“シティ・ポップ”の源流と言われ、ブームのなかでその評価を高めているのが、南佳孝のデビュー作『摩天楼のヒロイン』。今聴いてもスタイリッシュでおしゃれな楽曲が、なぜフォークソング全盛の時代に生まれたのか。また今、ブームが再燃していることについてどう思っているのか。10月30日にリリースするカバーアルバムでTHE BLUE HEARTSをカバー、12月には初の冠フェスを敢行するなど、69歳にして今も精力的に音楽活動を展開する南に、話を聞いた。

【写真】昨年リリースのアルバム『Dear My Generation』ジャケット

◆松本隆と出会い、「都会なにおいがする洗練されたものをやろう」という話に

 南佳孝がデビュー作『摩天楼のヒロイン』をリリースしたのは、1973年9月。その少し前、南は同作のプロデュースを手掛けることになる松本隆と出会った。
「デモテープ作ろうって新宿の御苑スタジオに入っていたら、仲間がどこで出会ったのか松本隆を連れてきたの。ちょうど『はっぴいえんど』が解散するタイミングで、細野(晴臣)さんたちはキャラメルママへ、松本は誰かのプロデュースか、作詞家になろうかってときだった。ある時、松本が『遊びに来いよ』と言って家でいろいろ話していて。そのなかで出てきたのが『今、流行っている音楽と全然違うこと、真逆なことをやろう』ということだったんです」

 当時の音楽シーンは、フォークソングが全盛期を迎えており、ヒットランキングはフォークソング、演歌、アイドルソングが人気を分け合っている状態。2人はそれらとは異なる音楽を生み出したいと考えていた。
「フォークソングや演歌とは違う、もっとモダンで自分たちの気持ちにピッタリなものを作ろう、と。歌詞も甘くて、もっと物語性があって。映画音楽のような、ストリングスが入ってきて、都会なにおいがするソフィスケート(垢抜けた/洗練)されたものをやろうって。結果的に今、それが“シティ・ポップ”って呼ばれているけど、単純に僕らがやりたかったのは、『いいもの、面白いもの、洗練された今までにないものを作りたい』ということだけ。
 俺もジャズやってたから、そういうの書くよって2週間で書きました。松本も、『はっぴいえんど』では歌えない、溜まっていた歌詞があったらしくて。『こんなんどう?』って実験的やっていたら、すぐできたもんね。僕のデビューアルバムはあるけど、これは共作だと思っています。ひとつの映画作るみたいに、監督が松本隆で、僕が主演して、脚本などをやったのが(編曲の)矢野(誠)さんだと思っているので」

◆ブーム再燃に「もういいですよ。昔の話は(笑)」

 松本隆と南佳孝という2つの才能が出会ったことで生まれた化学反応。その結果、日本の音楽シーンに新たな潮流が生まれたことは確かだろう。
「2人とも東京っ子(出身)だったっていうのはが大きいと思います。とにかくモダンなものが好き。そして『次に来るものは何だろう』って常に考えている。これは今も変わらないですね。特に同年代の音楽が好きな人たちに何が響くのかなって考えながら音楽活動をしています。
 今、“シティ・ポップ”がブームとか言われるけど、もういいんですよ、昔の話は(笑)。ただ、『摩天楼のヒロイン』は全然売れなかったですよ(笑)。松本が、(作曲家の)筒美京平さんと仕事するようになってから、聴いてもらったらしいんですけど、京平さんからは『いいねぇ、君たちは自由で』って言われたみたい。やっぱりヒット曲を生み出さないといけない人から見たら、全部わかったみたいです(笑)」

◆カバーすることで、昔と今の音楽の違いも実感

 そんな南が、10月30日にカバーアルバム『ラジオな曲たちII』をリリース。カバーを始めたきっかけは、自身がパーソナリティを務めるFM COCOLO『NIGHT AND DAY』(毎週水曜 午後9時)でのワンコーナーだった。
「ラジオをはじめて3、4年でなにかいい企画はないかなと思っていた時に出たアイデアの1つで、毎週1曲カバーを披露するという話があがって。最初は楽だったんだけど、だんだんとネタが尽きてきて…でも昔から、他の人の曲をコピーしたり、譜面みたりするのは好きなんですよ。曲書くときにすごく勉強になる。いくつになっても新たな発見があるんだよね。『学ぶ=まねぶ』みたいな。みんなそれぞれ持ってるスタイルのなかに入って自分のものにしていく。(斉藤)和義に『南さんが歌うと、みんな南さんの歌になっちゃいますね』とか言われたけど、俺は誉め言葉として受け取っているよ(笑)」

 ラジオをきっかけにカバーした楽曲は6、7年で250曲以上。2016年にリリースしたカバーアルバム第1弾には、堺正章「さらば恋人」、河島英五「酒と泪と男と女」など昭和歌謡が多くラインアップされていたが、今作には、公私で交流のある盟友・斉藤和義の「歩いて帰ろう」をはじめ、キリンジ「エイリアンズ」、ORIGINAL LOVE「接吻 Kiss」など、90年代以降のJ-POPの曲も多く選曲されている。
「前作は昭和チックだったけど、今作ではリスナーのレンジも広げようという思いがありました。アッパー(年長者)クラスだけじゃなくて(笑)。でも、カバーは難しくて、自分で聴いていいなと思う曲でも、歌ってみたら全然ハマらなかったり。逆に他の人から薦められて歌ってみたらバチッとはまるケースもある。THE BLUE HEARTSの『1000のバイオリン』なんかも、曲は知ってて好きだったけど、他の人に薦められて今回やってみたらバチッとハマった。来年70になる親父がバリバリのロッカーみたいな感じで頑張っているのも面白いなと思って選曲しました(笑)」

 たくさんの曲をカバーするなかで、昔の曲と今の曲の違いを感じることもあるという。
「昔の曲はプロの作曲家が作っているケースが多く、1オクターブちょいの音域で、どんな人でも歌えるようにうまくできている。京平さんの曲とか『ここ、つかみうまいな』って思わされることがあります。一方で今の曲というのは、アーティストそれぞれが自分の得意なところに持って行くんですよね。ずっと高い声を張り続けたりしても、自分の特性を生かしたスタイルだから、全然気にしない。カバーする方はきついけど(笑)。そんな印象ですね」

◆69歳でキャリア初の冠フェス『南佳孝フェス「I WILL 69 YOU」』

 精力的に音楽活動を続ける南は、12月17日に東京・EX THEATER ROPPONGIでキャリア初となる自身の名前を冠したフェス『南佳孝フェス「I WILL 69 YOU」』を開催する。
「今年の誕生日の時期にちょうど、ロックバンド・Queenの映画(ボヘミアン・ラプソディ)が流行ってて。Queenの名曲にひっかけて『I WILL 69(Rock) YOU』って言ってたら、スタッフが面白がって。『古希(70歳)のお祝い』ではなく、『まだまだロックだぜ』という気持ちでフェスをするのもいいかなと。今まであんまりこういうことをやってこなかったし。セットリストはこれからですけど、自分の曲、カバー曲、ゲストの曲…いろいろやらなきゃなと思っています。腕達者なメンバーがいるので大丈夫かなと(笑)。昔からの仲間も自分もいい味になってきて一緒にセッションするとすごく面白いので、皆さんも観に来てほしいですね」