先日、“闇営業”騒動の渦中にいる宮迫博之が、7月20日の会見以来はじめて口を開いた。写真週刊誌『フライデー』(7月19日・26日発売)で、金塊強奪事件の主犯格の男らと酒席をともにし、金銭を受領した“ギャラ飲み”を報じられたことについて聞かれ、一部メディアに法的措置をとることを検討しているという。会見では訴訟の意志はないとしていた宮迫。「報道に嘘があるならば訴えるべき」という声が世間や同業者からも上がっているなか、なぜ宮迫は当初、煮え切らない態度を見せたのか? 芸能界の週刊誌対応に詳しい、河西邦剛弁護士に聞いた。

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■タレントが週刊誌に対して行う法的措置は主に2つ、出版差し止めは1分1秒を争う

 1つは週刊誌の記事そのものを差し止めるという、出版差止の仮処分を裁判所に対して申立てるという方法。もう1つは、週刊誌の発売後に名誉毀損に基づく損害賠償請求訴訟をするという方法です。

 週刊誌に掲載される場合、発売日の遅くとも4、5日前には週刊誌の記者から所属芸能事務所や取材対象者にFAX等で質問状が送られてきます。質問状には「~という事実はありましたか?」というような内容になっていますが、それを否定したとしても「~疑惑⁉」という記事が掲載される可能性はかなり濃厚です。そのため、質問状が来たタイミングで裁判所に対して「質問状に書いてあることを記事にすることを禁止する仮処分」を申立てることになります。弁護士としては、質問状が来てから申立てまで数時間で準備をしないと発売や、先立つ輪転機印刷に間に合いませんので、まさにドラマ『24』のような1分1秒を争う緊急事態になります。

■名誉毀損に基づく損害賠償請求では、週刊誌サイドが真実を証明する必要あり

 もう1つの方法が名誉毀損に基づく損害賠償請求訴訟です。

 週刊誌の発売後に、「事実ではない内容の記事により名誉を毀損された」として訴訟提起し、金銭補償と名誉回復を求める方法です。審理では主に記事の内容が真実か否かが争点になるのですが、被告である週刊誌サイドが真実であることを証明する必要があります。

 そして、仮に週刊誌サイドが真実であることが証明できなくとも、「確実な資料根拠に基づき、真実であると誤信」した場合であっても、週刊誌は免責される可能性があります。

■宮迫“ギャラ飲み”報道、証言の信用性は?

 7月19日発売の写真週刊誌『フライデー』では、宮迫さんが金塊強奪事件の主犯格の男らと酒席をともにし、金銭を受け取ったことが報じられました。いわゆる“ギャラ飲み”ですが、本誌で目撃者に現金授受の様子を取材したところ、宮迫さんが同席者から「現ナマで5~10万円」を渡されていたと証言した、と掲載しています。

 とはいえ、記事を読んだ人が、この「目撃者」の「証言」をどこまで信じるかはかなり疑問です。つまり、素性も明かさずどこの誰かもわからない人が「金銭を受け取っているのを見た」という話をした、という記事を読んだところで、それを鵜呑みにし、真実なんだと思う読者はかなり少ないのではないでしょうか? 例えば「目撃した」ではなく、「私が宮迫さんに直接お金を10万渡した」という記事であれば、まだ読者の信用性は変わるかもしれませんが、素性を明かさぬ人物の目撃証言にどこまで信用性があるのか、そもそも疑問です。

 また、翌週26日発売の本誌では、獄中の金塊強奪犯・野口被告を取材。野口被告は「(宮迫と)一緒に乾杯してシャンパンを飲んだ記憶がある」と述べ、現金の授受については「それについては話せません」と証言したといいます。この部分についても、確かに明確に「否定」はしていませんが、「お金を渡した」とも言っておらず、印象の問題はさておき証言としての意味はほとんどないに等しいといえます。週刊誌側があえて読者に「受け取っていそう」と思わせるような表現にした可能性も否定できません。

■裁判の争点は?「目撃者」に損害賠償請求も可能

 ただ、信用性の問題は別にしたとして、実際に今回の記事で宮迫さんの名誉が毀損されているので、訴訟になった場合には週刊誌サイドが記事の真実性を証明する必要があります。一番直接的なのは、この「目撃者」なる人物が出廷し、「記事に掲載されたことを記者に話した」と証言することです。もし今回の目撃者が出廷もせず、訴訟にまったく協力しないとなった場合には、週刊誌サイドが敗訴する可能性は十分にあります。

 宮迫さんとしては、この目撃者が出廷し素性が明らかになれば、目撃者が嘘をついたことで名誉が毀損されたとして、目撃者に対しても名誉毀損に基づく損害賠償請求することも可能です。この訴訟では、宮迫さんが金銭を受け取っていたか否かが裁判の中心的な争点となります。

 今回、宮迫さんは一部メディアに対する法的措置について言及しましたが、7月20日の会見の際には訴訟の意志を否定しています。世間や同業者からは「早く訴えればいいのに」という声も多かったのに、二の足を踏んでいた理由について考えてみましょう。

 まず、訴訟は1審判決まででも1年以上かかることが想定されますし、高裁、最高裁まで続けば数年単位で時間がかかります。弁護士費用も、労力もかかります。たとえ証明できたとしても、それが1年以上先のこととなると、その判決はどこまで報じられるのか疑問です。もちろん、騒動の当初は大きく報じるわりに、その後の展開を追わない報道の仕方にも問題がありますが、世間の関心も薄れ、メディアも報じないとなれば、潔白を証明しても宮迫さんの意図した結果にはならない可能性もあります。

 そもそも、今回の記事の信用性が低い、すなわち、「素性の明かさない人物がお金の受け取りを見た」という記事は冷静に考えると真実かどうかかなり怪しいものです。そのため、ここを争って証明してもあまり名誉回復につながらないということ。それよりも、宮迫さん自身が各メディアで、「金銭授受はなかった」という現場の飲食店関係者の証言を紹介した方が、実質的な名誉回復になると判断した可能性は十分にあるでしょう。

■週刊誌の記事を鵜呑みにして処分の撤回の撤回をすることが問題

 吉本興業は現在、「マネジメント契約解消の撤回についても、再度検討せざるを得ない状況」になったと公表しています(7月26日)。これについては週刊誌の記事が掲載されたことによる、宮迫さんとの「契約解除の撤回」の「撤回」と受け取る人もいるでしょう。

 しかし、吉本興業のこの判断が週刊誌報道のみを根拠としているとすれば、極めて薄弱な根拠と言わざるを得ません。会社として独自に裏付け調査や検証をせずに、場当たり的な判断をしていると指摘されてもおかしくはないでしょう。少なくとも、大企業として、週刊誌の記事の信用性について自ら検証し、そのうえで会社として判断を行い、それを公表するというプロセスは必須なのではないでしょうか。

<プロフィール>
河西邦剛(かさい・くにたか)。2016年にレイ法律事務所パートナー就任。2017年に日本エンターテイナーライツ協会共同代表理事に就任。芸能トラブル、エンタテインメント分野、映像著作権、知的財産分野、刑事事件、メディア対応、出版差し止め、医道審議会などを主に取り扱う。『ひるおび!』(TBS系)、『バイキング』(フジテレビ系)などのメディアに多数出演。