8月9日公開となる『ライオン・キング』。米国では7月19日に一般公開され、ディズニー・アニメーションのリメイク版としては1位、今年公開作品のなかでは2位となるオープニング興収で、記録的なスタートを切った。7月末時点で、今年の北米興収トップ5を独占することとなったディズニーは、下半期にも話題作を続々と放つ。もはや無敵の存在とも思えるディズニーのハリウッドにおける立ち位置を見てみたい。

【写真】ジョン・ファヴロー監督と談笑する賀来賢人

■あらゆる北米オープニング記録を樹立

 北米における『ライオン・キング』の公開初週末の興収は1億9200万ドル。この数字は、さまざまなオープニング記録を塗り替えている。7月公開作品としては2011年の『ハリー・ポッターと死の秘宝 PART2』(1億6910万ドル)、ディズニー・アニメーションのリメイク版としては2017年の『美女と野獣』(1億7470万ドル)がそれぞれ保持していた最高記録を更新。

 今回のリメイク版『ライオン・キング』は、2017年の『美女と野獣』や公開中の『アラジン』を含む、一連のディズニー“実写”リメイク版とともに語られることが多いものの、実際には高技術CGIによるアニメーション映画。となると、同ジャンルにおいても、昨年のディズニー/ピクサー映画『インクレディブル・ファミリー』(1億8260万ドル)のオープニング記録を超えてトップに立ったことになる。さらに、ジョン・ファブロー監督作としても、2010年の『アイアンマン2』(1億2810万ドル)を超えるトップに躍り出る。

 ちなみに、1994年の長編アニメーション映画『ライオン・キング』は、いまだG指定映画(全年齢に適した映画)の北米興収トップに君臨し続けている(4億2270万ドル)。その25年ぶりのリメイク版である今回の『ライオン・キング』は、初めてお披露目されたトレーラーが、ディズニー映画史上最多の再生数となる記録も樹立していた。そんなこともあり、最終興収での新たな記録への期待も高まっている。

■『ライオン・キング』評価は賛否両論

 北米におけるレビューは賛否両論だ。同作の魅力のひとつは、2016年に『ジャングル・ブック』をヒットさせたファブロー監督が率いる製作チームによる、圧倒的な技術と献身による写実的な動物描写。その技術に対する賞賛の一方で、キャラクターの表情が豊かで温かさの感じられたオリジナル版に比べ、動物たちの表情が冷淡に感じられるという声も目立つ。

 もちろん、実際の動物は表情をくるくる変えるものではないのだからと、同作のリアルさを讃える声もある。観客の年齢、オリジナル版への愛着度、アニメーション映画に何を求めるか(リアルさかファンタジーか)など、さまざまな指標によって評価が分かれるのだろう。米映画批評サイト「ロッテン・トマト」のスコアは53%と高くないが、最近は、批評家の評価と一般観客の支持がリンクしないことも多く、興収への大きな影響はなさそうだ。公開初日の観客評価による格付け指標「CinemaScore」はAと上々である。

 超豪華キャストの存在も興収につながっているだろう。とくに、シンバ役のドナルド・グローヴァーは、チャイルディッシュ・ガンビーノ名義でエッジーな音楽活動を行いながら、俳優としては『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』などで存在感を発揮。映像作家としては、話題のテレビシリーズ『アトランタ』の原案・製作総指揮を務めるなど、いまや飛ぶ鳥を落とす勢いの人気者。その相手のナラ役がビヨンセとくれば、「2人のデュエットを聴くためだけに、劇場に行く価値あり」というファンがいても無理はない。米『バラエティ』紙のレビューでは、悪役スカー役のキウェテル・イジョフォーも大絶賛されている。

■ディズニー映画が老若男女に愛される理由

『ライオン・キング』の登場により、7月末時点で北米興収のトップ5はディズニー映画が独占。さらに、今年の世界興収においても、トップ6作品のうち、5本がディズニー映画となった。顔ぶれは、無敵の歴代興収王『アバター』(2009年)を抜いた『アベンジャーズ/エンドゲーム』(27億9000万ドル)をはじめ、『キャプテン・マーベル』(11億ドル)、『アラジン』(10億ドル)、『ライオン・キング』(10億ドル)、『トイ・ストーリー4』(9億2000万ドル)。

 これらの作品と善戦を繰り広げている『スパイダー・マン:ファー・フロム・ホーム』(10億3980万ドル)はソニー・ピクチャーズ配給であるものの、製作にはディズニー傘下のマーベル・スタジオが入っている。ディズニーがフォックスを買収完了したいま、『アバター』ブランドもディズニーのものだ。今年後半のラインナップには『マレフィセント2』『アナと雪の女王2』『スター・ウォーズ/スカイ・ウォーカーの夜明け』と話題作が並び、11月には独自の配信サービス「Disney+(ディズニー・プラス)」のローンチというビッグイベントがひかえている。

 米『バラエティ』紙によれば、今年7月末までの北米における映画チケット販売数のうち、3.5割をディズニー映画が占めており、その比率は今後も増加する見込みだという。北米の人々は、なぜこれほどまでにディズニー映画を選ぶのか?同紙による一般観客や映画アナリストへのインタビューでは、「陰鬱なニュースや政治的敵意からの休息を求める人々が、安心して楽しめる空想の世界だから」「例えば4人家族なら、映画鑑賞とはチケット代とポップコーン&ドリンク代、駐車場代を含めると100ドル近くかかる娯楽。ならば、いい時間が過ごせる保証付きのディズニー・ブランドを選ぶ」「4世代が一緒に楽しめるから」といった声が紹介された。また、ある20代前半の映画ファンは、「『トイ・ストーリー』シリーズの結末を見届けるために、『トイ・ストーリー4』を観ることが“文化的義務”だと感じた」とも語っている。

■ブランドの強さは永遠ではない? リメイク苦戦も

 一方で、同じく米『バラエティ』紙のオーウェン・グレイバーマン氏は別コラムで、“ディズニー無敵説”に警笛を鳴らすことも忘れていない。「ディズニーがすべてを手に入れたと思い込むべきではない。ディズニーが手に入れた“すべて”とは“過去”であって、必ずしも“未来”ではない」というのだ。

 ディズニーが擁するブランドの強さは紛れもなく、これからも長年続いていくものだろう。ただし、1本1本の作品を見れば、人気の陰りも不作もある。『スター・ウォーズ』シリーズなら、ジョージ・ルーカスのDNAが薄くなるごとに距離を置き始めるファンもいるかもしれない。すべてのジャンルに浮き沈みがあるように、スーパーヒーロー映画のジャンルにも停滞期はあるだろう。クラシック名作のリメイクについても、『プーと大人になった僕』や『ダンボ』のように苦戦する例もある。

 何が起きるかわからないハリウッドで、たとえディズニーほどのブランドでも“永遠無敵”を説くことはできないというのは、アナリストたちの慎重な意見だ。ただ、少なくとも今年の米映画界においては、ボックスオフィス、戦略、話題を含む、さまざまなレベルにおいて、ディズニーの存在感は無敵といえるのではないだろうか。
(文/町田雪)