テレビ評論家であり、コラムニストやイラストレーター、ワイドショーなどでコメンテーターとしても活躍中の吉田潮さん。6月に発売された著書『くさらないイケメン図鑑』(河出書房新社)では、独自の鋭い観察眼で、現代日本を代表するイケメン265人を分類・リスト化し、うち100人をイラスト入りで解説している。吉田さんが考えるイケメンの定義とはどういったものなのだろうか。

【イケメン図鑑】菅田将暉に田中圭…一世風靡したイケメン俳優イラスト

■テレビドラマのキャスティングは、”時代を映す鏡”

――『くさらないイケメン図鑑』を書くことになったきっかけを教えてください。
【吉田潮】石黒謙吾さんという編集者さんが声をかけてくださったんです。2年前の年末くらいに、「まだ版元も決まってないんですけど、方向性としては『イケメン図鑑』みたいなやつはどうですか?」って。「全くイケメンに興味ないですけど大丈夫ですか?」と答えたら、「そのほうがいいと思います」と言われて。私は脇役の俳優が好きなので、脇の俳優で1冊できないかって企画は出したんですけど、「それじゃあ売れないよ」と言われて、「それはそうですね」と…。

――吉田さん自身は「イケメンに愛着がない」とも語られていますよね?
【吉田潮】そう、ない!(笑)結果的に愛はあるんだろうけど、別にイケメンを好きではないんですよ。「イケメン」って、ちょっとバカにしたような一面もある言葉じゃないですか。演技力のある人とか、迫力のある人とかがすごく好きなんですけど、そうでない人を「イケメン」としてひとくくりに扱っちゃう部分もあるなって。

――たくさんのイケメンについて書かれていますが、本の製作は大変でしたか?
【吉田潮】イケメンって次々に出てくるじゃないですか。この前まで間宮祥太朗って言ってたのに、もう吉沢亮じゃないかと。なので、リストからまずアップしていき、実際に描き始めたのは今年の3月からで、まず100人の絵を描きました。100人ということは、ぴったり100では終わらないんですよね。ラフを描いて似てないってなると、おそらく3~400人分は描いているわけですよ。それを3月いっぱいでやりました。

――その時点でかなりハードですね。
【吉田潮】4月になると、今度は100人分の原稿を書くわけです。で、5月に入ってからは、図鑑は人数が多いほうがいいということで、本で打ち出しているのは265人なんです。つまり100人分の原稿とイラストは入っているけど、残りの165人はリスト。しかも、途中からリストに載せるものにもキャッチコピーを全部考えたほうがいいとなって。165人ぶんのキャッチコピーを5月の頭で考えた。だから賞味2ヶ月半ぐらいでやったんですよ。プライベートでも色々あった時期で、本当に大変で地獄でした。でも、人間死ぬ気でやればできるんだなと自信はつきましたね。

――本に登場する「イケメン」の定義はありますか?
【吉田潮】基本はドラマをベースに、テレビドラマと映画で活躍されている人を入れています。テレビドラマのキャスティングはやっぱり人気者を入れるところがあるので、時代を映す感じはしますよね。でも、クソドラマもあるんです。そのクソドラマもちゃんと救うよっていう気持ちも込めました。どうでもいいなぁと思うドラマに、こんなイケメンとか、いい役者が出ているのかいってね。そういう忸怩たる思いもあって、そういったものを残したいと思ったわけです。

■「イケメンだけを出していたらいいと思うな」ということは釘を刺しておきたい

――振り返ってみて、「イケメン」を定番化させたエンタメ作品をあげるとしたら、どういったものが思い浮かびますか?
【吉田潮】『花より男子』とか『ウォーターボーイズ』とかで、若い男の子たちが徒党を組んで団体で出てくる作品は結構ありましたよね。『花男』でいったら「F4」が出てきて。チームあるいは少人数のイケメンたちが繰り広げる学園ものって、ひとつの流れではあったと思います。色々なタイプのイケメンがいて、その中から自分のお気に入りを選ぶっていう。それってアイドルの戦法ともかぶるところがありますね。

――最近は朝ドラにもイケメンがよく出てきますよね。
【吉田潮】今の朝ドラを見ると、とりあえず出しときゃいいみたいな感じで、イケメンがたくさん出てくる。それでヒロインが目立たなくなるというか、Twitterでも話題になるのは“男子”なんですよね。今回の『なつぞら』だったら、吉沢亮派なのか、清原翔派なのか、いやいや藤木直人でしょとか、でもやっぱり草刈正雄だよねとか。女性としては楽しいんだろうけど、ドラマ全体を見たときにそっちばかりがクローズアップされて、ヒロインの物語が前面に出てこないのはすごく問題だなと思うんですよ。だから、イケメンがあまりにも多いのはやめてほしいなと。

――確かにそうかもしれませんね。
【吉田潮】でも今、非イケメンで徒党を組ませるっていう真逆の動きもあって。『いだてん』ですよ。基準は人それぞれですけど、『いだてん』ってイケメンがいないじゃないですか。中村勘九郎と森山未來って私はすごく好きですけど、いわゆるイケメンではないですよね。後半になって斎藤工が出てきて、ようやくイケメンが出たけど、主軸は阿部サダヲで、彼もイケメンではないじゃないですか。非イケメンの群像劇の大河って、私はああいう形もいいと思うんですよね。そんな中に斎藤工や大東駿介がいるというのはリアリティもある。だから、「イケメンだけを観たいわけではない」「イケメンだけを出していたらいいと思うなよ」っていうのは、常に釘を刺していきたいです。

■「人として真っ当である」ことが今のイケメンの最重要定義になっている

――今と昔では、「イケメン」の定義に違いがありますか?
【吉田潮】バブルの頃は、高学歴、高収入、高身長の3高がイケメンの条件だったじゃないですか。昔はすごく厳しくて、スタイルが良くて身長も高くて、足も長くて、パーフェクトが求められていた時代があった。でも、バブルが弾けて不景気な世の中になってからは、そういうことよりも「優しい」とか「女性に対して嫌なことをしない」とかが大事になってきた。そして「頭が良い」ことも求められなくなったというか、”人として真っ当かどうか”みたいな。それを役にしちゃうとちょっとつまんないんですけどね。昔はヤンチャでも仕方がないよねっていう空気があったけど、今はそれが許されない。人としてちゃんと仕事をしているかとか、ファンに対しての振る舞いとか、そういうところが基準になってきていますよね。男らしさの定義も変わって、「俺について来い」みたいな強い男にも惹かれなくなってきている。女性が強くなったからこその幅の広がり方はあるのかなと思ったりもします。

――今後はどのようにイケメンの分析をしていきたいですか?
【吉田潮】俳優さんの中には「俺はイケメンじゃねぇ」って思っていらっしゃる方もいるはず。役者としてどういった扱いを受けるのが本人にとっていいのかを考えると、「イケメン俳優」ってひとくくりにされる“侮辱”があるんじゃないかなと思うんですよ。本当のところを言うと、「イケメン」という言葉以外で表す言葉がほしいんですよ。新たな言葉を生み出したい。もっと違う役者さんとしての実力を表すような言葉ができればいいなとは思います。

――最後に、これからの展望を教えてください。
【吉田潮】無駄にテレビドラマを観ているので、それを活かせれば。どこかで「ドラマ図鑑」みたいなものを作りたい。昔は大勢の人が観ていたのに、今ってもうテレビが下火なので、テレビドラマも真剣に観ている人が少ない。だからこそ、真剣に観ている人間としては、「こんなところがおもしろいんだよ」というのを歴史として残したい。「本当に見るべきポイントはここだよ」みたいな。忙しい人に代わって、無駄にテレビを観ている人間として、粘着質な意見を書いていければなと思います(笑)