会場を包むそぼ降る雨の音が次第に遠のいていき、一瞬の静寂に包まれる。これがスイッチとなり、気づけば観客は、物語世界に引きずりこまれている。キャストの朗読だけでなく、生演奏、舞台美術、照明、衣装、特殊効果、そして香り…と五感を刺激する演出が生み出す圧倒的な臨場感によって、いわゆる『朗読劇』や『演劇』とはひと味違った舞台を体感できる音楽朗読劇、それが「サウンドシアター」の醍醐味である。

【写真】レーザー光線を反射させた演出で世界観を増幅させたステージ

■新作で描かれるのは日本の伝統芸能・文楽の世界

 あるときはヴァイキングが隆盛を極める11世紀の北欧、あるときは人と妖が共存する自然豊かな田舎町、あるときは大学の部活と、毎回バラエティ豊かな舞台設定で楽しませてくれるサウンドシアター。10月5日~6日に千葉・舞浜アンフィシアターで行われる新作『SOUND THEATRE × 火色の文楽』では、約400年の歴史を誇る日本の伝統芸能・文楽の世界が舞台となっている。

 原作は、北駒生『火色の文楽』(ゼノンコミックス/ノース・スターズ・ピクチャーズ)。主人公は、「バレエ界の星」として期待を一身に集めていたが、練習中の怪我によって、バレエへの夢を絶たれてしまった少年・迫弓矢。失意に暮れなか、幼馴染に連れられて人形浄瑠璃・文楽に出かけた彼は、そこで聴いた義太夫の声に激しく心を揺さぶられる。それをきっかけに、文楽の世界に足を踏み入れ、自分と同年代の三味線奏者の弦治や人形遣いの柑太と出会い、青春の炎を燃やし始めていく。

 主人公が目指す太夫は、物語の語り手。三味線の音色と一体になって、物語の背景から場面の情景、登場人物全員の言葉など、全てを一人で語り分けていく。単に声音を変えるのではなく、喜怒哀楽豊かに役の性格を演じて、観客のイメージを掻き立てていくということでは、ある意味、一人朗読劇に近い世界なのかもしれない。そこに、まるで生きているかのような人形の動さが加わることによって、浮かび上がってくる人間の本質…。今回、文楽をテーマに選んだ理由について、サウンドシアタープロデューサーの青木照和 氏(アハバ クリエイティヴ パーティ)は次のように語る。

「最上の芸を追い求めて、もがきながら成長していく少年たちの姿を描いた原作を読んで、どうしてもこの世界を表現したくなりました。文楽の深遠なる世界観にすっかりとらわれてしまったわけです。サウンドシアターとしては久しぶりの和モノであり、しかも現代劇です。これまでとはひと味違った、新たな境地を開く作品になると思います」

■太夫・三味線・人形遣い、現役の演者も参加するスペシャルなコラボレーションが実現

 この奥深い世界に魅せられた若者を演じるのは、天崎滉平(迫弓矢役)、日笠陽子(入江 湊役)、熊谷健太郎(柳川弦治役)、市川太一(大楠柑太役)といった面々。普段は、声優として数々の人気作で活躍する彼らだが、「作品の面白さに力を貸していただきつつ、天崎も最大限の力で挑み、 いい朗読劇にしなければと強く感じました。文楽を知らない方々にもこの朗読を通じて興味を持ってもらえると素敵だなと思います」(天崎)、「人形浄瑠璃・文楽、三味線、音楽、そして私達声優の声の芝居が融合・化学反応を起こしどんな世界を魅せてくれるのか非常に楽しみです」(日置)、「原作の火色の文楽を読ませて頂いた時に強く印象に残った弦治の文楽と三味線への思いや、言葉や音の表現をどう形にできるのか楽しみと難しさを同時に感じております」(熊谷)、「健一つのことに一生懸命取り組む姿はまさに青春!そんな清々しさを臨場感のある生の音楽に乗せてお届けする音楽朗読劇。会場でしか味わえない感動を受け取っていただけると思います」(市川)と、かつてない体験に興奮を隠せないようだ。

 そして、「火色の文楽」の世界感を増幅させるのは、音楽監督・土屋雄作率いる音楽陣だ。今回は津軽三味線日本一の称号を最年少で手にした藤井黎元も加わり、物語にさらなる陰影を与える。それだけではない。今回のサウンドシアターには、人形浄瑠璃・文楽から、太夫:豊竹希太夫、三味線:鶴澤友之助、人形:吉田一輔、吉田玉翔、吉田簑悠の参加も決まった。現役の演者によって物語の中の演目も楽しめるという、まさに、ここでしか見ることのできないスペシャルなコラボレーションは必見だ。

 文楽の世界を再構築することによって、果たして、どのような独自の世界が面前に展開されるのだろうか。『SOUND THEATRE × 火色の文楽』は、音楽朗読劇のさらなる可能性を切り拓く、そんなチャレンジングな作品である。
(※天崎滉平の崎は、立つ崎が正式表記)