気だるい女子高生を繊細に描く特徴的なイラストで、若い女性を中心に人気を集めているイラストレーターのダイスケリチャード氏。三月のパンタシアのCDジャケットイラストや、ヴィレッジヴァンガードとコラボしたアパレルグッズを展開するなど、多方面に活動の場を広げている。

【画像】イラストのアイコンで活動するダイスケリチャード

■原宿や渋谷の女の子など日常の発見をイラストに

――独特の色使いや斬新な構図、表情や顔そのものが描かれることがほぼないにもかかわらず、想像力を喚起する若い女性たちの存在感が魅力的です。創作活動にあたって、影響された画家や写真家、イラストレーターさんなどはいますか。
【ダイスケリチャード(以下ダイスケ)】今の自分の絵について、影響されたかなっていう人は、実はいません。格好をつけているわけではなく、インプットが極端に少ないんですよね。画集も写真集も、本当に数冊しか持っていません。マンガもほぼ読まないし、アニメもさほど観ません。映画もドラマも、積極的には観ない。テレビならバラエティは頭を使わずに楽しめるから好きなんですけど。もともと、家庭の文化がそうだったから、そういう体質になったというか。実家にDVDプレーヤーはありましたけど、誰も映画やドラマをレンタルしてこないという環境でした。

──物語に依存しないというか、必要としないという感じでしょうか。
【ダイスケ】エンタメ、娯楽として楽しみたいなら、なるべく頭を使わずにいたいというか。でも、姉がバンドをやっていたりして、音楽DVDとかは実家にいっぱいあったんです。ですから、マンガ家さんとか他のイラストレーターさんではなく、好きなバンドの良いなと思う部分をイラストに取り入れることは確実にしていると思います。活動の見本、スタイルの参考にしている。そういう意味での影響でいえば、音楽からのものが8割くらいには達しているでしょうね(苦笑)。──そうすると、作品のヒントやインスピレーションは、どこから得ているのですか。
【ダイスケ】作品に触れて作品を作るというのではなく、日常を過ごしていて、発見したことを作品にします。「あのポーズかわいいな」という発見もありますし、街で女の子を見て「あそこにファスナーが付いてる制服もあるんだ」と思ってメモするなど。原宿や渋谷は自分のイメージするビジュアルの人が多い。吉祥寺とかもそうですね。フィギュアを眺めていて「この角度からはこう見えるのか、面白いな」と思って絵に応用したりとか。ポージング模型なども参考にすることはありますけど、どうしてもわからない、腑に落ちない場合くらい。自分の絵柄というのは、リアリティも大事なので、ここの関節がどう動いて描きたい視点からはどう見えるのか、確認するために使ったりはします。メモする場合は、スケッチではなく言葉。ですから、後で読むとまったく意味がわからないケースもよくありますよ。ポツンと「クサリガマ」とだけメモしてあって、いったい何を見たのかと思って(笑)。

──昨年半ばまで、一般企業のデザイン関連の部署に籍を置きつつ、イラストレーターとしての活動を続けていたと聞いています。本格的に絵を描き始めたのはいつ頃でしょうか。
【ダイスケ】実は何度か分断しています。最初は小学生の頃。お年玉でペンタブレットを買って、「お絵かきチャット」に参加したりしていましたが、どうも他の参加者の方々と年齢や興味などがまったく合わずに、すぐ辞めてしまって。次は高校生の頃、周囲から絵を褒められるのでその気になって、小遣い稼ぎの感覚で、同人活動といいますか、ダウンロード販売できる場でイラストを発表するような活動をしていました。専門学校を卒業するタイミングで、それも辞めてしまって。小学校時代はもちろんですが、高校生の頃の絵も、まったく今とは画風が異なります。

──専門学校で絵をきちんと学び直したということ?
【ダイスケ】いいえ、デッサンを教えるような学校ではなくて。グラフィックデザインについての基礎的なところを学んでいました。IllustratorやPhotoshopの使い方などですね。絵そのものはやはり独学のままです。

──いったん就職して、なぜまたイラストを描き始めたのでしょうか。
【ダイスケ】就職したその年の冬に、また描き始めたんですが、明確なきっかけはないんですよ。働いていたのはかなりホワイトな会社で、夜8時前くらいにはもう家にいたりして、やることもない。アニメも映画もドラマもさほど興味がないので(苦笑)。イラスト制作の環境はデザイン業務とほぼ共通しているわけですし、ツールはあるし時間もある。じゃあやろうかなと。そのことを友人に話したら、じゃあ誰も知らないところからスタートして、どこまでのし上がれるか試そうぜ、という非常に適当なノリでした。本名の「ダイスケ」と組み合わせて検索トップに来るようなキャッチーな英名を探して「リチャード」に決定して。THE YELLOW MONKEY の吉井(和哉)さんがYOSHII LOVINSONと名乗られていた時期もあったし、かっこいいかなとか。当時は、まさかその後、フリーランスになってイラストで生活するようになるとは考えてもいませんでした。でも、これでどこまで広がるんだろう、と確実にワクワクはしていましたね。

■手に触れるものが大好き フィジカルへのこだわり

──いわゆるイラストレーターとしての仕事の一方で、服やグッズなども展開しています。
【ダイスケ】手で触れるものは大好き。音楽も配信よりCDを購入する派です。イラストはどこまで行ってもイラストなんですが、それ以外にも展開できるような活動をしたいというのが基本。本にしろ、アパレルを含めたグッズにしろ、単に許諾するのではなく、僕が全面的に関わって制作するものに関しては、手にしたときに驚いてもらえたり、喜んでもらえたりする立体物であるよう心がけています。特にアパレルラインは、自分が着たくなるもので、なおかつグッズなどを買ってくださるメインの層である10代後半から20代前半の女性が可愛くなるよう意識しています。街中で着ても恥ずかしくないライブTシャツみたいになればいいなと。

──発注先が存在する商業イラスト作品と、個人創作との間には、手がける際に意識の違いはありますか。
【ダイスケ】商業作品はいくつものヒントや、クリアすべきお題がある。その違いはありますが、描いている最中の感覚としてはあまり変わりません。三月のパンタシアさんを例にすると、かなり委ねていただいています。MVに使ったりするので構図や大まかなポーズなどは指定があったりしますけど、最低限の情報を参考にしながらまず描くと、そこに先方がイメージを寄せてくださる感じですね。求められ、全力で応える。普段聴く音楽とはやや違うのですが、客観的に俯瞰すると、とてもビジュアルと音楽が合っているなと感じます。

──仕事中には音楽をよく聴いているのでしょうか。
【ダイスケ】いつもは作業中に、ラジオを聴いています。これは社会人になってからの習慣で、前職がイヤホンOKだったことの影響。1日に何時間も聴く状態が来る日も来る日も続きますので、好きな音楽ばかり聴いていては、すぐに限界が来てしまう。そこでラジオです。芸人さんの番組、特にオールナイトニッポンはリアルタイムで聴くようにしています。半ば無意識に手は動かしていて、ラジオの内容にしか集中してないときもよくありますが…(笑)。オードリー、三四郎、霜降り明星、佐久間さんあたりはほぼ毎週聴いてますし、芸人じゃないけどCreepy Nutsの番組も欠かせない。単なる『オールナイトニッポン』ファンのような気もしますね。

──たとえば、ダイスケさんの絵柄をそのまま動かすアニメーション手法などに興味はないのですか。
【ダイスケ】興味がなくはないのですが、かかる手間を考えるとなかなか踏み込めない領域ですね。数十秒の映像でも、動く絵はものすごい時間と労力がかかるので。同じ時間でたくさんイラストを描いた方がいいかな。もちろん、信頼できる相手であれば、元になるイラストを預けて、それを自由に動かしてもらう、というのは構わないのですが。自分が映像をやるなら、やはり納得のいくものを仕上げたいので。

──三月のパンタシア以外の、音楽アーティストのプロジェクトへの参加は考えていますか。
【ダイスケ】ありがたいことに、お話はたくさんいただいていますが…。いつか自分が大好きなアーティストさんと関わって仕事をしたいという願いがあって、そのために機会を保留させてもらっています。三月のパンタシアさんに加えて、本格的にビジュアルのイメージを担当するとしたら、できたとしても何かもうひとつくらい。かなり慎重に検討させていただいてます。ちなみに僕、MUCCというバンドと、GRANRODEOとKAT-TUNのファンクラブに入ってますので!

──最後に、今後の展望を教えてください。
【ダイスケ】実は僕、ほぼ運頼みでここまでやってきて、経験値も、テクニカルな土台もないと自覚しています。それは、今、自分のイラストが飽きられたとき、戦う術がないということでもある。だから、展望というのもおかしいのですが、終わりが見えたら自分で完結させたいという思いはどこかにあります。売れなくなったバンドがいつのまにか解散していた、というのは本当に哀しい。見える形で集大成を発表できる余力があるうちに、引退したい。変な展望ですみません(苦笑)。ただ、僕の絵を描く原動力は、ほぼ「褒められたい」「いいねと言われたい」というところにあって、反応が良いものならこだわりも躊躇もなく描けるんです。求められる限りは、今後も全力で応えていきたいと思っています。
(文/及川望)