有識者と視聴者が共に支持する“質の高いドラマを表彰する『コンフィデンスアワード・ドラマ賞』でテレビ東京系『きのう何食べた?』が作品賞を受賞した。主演男優賞を受賞した西島秀俊と内野聖陽をはじめ、原作の魅力を損なわない絶妙なキャスティングや、「アドリブも多かった」という撮影中のエピソードについてプロデューサーの松本拓氏に聞いた。

【写真】2人のこだわり感じる食卓シーン

◆視聴者の予想を裏切り、それがマッチしたときの反響は大きい

――『第16回コンフィデスアワード・ドラマ賞』で作品賞を受賞しましたが、まずは率直なお気持ちをお聞かせ下さい。
【松本】 作品賞をいただけ、嬉しく思っております。賞は狙っていただけるものではないので。テレビ東京は、ドラマの内容は良いけど、世間的にはマイナーだと思われています。だから視聴率や賞に結びつくことが少ない。『きのう何食べた?』の作品性はもちろん、たくさんの方に評価していただけたので、視聴率をはじめ、とても良い結果となりました。そうしたことが、作品賞に結びついたのかなと思っています。

――視聴者の反響は、いつ頃から手応えを感じたのでしょうか?
【松本】 テレビドラマ化のニュースを初めて出した時に感じました。Twitterのトレンドランキングで1位になり、これはイケるなと。

――いつ頃からドラマの企画が進んだのでしょうか?
【松本】 西島秀俊さんと内野聖陽さんのスケジュールが見えてきた、2年前から具体的に進んでいきました。

――というのは、西島さんと内野さんの2人ありきで企画が進んでいったのでしょうか?
松本 他のテレビ局や制作会社でも企画を出していたと思いますし、違うキャスティングを想定していたのかもしれません。弊社では、2人のキャスティングで原作者のよしながふみ先生に提案しました。

――このドラマのヒットには、主演の2人がカギとなっています。
松本 原作人気はもちろん、西島さんと内野さんが演じることでおもしろさが出ます。例えば、『勇者ヨシヒコ』を山田孝之さんが演じるからおもしろい。視聴者の予想を裏切り、それがマッチしたときの反響は大きいと思います。まず男性カップルという意外性もありますが、2人がコメディを演じるイメージがない。今までのパブリックイメージを変え、内野さんがあそこまで振り切って演じたことが、新鮮で面白かったんじゃないかなと思っています。

◆西島&内野が、カメラが回っていないところでもイチャイチャしていた

――主演の2人に関して何か撮影中のエピソードはありますか?
【松本】 カメラが回っていないところでもイチャイチャしていました(笑)。役がしみついているのでしょうか。同性愛者であることは、2人にとってはフィクションである。それを演じることが楽しく、役者だからこそ演じてみたいという気持ちがあるのかもしれません。現場ではアドリブも多く、1話のハーゲンダッツを食べているシーンや最終回のラストシーンもそうです。本当に楽しそうに演じていました。

――山本耕史さんや磯村勇斗さん、他のキャストもとてもすばらしかったです。
【松本】 意外性を大切にしました。山本耕史さんもそうですが、梶芽衣子さんや田中美佐子さん、結果はまり役となりました。

――キャスティングはどのように決めたのでしょうか?
【松本】 キャスティングを1人で考えてもあまり上手くいかないと思っています。プロデューサー陣、監督と何回も会議をしました。1人で決めるとどうしても主観が強くなる。山本耕史さんが演じた小日向大策は、原作では無骨な体格の男性でしたので、少しひねり意外性を持たせました。ジルベール(井上航)役の磯村勇斗さんは、女性プロデューサーからの提案でした。

――キャスティングは原作を意識して決めたのでしょうか?
【松本】 原作があるときは、忠実に合わせたほうがいいと思っています。漫画はキャラクターをしっかりと作って画になっている。そこには何かしらの根拠があって画になっているので、原作を再現することで映像化してもキャラクターがしっかりと出来上がり、似たり寄ったりのキャラクターにはならないです。

――脚本家の安達奈緒子さんとはどのようなお話をしましたか?
【松本】 原作を忠実に描き、物語に抑揚をつけない。男性カップルの日常と食という大前提のもと、原作の持つ平坦な物語に深さを感じるテーマ性を持たせたいとお伝えしました。すばらしい台本を書いていただけました。

――1話、2話は食がメイン。徐々に2人の日常の話になり、その盛り上がりがよかったです。
【松本】 入口は、食ドラマとして入ってほしいという思いもありました。『おっさんずラブ』(テレビ朝日系)が人気を得ましたが、現実的にはそれが普遍的というとそうでもない。テレビ東京がこれまでやってきた得意とする食ドラマのほうが入りやすく、その先にテーマがあるといいのかなと思いました。

◆すぐに続編を放送したほうがいいのか、時間を置いたほうがいいのか……

――2人のプライベートが意外とベールに包まれている。それは意図的にそうしたのでしょうか?
【松本】 原作も2人のプライベートな部分は見せていません。人物を生々しくしないほうがいいなと思いました。男性カップルの日常を描いたドラマですが、生活の細部まで見せるとリアリティが出てくるので、そこは考えながらドラマにしました。

――同じ4月期のドラマでは、『腐女子、うっかりゲイに告る。』(NHK総合)や『俺のスカート、どこ行った?』(日本テレビ系)と、LGBTを題材にしたドラマが多かったです。『きのう何食べた?』は、LGBTについてしっかりと描くドラマということではないのでしょうか?
【松本】 あくまで食ドラマであり、LGBTについてしっかりと描く作品ではないです。最近のドラマは、内容に変化球をつけることが多くなりました。『高校教師』(TBS系)が放送されていた時代とは異なり、規制が多い今、キャッチーなものや奇をてらったものにせざるを得ない。戦略的にそうなっている傾向にあります。

――キャッチーさという意味では、テレビ東京で放送するからには、食について描くということなのでしょうか。
【松本】 はい。ただ原作が予想以上に人気のある作品で、蓋を開けたら食より男性カップルの日常が先行していきました。それを西島さんと内野さんが演じることで、より楽しく描けたと思います。僕たちが想定していない、予想外の結果を生みました。

――続編を望む声も多いです。
【松本】 そういった声をいただき嬉しいです。すぐに続編を放送したほうがいいのか、『半沢直樹』のように少し時間を置いたほうがいいのか……難しいですね。

――映画ではなく、ドラマで続編を観たいです。
【松本】 映画だと旅行に行くしかないですよね(笑)。

――今後、松本さんが手がけたい作品はありますか?
【松本】 『きのう何食べた?』のような作品は初めてでした。これまでは、福本伸行さん原作の『銀と金』や『天 天和通りの快男児』などアウトローを描いた作品を作ることが多かったです。極限まで描き、食い入るように観るドラマを作らないといけないという使命感みたいなものがあります。そういう作品でも賞をいただけるように頑張りたいと思っています。