NHKで放送中の連続テレビ小説『なつぞら』(月~土 前8:00 総合ほか)に、新宿のおでん店「風車」の女将・岸川亜矢美役で出演する山口智子。いつ見ても明るく輝くように生きている亜矢美だったが、その裏には放送時に「8割、9割カットされている」という山口のある取り組みがあった。

【写真】第123回より。なつの出産の日が近づいてきた

 元は踊り子で、戦後まもなく新宿に再建された劇場「ムーランルージュ」で人気を博していた亜矢美。ムーランルージュが潰れた後、新宿の一画でおでん店「風車」を開いた。「おでん店のカウンターも亜矢美にとっては舞台。毎日、舞台に立っている気持ちで演じた」と話していた山口。

 「亜矢美は、歌と踊りとともに生きている人。なので、風車のシーンでは必ず何か歌っていようと決めていました。物語に合わせて、その時々に流行っていた歌の中から、そのシーンの登場人物の気持ちを代弁するような歌をチョイスして、共感できる歌詞の部分を歌いました。放送を見ると、8割、9割カットされていてちょっとショックですけど」と笑いながら打ち明けた。

 なつが上京して、咲太郎を探していることを初めて知った後には、「♪どこにいるのかリル」と、「上海帰りのリル」を歌いながら店先の掃除やおでんの仕込みをしていた(第45回)。咲太郎がなつに亜矢美を紹介した時は「北海道から出てきたなっちゃんの素朴さと母親の気持ちになって」、「リンゴの唄」を歌っていた(第46回)。

 フラメンコをやっていることで知られる山口だが、カスタネットを鳴らしていたこともあった(第57回)。「スタッフさんがセットに置いておいてくれるんですよね。じゃ、使わせていただこうと思って」(山口)。坂場が初めて風車を訪れた時には「カスバの女」の歌詞にある「酒場」と「坂場」をかけて歌っていた(第90回)。

 オンエアされていないだけで、「“戦後の歌謡ヒットメドレー”のVTRが作れるくらい」、シーンに合わせて準備して撮影に臨んでいたという。無駄になるかもしれなくても、誰に頼まれたわけでもなく…。

 連続テレビ小説第100作の節目となる『なつぞら』への出演は、第41作『純ちゃんの応援歌』で女優デビューした山口にとっては約30年ぶりの“朝ドラ”。「(広瀬)すずちゃんを見ていると、ヒロインという立場に、かつて自分もいたことが信じられない(笑)。当時の私はただの素人。次から次にふりかかる難題をどう乗り切っていたのか、それが若さの力というものだったのか、朝ドラが生み出す魔法なのか、確かに何か奇跡のようなものが起きていのかもしれない」と、当時に思いを馳せる。

 「朝ドラは、私の人生のすべてのきっかけをくれたお母さんのような存在。感謝してもしきれないぐらい感謝しています。その恩返しさせていただきたいというか、ちょっとでも皆さんのお役に立てたらという気持ちで臨んでいます。撮影現場では、若々しいエネルギーにあふれたみなさんが、本気で根性を見せてぶつかってくる気迫と豊かな才能が素晴らしくて、ものすごい刺激をいただいています」。

 恩返しのつもりもありながら、いくつになっても得るものが多いのが朝ドラの現場のようだ。「年齢を重ねることが今本当に楽しいです! 年を取ると、自分の好きなことや大事なことに対するフォーカスが明確になってきて、余計な力も抜けて、人生を味わう楽しさを日々実感できている手応えがあります。50年ちょっと生きてきて出会ったたくさんの感動という宝物を、お芝居にも生かしていけたらいいですね。人生への感謝とともに、もっともっと楽しんで色々なことにチャレンジしていきたいです。人生の一瞬を最高に輝かせるために、歌い手やギターや踊り手が力を合わせる即興芸術がフラメンコですが、お芝居も同じで、その場に立ち合った者同士が心を交わしあって、一期一会の面白い化学反応を巻き起こしてゆけたらいいなと思います」。

 ヒロイン・なつ(広瀬すず)の兄・咲太郎(岡田将生)と実の親子のような絆で結ばれ、北海道から「漫画映画を作りたい」という夢を抱いて上京したなつを住まわせ、服も貸して、物心両面で応援してきた亜矢美。なつが坂場(中川大志)と結婚して家を出て、咲太郎も光子(比嘉愛未)も結婚。新宿の再開発で風車に立ち退き話が持ち上がる中、第118回(8月15日放送)で、亜矢美も新たな一歩を踏み出すことに…。

 「亜矢美と咲太郎は、親子を『演じる』ことで人生の辛苦を乗り越えてきました。亜矢美にも結婚の約束をした人が戦争に行ったきり帰ってこなかったという悲しい過去があって…。愛する人を失いぽっかりあいた心の穴を埋めて、生きる力をくれたのが咲太郎でした。咲太郎は亜矢美にとって、最愛の息子であると同時に、人生のパートナーとしてなくてはならない存在です。だから亜矢美は、咲太郎の巣立ちを祝福したい気持ちと同時に、ずっとこのまま心の恋人であり続けてほしい子離れできないジレンマに戸惑います。最後にはそれを振り切って、自分の人生をもう一度生き直してみようと決意し旅立つ亜矢美の心境は、現代の私たち女性みんなに通じるテーマでもあると思います」。