劇団ひとりが、テレビ朝日系の土曜ナイトドラマ『べしゃり暮らし』(毎週土曜23:15~)で初の連続ドラマ演出に挑んでいる。主人公の高校生漫才コンビの成長を追いつつ、笑いに魅せられた若者たちの人間模様を描く青春群像劇。自身も笑いのプロであり、多くの芸人と交流してきた、ひとりならではの演出にも注目が集まっている。芸人として第一線で活躍する一方、小説家、映画監督としてもヒット作を創り出しているひとり。彼が活躍の幅を広げるようになったのは、ある“心境の変化”によるものだという。

【写真】“漫才”を披露する小芝風花など、『べしゃり暮らし』シーンカット

◆役者陣の“感情のパテ埋め”をするのが演出の役割

「芸人というのは、舞台では必死さを隠すものなんです。だけど本当はものすごい汗をかいているし、なんなら手も震えてる。それこそメイクを落としたピエロの悲哀じゃないけど、本作ではそうした芸人の内幕や影の部分にフォーカスした演出を意識しています。漫才のシーンはたくさん登場しますが、そういう点からすると“笑える”という感じではないかもしれませんね。漫才シーンを含め、役者さんたちがすごく熱心に演じてくださっています」(劇団ひとり/以下同)

 ドラマがスタートすると、主演の間宮祥太朗と渡辺大知が演じる漫才コンビの息もピッタリなかけあいが話題を呼んだ。間宮はひとりの演出について、「演者のやりやすさを一番に大事にしてくれる」とコメントしている。

「演出する上で一貫してこだわっているのは、役者さんたちに良い芝居をしてもらうこと。カメラテストやリハも感情の鮮度が落ちてしまうのであまり繰り返したくないし、セリフも役者さんたちの感情が乗らなさそうなときは話し合ったうえで変更や削除をしています。ただ、連ドラの性質上、どうしても必要なセリフもあるんですよね。次週も観てもらいたいから、その引っ張りとなるセリフやシーンを入れないといけないとか──そうなったときに少しでも役者さんたちの“感情のパテ埋め”をするのが演出の役割なんだなと、いろいろ学びながらやっています」

◆“口コミ”は気にしないタイプ「作る側がそれに振り回されちゃダメだと思う」

 自身も「ほぼ毎晩、海外の連ドラを観ている」と言うドラマファンで、ドラマ演出もかねてから挑戦してみたいことの1つだったという。

「映画にはない連ドラの面白さは、『来週が待ち遠しい』という気持ちを何ヶ月にもわたってつなげてくれることで、自分だったらどんなふうにその気持ちを引っ張れるか、ずっと興味があったんです」

 ただ近年は、見逃し配信やイッキ見ができるツールも充実し、“次週”という概念が薄れつつあるのも事実だ。またSNSでドラマを語り合う文化が定着し、ときにドラマのヒットを左右するSNSの口コミを気にするドラマ制作者も増えている。

「たしかに、プロデューサーさんのなかには気にする人も多いですが、僕は全くSNSを見ないタイプですね。誰もが自由に発言できるのはネットの良さだけど、作る側がそれに振り回されちゃダメだと思うんです。だってアンケートや多数決で良い作品ができたら誰もがヒットメーカーになれますよ。でもそう簡単にいかないっていうことは──。まあ、参考程度にするのは良いかもしれないですけどね。若い芸人のなかにもエゴサーチする子がけっこう多いんですけど、なんだか情けないなあと思うのは、僕がオジサンになったからですかね(笑)」

◆芸歴を重ねて心境に変化、若い頃は「他人においしいパスなんて渡す余裕もなかった」

 芸人としての活動歴も25年を重ね、周囲には後輩も増えている。自身がレギュラー出演するバラエティ番組『ゴッドタン』(テレビ東京/毎週日曜25:45)からは三四郎やおかずクラブ、EXITなどブレークしていく若手芸人も多く、本ドラマで描かれているような若手の泣き笑いを間近で見てきた。

「ある年齢を超えると、若い子の力になりたくなるものなんですね。『ゴッドタン』も初期の頃は他人においしいパスなんて渡す余裕もなかったし、自分が一番笑いをさらいたいという意識でやってました。でもここ数年は、若い子をなんとかおいしくしてあげたいという感覚が強くて、それが出来たときには自分のことのように嬉しいし、出来なかったときは自分がスベったのと同じくらい落ち込むんですよ。そう思うようになったのは、いつ頃からだろう? やっぱり親になってからですかね」

 自分よりも他人を輝かせたいと思うのは、何よりクリエイターたる故だろうか。

「正直、今はあまり自分のことに興味がないんですよ(苦笑)。ドラマの演出が楽しいのも、他人に興味がいっているからかもしれません。役者さんたちが目の前で血の通った芝居をしてくれると震えるほど感動するし、だからこそ、彼らがなるべく本領発揮できるようにアシストできるのが演出の醍醐味なんだと感じています。あとは世間的にはあまり知られていないけど、良い芝居をする役者さんが多くて、このドラマをきっかけにブレークしていったら良いなと。それも演出の務めだという意識で取り組んでいます」

文/児玉澄子