「リア充」になれないネガティブな思考をベースにしながらも、強烈な存在感や壮大な物語性を放つラップ・スキルと、多様な色彩に溢れたトラックを生み出す2人組、Creepy Nuts。ソロでもR-指定がテレビ朝日系『フリースタイルダンジョン』の2代目ラスボスに就任、DJ松永もラジオのパーソナリティーとして活躍するなど、その幅広い活躍で、今やHIP HOP、音楽という枠を超えて熱い支持を受けている彼ら。完成したばかりの最新ミニアルバム『よふかしのうた』を通して、変容しつつあるHIP HOPそして音楽との向き合い方について語ってもらった。

【動画】2代目ラスボスR-指定の真実 -33の答え-

◆2代目ラスボスに就任で怖い部分もあるけど、飛び込んでいくことも大切

──ミニアルバム『よふかしのうた』が完成しました。この作品は、おふたりにとって、どんな意味のあるものになりましたか?
【R-指定】 HIP HOP(ラップ)表現のひとつに、自分がいかにカッコいいか、すごいかを誇示する「ボースティング」という手法があるんですが、その部分が今作では表現できているのかなと。それはライブをやってきた自信から生まれたものというか。年がら年中、マイクを握って喋ることが自分のアイデンティティーになっていて、それが自然に表現されたような気がするんです。

──R-指定さんは、今年よりテレビ朝日系『フリースタイルダンジョン』の2代目ラスボスに就任。でも、その立場にありながら、マイクを持って闘う姿勢を崩していません。このあたりの経験も、本作の放つ「強さ」に反映されている部分があるのかなって。
【R-指定】 あんまり面白くもないラップがテレビで流れるのならば、自分がやった方がマシという気持ちで番組に参加させていただくようになって、徐々にイメージが定着してしまったので、一度そこから距離を置いたんです。でも、1代目ラスボスである般若さんが、自分の活動を続けながら、俳優とか他の活動にも積極的に取り組んでいる姿や、またバトルで若いラッパーに倒されてしまった時の姿などを見て、カッコよさを感じた。怖い部分もあるけど、飛び込んでいくことも大切だなって思って。

──DJ松永さんは、本作が完成するまでの時間はどんなものだったのでしょう?
【DJ松永】 今までの活動の文脈を踏まえて完成した作品と言えますね。今回のタイトル・トラック「よふかしのうた」は、ラジオ番組『オードリーのオールナイトニッポン10周年全国ツアー』(ニッポン放送)のテーマソングに起用していただいたんですけど。思い返すと、僕の学生時代は自意識が凝り固まり過ぎて、辛いことや恥ずかしいこと、後ろめたいことを友達と共感しあったり共有しあったりということはせず、ずっと偽りの仮面をかぶり続けて生活していました。そんな時期にオードリーさんのラジオに出会い、特に若林正恭さんが僕の封じ込めていた思いをしゃべっていると、初めて芸能人に共感するという体験をしたのを覚えてます。そして、若林さんと南海キャンディーズの山里亮太さんのユニットである「たりないふたり」からタイトルを拝借して、Creepy Nuts最初の作品「たりないふたり」を完成させました。いろんな流れがあって、この作品へとたどり着いたという感じなんですよね。

◆HIP HOPは移り変わりの激しいジャンル、努力をしないと化石化する

──山里さんといえば、今年結婚をされたことをきっかけに「高スペック男子」として注目されるようになりましたよね。そのことに関しては、どう感じていますか?
【R-指定】 僕らラジオのリスナーは、そういう方であることはわかっていましたから。あんなに面白くて、弁の立つ人がモテないわけがないって。
【DJ松永】 金星なんて一ミリも思わなかったですよね。あんなカッコいい人ですから。
【R-指定】 僕らが尊敬するライムスターの宇多丸さんも、ルサンチマン(攻撃)的なラップをするけど、実際にお会いすると紳士的。そういう方々の影響は受けていますよね。人間性を含めて、表現するものすべてにおいてカッコよくありたいなって思わせる。

──カッコよさを表現するために「時代性」みたいなものは意識しますか?
【DJ松永】 それはありますね。特にHIP HOPは移り変わりの激しいジャンルなので、手法を増やす努力をしないと。そこを怠ってしまうと、すぐに化石化していく。また新しい表現方法を見出した瞬間の快感もあるし。
【R-指定】 また以前は、古いと思われようが自分のスタイルを追求していた部分があったんですけど、今は流行に飲み込まれない腕力がついた気がするというか。若い世代に対して「お前らがやっている手法でも泳げるし、ノセられる」というところを見せておきたいなって。そこも、ひとつの「ボースティング」ですよね。今回の作品では、トラップ(現在チャートを賑わせている重低音にエレクトロのビートを効かせたサウンド)の要素に、リリカルなラップをのせたらどうなるか?とか、自分たちらしい試みを表現している楽曲もあるし。

──なるほど。
【R-指定】 また今どきの要素を取り入れながらも、桂米朝さんの落語を拝借したフレーズもあったりなど古典も取り入れたりして、自分たちのバランス感覚でいろんな要素をミックスしていきました。

──おふたりの音楽には「お笑い」の要素が重要なんですかね。
【DJ松永】 HIP HOPというのは、自分たちのリアルを表現するカルチャーなので、どんな要素といえど、その瞬間に感じたことや経験が、すべて作品に反映されるものなんですよ。

◆MCバトル“バブル”で勘違いする若年層も 時代が変化しても耐えられる体力や実力が必要

──楽曲制作にあたって、聴き手のことは意識されます?どういう風に思われたいだとか。
【R-指定】 常にファイティング・ポーズをとらなアカン、みたいな気持ちがあるので。そこはある程度想定して書きますよね。
【DJ松永】 物作りにおいて、受け手の存在を全く意識しないのも、なかなか難しい。でも、僕らは自分たちのやりたくないものを表現してまで、多くの人に響くような音楽は作れないから、自分たちのやりたい範囲内で、みなさんに楽しんでいただけるようなものを制作しています。なので、まずは自分たちが楽しめる音楽であるかどうかが前提ですよね。

──現在は、『フリースタイルダンジョン』などの影響で、HIP HOPやラップに興味を持ち始めた人が増えている状況にあると思います。現在の人気になる前から活動しているおふたりは、今の状況をどう感じていますか?
【R-指定】 1990年代~2000年代にかけてのHIP HOPはメジャーな存在だったと思う。でも2010年代になる頃から「冬の時代」が訪れて、その頃に大阪(R-指定の出身地)と新潟(DJ松永の出身地)でのめり込んでしまったのが、僕らという感じですよね。
【DJ松永】 当時はラップ選手権みたいなものが少なかった。そこで高校生だったR-指定は大人たちを次々と倒して優勝していましたからね。
【R-指定】 あの当時、『高校生ラップ選手権』とかあったら、モテたんだろうな(笑)。当時は優勝したって、大金がもらえるわけでもないし、知名度が上がるわけでもなかった。でも、めげずに常にマイクを持ち話し続けることが、自分のアイデンティティーだと信じて活動していくうちに、徐々に環境が変化していく様子を肌で感じましたね。
【DJ松永】 地に足がのめり込んだ状態で活動していましたよ。
【R-指定】 でも、そういう時代を経験したことで、今後また「冬の時代」が訪れたとしても、耐えられる体力や実力をつけたいと思えるようになったし。
【DJ松永】 今はやはりMCバトルがバブルだから、全く経験の無い子が実力以上にスポットライトを浴びてしまい、冷静でいられなくなってるケースも多々ありますからね。
【R-指定】 だから、僕らはライブを続けていきたい。お客さんが生で観て、そこで感動や興奮していただいた経験って、どんなに時代が変化しようとも、ずっと変わらないものだと思うから。それが今後の自分たちの活動の足腰になっていくはず。

◆HIP HOPはリアルを吐き出すカルチャー 自分の今を正直に伝えていきたい

──またHIP HOPだけでなく、音楽全体も聴かれ方が変化しつつあります。そこにはどう対応を?
【DJ松永】 自分自身もアルバムを曲順どおりに聴かなくなって、プレイリストを駆使して国内外の楽曲を並列で耳にする機会が増えたんです。ゆえに、1曲単位で他と比較されながら聴かれる、という意識を持って曲作りをしていかねば、という気持ちです。
【R-指定】 とは言え、これまで通り起承転結のある作品を大切にしたい思いはあるのですが。
【DJ松永】 現在の日本は、CDというパッケージ文化を大切にする傾向が強いですからね。そこは大切にしたい部分。
【R-指定】 またサブスクリプション全盛のアメリカでも、パッケージや起承転結を意識してアルバム制作するミュージシャンも多数いますし。そこは、今後も両立できるのかなって思う。

──今後は、どんな活動をしていきたいですか?
【DJ松永】 HIP HOPはリアルを吐き出すカルチャー。だから、今後も感受性やアンテナを磨いて、自分の今を正直に伝えていきたい。また常に自分たちが新鮮で楽しいものを作り続けているという実感を得ながら活動をしていきたいですね。
【R-指定】 今を大切にしながらも、10年後に聴いても色あせない音楽を作りたい。年齢を重ねて、考え方に変化は生まれると思うけど<あの頃はこういう気持ちだったのか、面白い>と振り返られるような楽曲を。
(文/松永尚久)