テレビ東京系列で放送中のアニメ『ポケットモンスター サン&ムーン』(毎週日曜 後6:00)。主人公のサトシが、アローラ地方で初開催された“アローラポケモンリーグ”に出場し、ライバルたちと熱いポケモンバトルを繰り広げている。そして、サトシのライバル・グラジオとの決勝戦が始まったが、このタイミングでグラジオ役の声優・岡本信彦へインタビューを実施。ネットを通じて世界中の人とゲーム対戦をするほどのポケモンファンの彼は「常にプレッシャーを感じる現場で気が引き締まり、このタイミングでお仕事ができてよかった。いい意味で一番“怖い”現場でした」「演者は確立した正解パターンに寄せず、違う正解を求めていた」など、アフレコ現場の様子やポケモンへの熱い思いを語ってくれた。

【画像10枚】岡本信彦が担当するキャラ・グラジオ

■ファン歴23年が語るポケモン愛「じてんしゃの曲は懐かしさと辛い思い出が…」

 ポケモンとの出会いは、小学2年生の時にゲームソフト『ポケットモンスター 緑』を購入したのが最初です。「ゲームは1週間に1時間だけ」というのが家庭内のルールでしたが、ゲームボーイなので友人と公園でやったり、布団に潜ってやっていました(笑)友人のパーティが全部伝説のポケモン・ミュウツーで、こちらはスリーパーの“さいみんじゅつ”、ジュゴンの“ふぶき”で凍らせたりして戦っていました。ボコボコにやられるのですが「いつか勝ってやる!」と誓い、大学生の時に『ポケットモンスター ダイヤモンド・パール』をたくさんプレイして、ネットを通じて世界中の人たちとレーティングバトルをしていました。強いポケモンを育成するため、ファンの方ならわかると思うのですが、ゲーム内のじてんしゃに乗る時の音楽を聴くと子供のころの懐かしさと育成の思い出が蘇ります(笑)

 そんな中で、マネージャーさんから「『ポケモン』出演のお話が届いています。ヒロインのお兄ちゃん役です」と言われて「グラジオじゃん! やったー!」と喜んだのを覚えています。

 原作のゲームだとグラジオはスカル団の用心棒として登場しているのですが、アニメだと孤高な存在、バトルも強いという設定だったので、それが新鮮に見えて興奮しました。なので、収録の前日は、ゲン担ぎの意味も込めて鰻(うなぎ)を食べました(笑)普段のお仕事では、そのようなことはしないのですが、ポケモン好きとして気持ちが抑えきれませんでした。

■収録現場はプレッシャーの連続で「怖い現場」 学ぶ環境に声優業と改めて向き合う

 初めて収録現場に行った際は、「すごい人たちで構成されているな…」と現場で改めて感じました。サトシ役の松本梨香さん、ピカチュウ役の大谷育江さんといった演者の方、スタッフの方、すべての人たちが妥協せずに挑んでいて驚きました。僕の勝手なイメージだと、長期シリーズの作品はキャラクターがすでに完成されていて、『正解』パターンが確立しており、イメージを壊さないためにも「それに寄せる方向なのかな?」と思っていたのですが、「もっと、上がある。違う正解がある」と全員一丸となって取り組んでいました。常に成長を求めていて、これが20年以上愛され続ける作品の現場だと理解しました。

 演者側も“サトシ”“ピカチュウ”などキャラのイメージを記号化せずに、その場でしか出せない演技をするので、「マジか、この現場…」とビビってしまいました(苦笑)今までで経験した中で、いい意味で一番“怖い”現場でした。「なに、チンケな芝居をしているんだ」と見られかねない現場でしたので、後ろでレジェンドの方々が待機している時は「お前はどこまでやれるの? どういう芝居をするの?」という勝手な解釈をしてしまい冷静でいられなかったです。

 さらに、ポケモンバトルを通じて戦うわけですから、それは、それは…必死でした。声優のお仕事を始めて、有り難いことに順調にキャリアを積み重ねているのですが、このタイミングで『ポケモン』の現場に関わることができてよかったです。気持ちが緩んでいたわけではありませんが、気を引き締め直し声優業に向き合うことができました。

 事務所の後輩でカキ役の石川界人君とご飯を食べながら、「グラジオのルガルガン役の三木眞一郎さん(ロケット団のコジロウ役も担当)、バクガメス役の三宅健太さんのバトルすごかったよね…」と現場について語り合うこともありました。偉大な先輩方に囲まれる現場ですので、自然と演技などを学ぶ機会が多い。僕もプロとして活動しお金をもらっている以上、学ぶ意識は養成所までなのですが、それでも学んでしまう。プレッシャーをかけられているわけではないのですが、こんなプレッシャーを感じるのは、ポケモンの収録現場だけです。

■クール&熱血キャラの役作りに悩む「演技の仕方は特殊」 サトシとのバトルに感激

 僕が演じるグラジオは冷静なキャラクターなので、こちらが力を入れてしまうと「必死過ぎる。その時点で、グラジオは負けているキャラクターになってしまうよ」と演出のアドバイスをいただくことがありました。クールにすると力強さがなくなるため、「力強さもあってクールな演技はどうしたらいいのか」というのはグラジオ役として悩みました。

 今まで別作品でクールなキャラクターは演じていましたが、グラジオは演技のアプローチが違うなと。クールではなく、むしろ熱いキャラクターとして挑みました。熱血だけど相手の動き、ポケモンへの指示を見て分析することにより「クールに見えたらいいな」と思いました。さらに、自らが戦うのではなく、パートナーのポケモンに指示を出して戦うため、「行けー!」と叫んでも実際に戦うのはポケモン同士。「バトルをしているのは誰?」という演出指示もあるほど、自分のポケモンを通して相手に敵意を伝えるため、演技の仕方は特殊だったなと思います。 そんなグラジオは「蒼き月のZを浴びし岩塊が今… 滅び行く世界を封印する!」「月の魔眼よ! 闇の魔宮を照らせ!」など、いわゆる中二病ぽいセリフを言うのですが、これは自身を鼓舞するような感じで声を出させていただきました。彼にとっての勝利へのルーティーンみたいな。ほかのキャラクターたちは、ここまでのセリフは言わないのですが、妹のリーリエも同じようなことを言っていたので、血筋なんでしょうね(笑)

 一番うれしかったシーンはサトシとのバトルです。「サトシ!」というセリフを言った時に、「あ、ポケモンの仕事をしている!」と実感しました。小学校の時から見ていたサトシとグラジオを通して会話をしていることや、ルガルガン対決の回ではバトルに勝てたことが嬉しかったです。ただ、ポケモンファンの僕がひとつ言いたいのはサトシとグズマの対決。グズマがパートナーのグソクムシャを使っていたのですが、ピカチュウからのダメージもありモンスターボールに戻るシーンがありました。アフレコ現場では「なんでボールに戻っちゃったのかな?」と疑問の声が出ていたのですが、「あれは、グソクムシャの特性“ききかいひ”※が発動したんですよ…」と言いたかったです(笑)※HPが半分になると手持ちに戻るポケモンの特性

■“ポケモンネイティブ”世代出演で変化する現場「世界観の説明いらず化学変化」

 グソクムシャの件は、スタッフさんから説明もあったのですが、僕が驚いたのは、「ポケモンの収録現場でここまでゲームのお話ができるのは岡本さんだけですね」と言われたことです。僕の様に幼い頃からポケモンに触れ合った人たちを、スタッフさんの間では“ポケモンネイティブ”と呼んでいるみたいです。20年以上続いているアニメ『ポケモン』シリーズに、僕のようなポケモンに触れ合ってきた世代が多く出演してきているのです。

 ポケモンに育ててもらった世代なので、ポケモンの特性やストーリーの流れなど詳しい説明がいらない。「なぜ、こうなるのですか?」というポケモンの世界観についての質問がないのが特徴らしく、ゲームに詳しくない世代と詳しい世代がうまく融合して補完し合っているので、現場に良い影響を与え化学変化が起きている。かがくのちからってすげー(笑)

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