作品は構成する要素のバランスが大事だと考えます。模型本体はキットの質が向上し、精密なエッチングや挽き物のパーツも手に入ります。載せるフィギュアも3Dプリンターを使ったリアルな商品が発売されました。すると当然ベースとなる海面や白波も、それらに釣り合うだけの仕上がりが必要だと思う訳です。ところが海の表情は無数にあります。天候や風で波やうねりは様々に変わりますし、船の大きさ・形・速度で発生する波の形も違います。そういった点にまで気を配り、作品を仕上げたいと思っています。

――定型の波表現ではなく、艦船や天候に応じた波の表現を求めているんですね。

【鳶色2号】例えば、夏の南太平洋と冬の北大西洋はまったくの別物です。また、大戦末期の悲壮感を出すために、模型的にあえて暗い色調を選ぶような、演出に関わる部分もあります。そのため私も、毎作品ごとにテーマを持って違う技法と材料を試し、その試行錯誤は今も継続中です。

■何を考えどう試したか、失敗談も含めながらSNSで公開

――鳶色2号 さんの代表作を教えてください。

【鳶色2号】出戻って3作目の、タミヤの1/350雪風を使った『取り舵』という作品です。この作品で、その後の模型制作の(特に海の表現の)方向性が決まりました。具体的には、海面はスタイロフォームを用い、凹凸をつける。その表面を木工パテでコートして表情をつける。艦首波・艦尾波・航走波・舷側波それぞれの特徴を意識した、材料と表現方法を考える。フィギュアを配したジオラマ作品とする。といった事柄です。幸せな事にその後本作は、コンテストでの受賞や専門誌への作例記事の掲載を果たし、自分が進めて来た事に自信を与えてくれた作品となりました。今見ると船本体の工作はまだまだで代表作とは言えませんが、一番思い出深い作品です。

――鳶色2号 さんは最近Twitterも始められましたが、その意図は?

【鳶色2号】模型誌の作例を見ても船の作り方がメインで、なかなか海の表現について詳しく解説されていません。今年の5月にひょんな事からTwitterを始める事になり、これを機会に今まで自分が海を表現するに当って、何を考えどう試したかを失敗談も含めながら公開しようと思い立ちました。初期の作品を今見直すと、ずいぶん恥ずかしいところもあるのですが、一連の流れを理解して頂くため、敢えてそれも公開しています。もちろんお手本として見せている訳ではなく、皆さんが試される手間を省いたり、より良い方法を編み出すヒントになればとの思いからです。

――艦船模型のノウハウをSNSで共有しているんですね。

【鳶色2号】身も蓋もない事を言ってしまうと、造形力のある方が粘土で原型を作り、シリコン型で反転させ、そこに着色した透明樹脂を流し込んで作る以上の“模型の海”の作り方はないと思っています。ただ、自分にはそれだけの造形力も、そこまで手間を掛ける熱意もないので、それに近い表現を、より簡単に誰もが出来る方法で実現させる事を目標に、試行錯誤を続け発信しています。

――今後の目標は?

【鳶色2号】ネットのおかげで、海外の凄い作品の写真も簡単に見る事が出来ます。それらの作品に触れるにつけ、まだ道程は長いことを実感します。沢山のモデラーさんが海表現にトライされ、みんなで技法を高めあい、多くの優れた作品が沢山の人を楽しませるようになればいいなと思っています。