今クールのドラマは「金曜夜10時」がやたらと熱い。ひとつは、視聴率やSNSでの盛り上がり、コンフィデンス誌によるドラマ満足度調査「ドラマバリュー」などを含めて初回から高水準を維持し続けている、黒木華主演の『凪のお暇』(TBS系)。もうひとつは、多部未華子主演のドラマ10『これは経費で落ちません!』(NHK)だ。

【写真】あやしい精算を追求されてとぼける社員と戦う森若さん

 SNS上には「今期ドラマで一番楽しみにしてるの『これは経費で落ちません!』かもしれない」「今期一番おもしろいドラマ」「ドラマは『これは経費で落ちません!』しか観ていない」といったつぶやきが見られるほど。

 ドラマ10といえば、『女子的生活』や『透明なゆりかご』『昭和元禄落語心中』『トクサツガガガ』など話題作を連発している枠。そうした流れのなかで、今期の『これは経費で落ちません!』は、話題性や華やかさはあまりなく、ドラマチックな内容でもない。しかし、脚本やキャストの良さ、丁寧な作りが、回を重ねるごとにジワジワと評価を高め、満足度も上昇し続けている。

■リアルでありつつも、シビアではなくコミカル

 多部が演じる主人公は、中堅せっけん会社の経理部で働く、奥手なアラサー独身女子・森若沙名子。毎回、彼女のもとに回ってくる怪しい領収書や請求書をきっかけに、思いがけぬ不正や人間関係などが浮かび上がってくるという物語だ。ネット上の声を拾ってみると、このドラマの好評の理由にはいくつかの要素があるようで、そのひとつがまずストーリーにおけるリアリティだ。

 近年は、お仕事ドラマというと、『わたし、定時で帰ります。』(TBS系)を筆頭として、リアルな作品が増えている傾向がある。しかし、本作の場合、リアルでありつつも、胸が痛くなるようなシビアな内容ではなく、描写はあくまでコミカル。そして、取り上げるテーマも、巨額な横領などではなく、小さな規模で、非常に身近であることが大きな特徴だ。

 例えば、経費で購入した物品を私的に利用したり、「自腹」で仕事のための小物を購入していたり、かと思えば、社長のお気に入り秘書は通常の手続きを経ずに許されてしまう「特別案件」だったり。また、「経理システムに入力して申請するのに、プリントアウトして印鑑を押して提出しなければいけない」という、日本の中小企業的な「あるある」も多く、それに対してさまざまな立場の人の考えや価値観、背景などが、実に丁寧に描かれている。

「秘書課と経理のやり取りがリアル過ぎて笑える」「経理人からするとあるあるとか共感多過ぎておもしろい」「会社を舞台にしたコメディだけど、変なところがリアル」など、SNS上にも、リアルさを楽しむコメントが多数見られる。

■共感度が高い多部未華子が演じるヒロイン像

 多部未華子が演じるヒロイン像への共感も多い。経理部というと、「細かい」「融通が利かない」「合理的で杓子定規」といったネガティブなイメージを持つ人も多数いるだろう。しかし、ヒロイン・森若は真っすぐ誠実かつ合理的に「規律」に従って仕事をしながらも、自分の理屈を他者に押し付けることは決してしない。他者の不正を暴いて得意げになるわけではなく、「正しいこと」であっても、それで傷つく人がいないかを考え、迷いを抱くこともある。

 他者の言葉に耳を傾け、それぞれの立場や役割を尊重し、価値観の違いを認め、受け入れていく寛容さや柔軟さも持っている。これは『わたし、定時で~』などから定着した感のあるお仕事モノの描き方かもしれない。

 さらに、森若の仕事の仕方で心地よいのは、「イーブン」を好きな言葉とし、臨機応変に「差し引きゼロ」を考えて処理する柔軟性だ。どこまでもフラットでフェアなモノの見方は、「上から目線」を嫌う今の時代の感覚にピタリとハマっている。また、『地味にスゴイ!校閲ガール・河野悦子』(日本テレビ系)あたりから、華やかな仕事ではなく、「自分に与えられた地味な仕事を粛々とこなす」ヒロインのあり方が、受け入れられてきている流れもある。

「貸借表で、ぴたりと数字がしまる瞬間が好き」と言い、達成感から漏れ出る笑顔の美しさ。自分の仕事に誇りを持ってのぞむ姿勢は、見ていて清々しく心地よいのだ。さらに、多部未華子を中心に、吹越満、伊藤沙莉、平山浩行、さらに第6話から江口のりこも加わった「経理部」の顔触れも良い。

 世代性別が異なる上手い役者ばかりで見せる軽妙なやりとりは楽しく、そこだけでもずっと観ていられる印象がある。なかでも吹越満演じる生真面目に見えてユーモアがあって、ちょっぴり“小物”っぽい「部長」には「部長の人とてもおもしろい」「部長同士(経理部部長・吹越と、営業部部長の角田晃広)のかけあい、部内のやりとりに笑えて、ラブが微笑ましい」「部長さんのハブられ方がサイコーにおかしいです」などの声が多数ある。

 派手さはなく、大きな出来事も起こらないが、経理という立場から見る会社の「あるある」と、人間模様を丁寧に描いたドラマ。本作には、途中から見てハマり、一気観したという視聴者もチラホラいるように、「質の高さ」が後から続々と客を呼び込む理想的な道をたどっているようだ。
(文/田幸和歌子)