「科学は嘘をつかない」と、科学や法医学などの専門技術を駆使して真実に迫るのは、テレビ朝日で「SEASON19」が放送中の人気ドラマシリーズ『科捜研の女』(毎週木曜 後8:00)の主人公・榊マリコ(沢口靖子)。4月から1年間のロングラン放送している同ドラマに続いて、「真実とは勝者に与えられるものだ」と言い放ち、権力によってねつ造された“嘘の鑑定結果”が真実になってしまうドラマが7月から放送されている。『サイン―法医学者 柚木貴志の事件―』(毎週木曜 後9:00)。主演は、民放連続ドラマ単独初主演となる大森南朋。

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 「法医学」という共通項はあるにしても、『科捜研の女』と『サイン』は何もかもが対照的。『科捜研の女』の舞台となる“科捜研”は、正式名称を「京都府警科学捜査研究所」といい、各都道府県に一つずつ設置されている実在の機関。一方、『サイン』の舞台となる「日本法医学研究院」は、先進国の中でも解剖率が最低レベル、「死因不明社会」と言われる日本の現状を打破するために、約25年前に設立された架空の国家機関である。

 『科捜研の女』は、1話完結(時に2週にわたる前後編)のオリジナル脚本で、すでにおなじみとなった登場人物たちの活躍により事件は必ず解決する。一方の『サイン』は、韓国で2011年に放送されたドラマ(全20話)が原作で、エピソードが並列的に描かれ、それらが複雑に絡み合い、衝撃的な結末につながっていく。日本版では1クールにリメイクされ、毎話めまぐるしい展開を見せている。

 『科捜研の女』はマリコの正義がメインだが、『サイン』は異なる正義があって、「スター・ウォーズ」に例えるなら、正義のライトサイドにいるのが主人公の解剖医・柚木貴志(大森)で、ダークサイドにいるのが日本法医学研究院の新院長に就任した伊達明義(仲村トオル)。

 柚木は、『科捜研の女』のマリコと同じ、人を救うことができるのは、ただ1つの真実でしかないと、遺体に遺された真実の証(サイン)と正義を、愚直なまでに求めてきた。しかし、世の中には、権力を縦(ほしまま)に自分に不都合な事実を隠ぺいしようとする者たちがいて、解剖結果への干渉を許したり、忖度したりすることもある、法医学の“暗黒面”を伊達が背負っている。

 8日放送の第4話で、伊達も若い頃はライトサイドだったことが明らかになった。兵藤の下で遺体の声なき声に真摯に耳を傾ける、良心と正義のある解剖医で、日本法医学研究院の設立を悲願としていた一人だった。しかし、「無力さゆえに大切なものを失った」ことで、兵藤のやり方にNOをつきつけて去っていった。「真実とは勝者に与えられるものだ」と思い悩んだことが、一つのきっかけになり、自分の正義を貫くために、時には解剖結果の改ざんもいとわない、ダークサイドに墜ちてしまったのだ。

 第1話で、ライブ会場の控室で死んでいるのが発見された人気歌手・北見永士(横山涼)の司法解剖をめぐる騒動が描かれ、兵藤が院長を辞任。伊達は日本法医学研究院の新院長に就任する。「日本の法医学を改善するためにこの(日本法医学研究院の院長の)椅子に座った」「人の顔色ばかりうかがって、この研究院を停滞させた兵藤先生のようにはならない」と言って、ダークサイドに身を捧げる伊達。しかし、第4話で兵藤が自殺した局面では、誰よりもやるせない表情を見せていた。

 権力者におもねる伊達だが、厚生労働大臣から「予算拡大の件、前向きに検討しよう」と電話をもらって、にっこりする一幕もあった(第3話)。予算が増えれば、解剖医などの待遇も良くなって、人手不足の解消につながるし、最新の設備を使って死因究明ができる。生きている人たちのためになるなら、真実を闇に葬ることがあっても仕方なしと割り切っているのが伊達。目指すところは、柚木も、伊達も、それほど大きな違いはないのかもしれない。

 15日放送の第5話では、“日本法医学界の良心”と称され、柚木にとっては恩人であり、育ての親でもあった兵藤が自殺した本当の理由、さらに、柚木の父の死因に関する真実が明らかになり、柚木の信念が足元から揺さぶられることになる。ダークサイドからの誘惑を、柚木は拒むことができるのか。

 『科捜研の女』で真実と向き合う姿勢に全くブレがないマリコを見て、『サイン』で真実に翻ろうされる柚木と伊達の攻防を見る。法医学を軸に真逆のベクトルを持つ2作品を、続けて2時間楽しめるのは、この夏だけだ。