第二次大戦において、旧日本海軍の主力を担った航空母艦。一方で、大戦末期においては“搭載する航空機”も燃料も満足にない、という苦難の道を歩んでもいる。そんな“悲哀”に満ちた空母を作り続ける、モデラー・けんちっく氏(http://tospop.livedoor.blog/)を取材。プラバンを使って骨組みから作り上げていくフルスクラッチ(完全自作)という技法で制作するスタイルや、空母へのひとかたならぬ“愛情”について聞いた。

【写真】まるで映画の1シーン、大人の秘密気「空母」をフルスクッチで再現!戦艦「大和」「武蔵」「金剛」も

■勇壮なだけでなく、落ち着いた日常というのも空母の一面

――プラモデルの魅力に目覚めた原体験を教えてください。

【けんちっく】小学生の時、クリスマスの朝目覚めたら枕元にプラモデルが置いてあったんです。兄と母が前の日にプレゼントとして買ってきてくれたらしいんです。兄が選んだそのキットはタミヤの「米空母ホーネット」でした。嬉しかったですね。二人はもう忘れてるかもしれませんが私はしっかり覚えています。上手ではありませんでしたが一生懸命に作りました。これが空母好きになる原点だったかもしれませんね。

――けんちっくさんは“フルスクラッチ”で艦船を作られています。その理由は?

【けんちっく】一つのものにじっくりと時間をかけて、少しずつ作り上げていくというのが性に合っていたのでしょうね。欲しかった空母の欲しいスケールがキット化されていなかったというのも大きな理由です。「無いなら作ってしまおう」と単純に思い込んだのですから、昔は怖いもの知らずだったんですね(笑)。でも私は空母しか作れません。他の多くのスクラッチビルダーの方々は戦艦、巡洋艦、駆逐艦など何でもござれですから、本当に心から尊敬しています。

――自身の作品の強みといったものは何でしょうか。

【けんちっく】特徴と言えるかどうかわかりませんが、私の作品は停船シーンがほとんどなんです。艦船模型といえば白波を蹴立てて疾走するシーンが多く、また非常に見栄えがしてかっこいいですよね。私も大好きです。ただ、私は錨を下ろして乗員が乗り降りするための階段(舷梯)を下げた静かな佇まいの船を作るのが好きなんです。勇壮なだけでなく落ち着いた日常というのも軍艦の一面だと思うんですね。作者の性格も影響しているのでしょうか(笑)。

――初めてフルスクラッチで制作した「艦船」は何でしたか?

【けんちっく】最初は空母の艦橋部分だけを大きなスケールで作って、下から見上げては「かっこいい~」などと言って喜んでいました。その最初の作品は1/100空母「飛龍」の艦橋です。「けんちっく」のニックネームの元にもなっているのですが、私は以前、建築模型を作っていた時期が有り、その主材料であるスチレンボード(発泡スチロールをケント紙で挟んだ板)を使って制作しました。しかし、スチレンボードでは細かい表現ができず悩んでいたところに見つけたのがプラバンだったのです。これはかなり衝撃的でした。なにしろプラバンは「切る」「曲げる」「貼る」「削る」「穴を開ける」「塗る」などほぼ全ての加工が思うまま自由自在なんです。私にとっては“魔法の素材”となりました。それ以後はずっとプラバンを主材料にしています。そして今では、模型用の名刺に「プラバン消費量日本一の男」という別称を用いています(笑)。

■搭載する飛行機はすでに無く…悲運の空母たちを模型で凛々しく再現

――空母だけを制作される理由を詳しく教えてください。

【けんちっく】戦艦や巡洋艦ももちろん好きです。でも“空母への愛”のほうがはるかに上回っているんでしょうね。それが高じて自らのブログに「特選空母」と名付けました。普段は格納庫の中で翼を休める艦載機が、「出撃!」の号令とともに飛行甲板上にせり上がってきて一斉に飛び立って行く。そして任務を終えると帰艦し、また格納されていく…という一連の流れが他の艦種には無い空母最大の恰好良さだと思います。まるで『サンダーバード』の秘密基地みたいで子どものころから大好きでした。昔から男の子はみんな秘密基地が大好きですよね。

――では、一番好きな空母は何でしょうか。

【けんちっく】第二次大戦後期になって登場してきた「雲龍型」と呼ばれる旧日本海軍の空母が大好きです。無駄を削ぎ落したスマートな船体と直線を基調としたシャープな構造物。そして奇怪なデザインの対空、対潜迷彩など、全てが私のツボにはまってしまいまして。「雲龍型」は実際に竣工されたのは3隻だけですが、この時期はもう搭載する艦載機も無く実戦での活躍は皆無でした。そこがまた悲哀に満ちて感情を揺さぶるんです。

――制作された中で一番好きな作品は?

【けんちっく】先ほど触れた雲龍型空母の2番艦「天城」です。今の流れに沿って1/350で制作しました。実際の天城は艦載機も燃料も無く、空母として全く機能しないまま呉軍港に停泊中に米軍の攻撃を受けて損傷しその場で横転、戦後寂しく解体処分されました。そんな悲運の空母を、模型では艦載機満載の威風堂々たる姿で再現してあげたかったのです。

――フルスクラッチで特にこだわっている“匠の技術”は?

【けんちっく】こだわっている部分は塗装です。対空、対潜迷彩塗装は緑色の濃淡で表現します。専用のカラーが発売されてはいるのですが、私の場合は自分で色を混ぜて調色しています。何度も失敗してやっと納得できる色合いが出せた時は本当に嬉しかったですね。逆にまだ納得できない部分は兵装です。高角砲や機銃は自作ではなく既製品を使っているのですが、普通のレベルのものを使ってしまいました。後で知らされたのですが、もっともっと精密で出来の良いアフターパーツが販売されていたようです。よほど取り換えようとも思ったのですが、固定して塗装した物の取り換えは簡単にはいかず断念しました。私の勉強不足だったんですね。

――フルスクラッチならではの難しさはどの部分ですか?

【けんちっく】一番難しいのは艦首の形を作ることです。艦首の形は全ての空母で微妙に違うため個性の出やすい箇所なんです。私の場合はプラバンを何枚も重ね合わせて積層を作り、そこにマジックで艦首のアウトラインを描きます。そしてリューターというツールで削っていって大まかな形を作り、そこからはひたすらペーパーやすりを掛け続けて完成させます。難しいのはどこまで削るか、どこまでペーパー掛けするかなのです。やり過ぎるともう元には戻りません。かといってそれを恐れると厚ぼったく不格好です。一発勝負の緊張感が有ってドキドキなんです(笑)。でも苦労して仕上げた艦首を図面の上に置いてピッタリ重なると、これはもう最高に嬉しい瞬間なんです。生きてて良かったとさえ思います。

――「いつかは挑戦してみたい」と思う空母を教えてください。

【けんちっく】一度で良いので1/100の空母模型を作ってみたいですね。200m級の空母だと2メートルの大きさになります。5年くらいかけてじっくりと取り組んでみたいです。ただ住宅事情がそれを許さないんですよ(苦笑)。専用の制作工房を持つのも夢ですね。