テレビ東京の強みは、誰もが気づかなかったような穴を見つけ、それを広げて昇華させる発想力にある。それは、「お金がない」「人がいない」「場所がない」という命題と向き合ってきたテレ東スタッフ陣の知恵と工夫と熱意の成果でもある。一方で、そんな「テレビ東京らしさ」が、他局の“テレ東化”で薄れつつある。そこで、今までにない新しいビジネスモデルを展開している同局のバラエティ番組『青春高校3年C組』(毎週月曜~金曜 夕方5時30分~テレビ東京ほかで生放送中)で総合演出を務めている同局ディレクター・三宅優樹氏に取材を敢行。一般化する「テレ東らしさ」や、「視聴率」という絶対的な指標の今後など、TV業界の気になる舞台裏を聞いた。

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■テレビ東京にはお金がないし人もいないが、若手にチャンスをくれる

――三宅さんは、もともとテレビ業界を志望していたんでしょうか。

【三宅優樹】いえ、元々は製造メーカーを志望していました。大学時代に1年間アメリカに留学してマーケティングを専攻した影響で「世の中にないモノを創りたい。ゼロからイチを創りたい」と思うようになったからです。でも留学中に偶然、テレビ東京の採用募集を見つけて、その年の採用キャッチフレーズが「ゼロからイチの発想力」だったんです。自分のやりたい事がここにあるかもしれないと思って、すぐに応募しましたね(笑)。

――アメリカ留学を1年間された理由というのは?

【三宅優樹】実は、僕は受験に失敗してから、何かを成し遂げた経験がなくて、人生で頑張ったことがないやつが、この先何かを頑張れるのか。大学3年の頃は、自分自身に対して疑心暗鬼の時期でした。だから、そんな自分を変えるために、1年間アメリカ留学をしたんですよ。

――では、アメリカ留学で相当鍛えられたわけですね。

【三宅優樹】それが…授業や宿題も当然全て英語。もう行ってみたら案の定めちゃくちゃキツくて、かなり精神的にも参りました(苦笑)。このままではダメだと思って、土曜日の2時間だけ「日本のお笑いやドラマを見る時間」というご褒美ルールを作ったんです。そこでたまたま見たのが『ゴッドタン キス我慢選手権』(テレビ東京系)。今でも覚えてますけど、留学10カ月目にして初めて声を出して笑いました。その時「面白いものって誰かが創っているんだ」ということを実体験として捉えることができました。テレビ東京を志望した理由として、この経験も大きかったですね。

――入社されて約10年。テレビ東京はどんな会社だと感じていますか?

【三宅優樹】会社の人や上司によく言われるのが「お金がないし人もいないから、他局のモノマネはするな。自分らしさを大事にしろ」と。とにかく人が少なくて、他局の1/3くらいの人数で同じ枠を放送しなければならない。でもマイナスばかりかといったらそうでもなくて、その分、特番などを担当させてもらう機会が他局よりも多く、若手にもどんどんチャンスをくれますし、失敗に対しても寛容だと思います。

――「テレビ東京はお金がない」とネタのようによく言われていますが、実感する時はありますか?

【三宅優樹】それはしょっちゅうありますよ(笑)。作家さんや制作会社の人など他局で仕事している人にもよく言われます。僕らは基本的に自分でカメラを持って撮影することが多いんですよ。『家、ついて行ってイイですか?』もディレクターがカメラ片手に撮影していますよね。ADの時から「カメラマン雇う金がないから、お前がカメラ持って撮ってこい」と平気で言われてるので、「自分で撮って自分で編集して放送する」という流れは、新人の時にとにかく叩き込まれます。他局のように「カメラマン」「音声」などの技術スタッフがいないロケがほとんどですよ。あと、お金がないから豪華なスタジオセットは組めないし、組もうともしない(笑)。『家、ついて行ってイイですか?』は他人の家で収録してるし、『YOUは何しに日本へ?』はブルーバック。どの番組もお金がないからこそ、アイデアを出し合いながら創っています。

――『家、ついて行ってイイですか?』『緊急SOS!池の水ぜんぶ抜く大作戦 』『YOUは何しに日本へ?』といった番組は、「1つのコンセプト」を突き詰めることでヒット番組になりました。

【三宅優樹】どの番組も明確な「1つのコンセプト」で番組が作られていて、視聴者の方にいかに面白いと思ってもらえるか、共感してもらえるかを徹底的に研究した成果だと思います。他局でやっていないことは勿論ですが、“出演者ありきのつくり方”ではないのが、「テレ東らしさ」と言われる部分のひとつなんだと思います。

■リアルタイムで反映される「視聴率」というビジネスモデルは時代に即していない

――一方で、他局でもテレビ東京フォーマットに倣った「1つのコンセプト」番組が増えていて、他局が“テレビ東京化”したような印象も受けます。

【三宅優樹】『ポツンと一軒家』(ABCテレビ・テレビ朝日系)が始まった時、「この番組はテレ東がやらなければいけない番組だったな」と思いました。多分、みんな思ったんじゃないですかね。ただ、見ている視聴者の方にとってはどの局で放送されているかはあまり関係がないような気もします。もちろん「他局の真似をしないこと」「テレ東らしさ」は必要なんですが、僕らは「らしさ」に引っ張られすぎずに、変わっていくメディア環境の中で新しい事にもチャレンジしていていかなければならないと思います。

――つまり、一般化された「テレ東らしさ」ではなく、既存にはない新しい「王道」を模索する段階にあると。

【三宅優樹】そうですね。今はテレビ東京にとっての「次の王道」を、もう一度“ゼロイチ”で生み出す必要があると思います。そういった動きの中で「テレ東らしさ」は後からついてくると思います。

――「らしさ」を感じてもらえるために「結果」も必要になってくるかと思いますが、やはり視聴率は気にしていますか?

【三宅優樹】ゴールデンの番組は特に気にしますね。「数字が取れないけど面白い」というのは、ゴールデンの枠では通用しないと思っています。僕らは会社員ですし、「視聴率」が営業の売り上げに繋がるのが分かっています。現行がそのルールであるならば、それに習ってベストを尽くさなくてはいけない。「テレ東らしい」と言われた『池の水』も『家、ついて行って』も、数字をしっかり取っていましたよね。僕も多くのゴールデン帯の特番に携わってきましたが、数字を取らないと「テレ東らしい」という土台にすら立てない。それは忘れてはいけないと思っています。

――ただ、最近では「視聴率」への考え方も変わってきたのではないですか?

【三宅優樹】リアルタイムで反映される「視聴率」というビジネスモデルは、間違いなく今の時代に即していないと思います。どんどん変わるべきだと思いますが、まだまだ変わっていないのが現状です。配信と連動した番組や、特定の層、例えば20代にターゲティングされた番組など、コンテンツとしての魅力や人気がある番組がどんどん評価され、それがビジネスモデルとして成り立っていく。そんな形態がどんどん増えていって欲しいですね。

■視聴率を指標としない『青春高校3年C組』が提示する新時代の「IPビジネス」

――そういった意味では、総合演出として担当している『青春高校3年C組』は、秋元康さんと佐久間宣行さんがタッグを組み、他局がニュース番組をやっている時間帯に若者向けの番組を生放送しています。

【三宅優樹】この番組を担当することになって、まず最初に言われたのが「視聴率」は関係ないと。入社してから、初めてそんな事を言われました(笑)。会議でも「視聴率」の言葉や話題が出たことは、ほぼありません。おそらくそれは、この番組が今までにない形で制作されているからなんだと思います。

――今までにはない形とは?

【三宅優樹】実は、この番組を担当している部署は主にバラエティ番組を担っている「制作局」ではなく「コンテンツビジネス局」なんです。コンテンツビジネス局は、番組の二次展開やネット配信をしてお金を稼ぐ部署。だから、制作専門の佐久間や僕が番組を作って、コンテンツビジネス局が配信やビジネス面を担当している。「LINE LIVE」や「Paravi」の配信を活発にやっているのも「コンテンツビジネス」としてどのように広げていくかありきで考えているからなんです。この番組でやっているのは、今までの「視聴率ビジネス」ではなく間違いなく「IPビジネス」だと思います。

――この新しい形の番組に「総合演出」として2年間携わって、手応えをどう感じていますか?

【三宅優樹】みんなには笑われるんですが、『青春高校3年C組』は絶対売れると思っています。総合プロデューサーの秋元さんも自信満々で、今までのアイドルビジネスに新しい風穴を開けられるんじゃないかと本気で思っています。『青春高校3年C組』には色んな個性を持った面白い子たちが揃っています。その子たちの魅力を知ってもらうために、今年は番組の中だけではなく『テレ東音楽祭』や『TIF(日本最大規模のアイドルフェス)』、『週刊プレイボーイ』の表紙といったメディア露出もどんどん増やしました。毎日の番組を創ることだけではなく、どうすれば初めて見る人にも彼らの魅力が伝わるのかと、ある種のタレントマネジメントの様なこともやっています。

――ターゲット層である若い人の支持や反響を感じますか?

【三宅優樹】今までテレビ東京にいて、若い人たちに見てもらっているという実感がずっとなかったんですよ(苦笑)。でも『青春高校3年C組』をやるようになって、10代の人からもたくさん応援の手紙が届くようになりました。それ以外にも、twitterやLINE LIVE、劇場に来るお客さんからもダイレクトに感想が届いたりします。今までの仕事では感じることが出来なかった番組のファンの方と触れ合う事ができるようになった。そういった反響はとても嬉しいですね。

――『青春高校3年C組』の番組制作における、三宅さんの「強み」とは?

【三宅優樹】僕は「物語」を創る事が好きなんです。若手の時、「人が死ぬ前に見る景色」をテーマにしたドキュメンタリー番組を創りました。自分の考えている事や大切にしている事、自分の人生を反映した部分や、僕の想いや熱意を盛り込みました。だから企画も通ったし、その番組で賞も頂きました。『青春高校3年C組』はバラエティの佐久間が創る「面白さ」と、僕が創っている「物語」。それが合わさって、彼ら彼女たち42人の「成長物語」になっていると思います。

――秋元康さんや佐久間さんというTV界の”偉才”から受ける影響は?

【三宅優樹】まず、一緒に仕事ができる環境は本当にありがたいですし、学ぶことが多いです。ただ、お二人と同じフィールドで勝負したら絶対に勝てませんが、「物語を創る」ことにおいては、二人に負けたくないと思っています。恐らくですが、佐久間もそこを評価してくれて、この番組を任せてくれている部分もあると思います。

――最後に、三宅さんの仕事への「原動力」を聞かせてください。

【三宅優樹】たまに、今までの人生の中で味わったことがないご褒美をもらえる瞬間があって。見たことのない景色や信じられない感動を『青春高校3年C組』で経験させてもらっています。1年半やらせてもらって恥ずかしげもなく言うと、彼らのことを好きになってしまった。最初はビジネスライクな付き合いにしようと思っていたけど、心の底から彼らの夢を応援したい。AKB48ではないですが、世の中の誰に聞いても『青春高校3年C組』を知っている。彼らがそんな存在になるように、世間をあっと言わせる番組を創っていきたい。それが僕の「大きな原動力」です。

取材・文 山本圭介 SunMusic