40年前、ファーストガンダムにおける制作現場の窮状・疲弊は深刻だったという。そのため、一部の放送回では作画が乱れる“作画崩壊”があった。そうした作画崩壊回の中で、ストーリー面において「傑作」と評されているのが『機動戦士ガンダム』15話、「ククルス・ドアンの島」だ。ここでは、該当回に登場する“作画崩壊ザク”のキュートなボディを再現したモデラー・ナガ氏(naaga333)と、作画崩壊の一瞬を切り取った“顔面センターガンダム”を制作した、モデラー・おとさん氏(@otoyanblog)を取材。奇跡のコラボレーションを果たした両作について、その制作意図を聞いた。

【神回再現】“作画崩壊”顔面センターガンダムと、ククルス・ドアン専用ザクを立体化

■“作画崩壊”だけでなく、「ククルス・ドアンの島」は社会性を持った名エピソード(ナガ)

 ナガ氏は“作画崩壊ザク”をネットで見つけた際、視聴時には気付かなかった独特な魅力に気づかされたのだそう。それは主に、本エピソードの演出面にあったという。

「改めて見てみますと、ジオン軍の脱走兵であるククルス・ドアンの人間性は、戦争によって大きな影響を受けていることが分かります。夜、うなされて起きるシーンがありますが、これは子どもたちの親を殺してしまったことが、心的外傷後ストレス障害(PTSD)になっていることを表しています」

 そうナガ氏が話す通り、放送当時はベトナム戦争による帰還兵の話題が日本にも伝わってきており、そうした空気感や社会性を演出に取り入れているのでは?とナガ氏は指摘する。何より、「ククルス・ドアン回は、ロボットアニメの王道だった勧善懲悪モノとはガンダムが一線を画していることが分かります。実際、一般兵の苦悩を、敵方の脱走兵を使って描いた素晴しいエピソードだと思います」と絶賛。この後、アムロ自身もホワイトベースから脱走するが、脱走兵ククルス・ドアンの姿がアムロに影響を与えた部分もあるのではないかと分析した。

 ククルス・ドアン専用ザクが、あまたの“作画崩壊”と違って多くの視聴者に爪痕を残したのは、富野由悠季監督が手掛けた“演出”にあると解説するナガ氏。「ガンダムの演出を見て、自分が惚れたり、シビレた感覚、その正体を探るのがガンプラ制作のテーマです。仮説を立てて実証実験を繰り返しているような感じですね。今後も、自分の受けた衝撃や感覚を、プラモで自由に表現していきたいです」

■“作画崩壊ガンダム”を作って、当時のアニメーターの苦労がわかった(おとやん)

“作画崩壊”が生んだ顔面センターガンダムは、ベストメカコレクション「1/144 RX-78 ガンダム」をベースに制作したとのこと。

「このキットを作ってみて感じたのは、当時のアニメーターの苦労」と、おとやん氏は語った。その理由について、「よく見ると、頭部左右のエアダクトみたいな穴がやたら多いんですよ。カタチも数も左右で違うし。アニメーターの方も時間が無かったでしょうに、余計時間かかることしちゃって…(苦笑)。なので私も同じ苦労をしてみました」と、本キットのこだわり部分をアピール。

 一方で、作画崩壊という言葉は、いわゆるネットスラング的な負のイメージを持つ人も多いのが現状だ。しかし、おとやん氏の考えは少し異なる。「アニメスタジオの資金、人、時間、様々な要因によってそれは生まれてしまうわけですが、逆に考えると限られた制約の中で、何とかして生み出したスタッフの気概の一部でもあります。ガンダムに限らず全てのアニメーションにおいて言えることですし、まずは『納期を守る』という観点では、どんな仕事についても同じだと思います。なので、生まれた経緯に敬意を、存在に感謝です」と、ファーストガンダムに携わったアニメーターへのリスペクトを強調した。

 普段は、モナカキット(接着剤が必要なキット)を作ることが多い同氏。スナップキット(接着剤不要)より「プラモを作ってます」的な達成感をより感じられるから、とモナカキットへの愛着を語ってくれた。こうしたガンプラへの取り組みは、“ガンプラ原体験”が起因しているとのこと。

「子どもの頃、事故で入院していたのですが、当時は病院の売店でプラモを普通に売ってました。接着剤、塗料、筆なんかも。何という牧歌的時代(笑)。動けないので暇つぶしにベッドの上で作ったガンダム。30数年を経ていまだに同じの作ってんのかと、自分のことながら笑ってしまいますね」

 そんな、人生の相棒とも言える存在のガンプラについて同氏は、「ガンプラとの始まりは、生きるための暇つぶし。今は、死ぬまでの暇つぶし。ガンプラがあったから沢山の仲間ができました。ありがとうガンダム!」と、今後もガンプラと共に人生を歩むと誓った。

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