ソニーミュージックが昨年からスタートさせたアクセラレーションプログラム「ENTX(エンタエックス)」。スタートアップ企業×エンタテインメントの力を掛け合わせ、イノベーションを起こしていくことを目指す同プログラムが、第2期目の採択企業を招いてスペシャルトークイベントを開催。ゲストとして登壇したのは、ASIAN KUNG-FU GENERATIONの後藤正文だった。若き起業家を前に自身の創作の裏側を語った後藤に、イベント終了後、さらに企業家たちへのメッセージを聞いた。

アジカン後藤ら登壇、『ENTX』トークセッションの模様

◆文化とは、「もらって、受け渡す」もの

――若い世代の起業家に対して、後藤さんが感じていることは?
【後藤】 ビジネスのことはわからないんだけど、期待していることはたくさんあります。まず、人を雇うというのは大変じゃないですか。たとえば月給20万円で1人雇うだけでもかなり厳しいだろうし、10人規模であっても、会社を興すにはすごいエネルギーが必要だと思うので。個人的な希望としては、数年でしゃぶりつくすようなビジネスではなく、もう少し長いスパンで考えて、その仕事に関わる人たちが何十年も豊かになれるような仕組みを目指してほしいですね。そういう起業家が増えれば、国全体も明るくなるだろうから。

――音楽をはじめとする芸術や文化も、新世代の起業家と組むことで新たな展開が期待できるのでは?
【後藤】 音楽もそうですけど、何かの表現に対する本当の評価は、それこそ時間というフィルターを通さないとわからないと思うんです。たとえば90年代の音楽も、いまになってやっと整理されてきたし、再評価を繰り返しながら、後世まで残っていくものかどうかがわかるので。ビジネスの場合は、ある程度の即効性も必要だろうから、そのあたりのバランスは難しいところでしょうね。俺たちとしては、じっくりやるしかないと思っていますが。あとは「パスを受け取って、次に渡す」ということかな。自分たちにその資格があるかもわからないけど、文化は「もらって、受け渡す」ものなので。

――ASIAN KUNG-FU GENERATIONが主催していたフェス「NANO-MUGEN FES.」にも、“受け取って、受け渡す”という意図があったのでしょうか? 海外のバンドを日本のオーディエンスに紹介して、国内のシーンをさらに活性化させるというか。
【後藤】 『NANO-MUGEN FES.』をはじめた理由としては、“このままだと、評価される体系がないまま、何もないところにボールを投げていくことになる”という危機感もあったんです。何もしなければ、日本の音楽しか聴かないリスナーと“洋楽が最高”という人たちに別れてしまう。両方を対流させる場がないと、自分たちは評価さえされないと思ったんです。

――それは起業家が新たなマーケットを掘り起こすことにも通じている?
【後藤】 というより“場所作り”ですよね。種を蒔けば、それがいつか実になって、受け取ってくれる人がいると思っていたんだけど、それが幻想だったことに気づいて(笑)。だったら、まずは土を育てて、場所を作らないといけないなと。フェス以外でも、そういうことが多い気がしますね。たとえばミュージシャンが社会的なことを発言することもそう。僕はそれが当たり前だと思っていたし、同世代のミュージシャンは賛同してくれる人が多いんですけど、ちょっと上の世代、下の世代にはそういう空気がない。「それが当たり前でしょ」という顔で10年、20年続けて、「ミュージシャンは社会的なことを言うものだよね」という認識になればいいなと思っています。

◆“日本人でカッコいい金持ちは誰?”と聞かれても、すぐに思い付かない

――若い起業家にも社会貢献の意識が必要なのかも。
【後藤】 起業自体が社会貢献だと思いますけどね。最初にも言いましたけど、人を雇うこと自体がすごいし、それで幸せになれる人が増えれば、それ以上素晴らしいことはないので。僕もふだん、なるべく仕事を人に振るようにしてるんですよ。「自分だけノーギャラ」ということもあるけど(笑)、そうやってパスすることが大事かなと。ミュージシャンは基本的に、演奏できる場所があれば幸せなんです。「高いシャンパンが飲めないなら、音楽はやりたいくない」ということではないし、楽しく演奏できて、家族や仲間と暮らしていければそれでいいので。ただ、音楽にお金が集まらない時代なので、どうやったら続けられるか知恵を絞らなくちゃいけないけど…。

――音楽をどうマネタイズするかは、今後も大きな課題ですね。
【後藤】 企業がもっと文化にお金を使ってくれたらいいですよね。テレビにCMを打つことだけが広告ではないし、イメージアップにつながるお金の使い方はあるはずなので。視聴率や売上もそうですが、数字だけに捉われすぎるのも良くないと思います。野球ゲームだったら、打率が高いヤツを並べれば勝てるけど(笑)、人間がやってることにはエラーがたくさん起こるので。

――目先の数字だけに捉われず、文化に対しても理解があって。そういう経営者が求められているのかも。
【後藤】 そうですね。起業家ってカッコいいし、成功すれば金持ちになれるし、モテるじゃないですか(笑)。でも、“日本人でカッコいい金持ちって誰?”と言われたら、すぐに思い付かない。文化に貢献して、商売も大成功して、みんなが憧れるようなスター経営者がいまの日本には必要なんだと思います。

文/森朋之