ここ最近、コンサート会場におけるファンのマナー問題が注目を集めるようになってきた。会場の警備サービスを提供するシミズオクトの担当者は、日々知恵を絞りながらトラブル防止に努めているという。社会問題化する近年の状況について、担当者に話を聞いた。

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 先頃はアーティストが乗車する新幹線にファンが殺到、新幹線が遅延を余儀なくされる事態がニュースとなった。コンサートやスポーツイベント設営の業界最大手・シミズオクトでは会場警備サービスも幅広く提供しているが、守備範囲は会場およびその周辺。公共交通機関などのパブリックスペースで起こったトラブルは管轄外として対応できず、主催者と共に頭を抱えている状態であるという。

 ファンの暴走は今に始まった問題ではない。シミズオクトイベント運営部一課・グループ長の青木延孝氏は、長らくコンサート業界に関わってきた経験から「過激なファンは昔より減った印象で、むしろ最近はマナーのいい来場者がほとんどです。いずれにしても迷惑行為をするのは大勢のファンのなかのごく一部。ただ近年はSNSで情報が拡散されるため、かつては“現場”にいた人だけが目撃したトラブルが大きく取り上げられやすくなった側面はあるかもしれません」と、社会問題化した近年の状況を推察する。

 もちろんSNSにはより良いコンサート環境やファン文化を作る効果的な面もある。

「最近はアーティストの方もSNSを活用し、コンサートの注意事項などを発信してくださる方が増えています。やはりアーティストの呼びかけは絶大な説得力がありますから、こうしたアーティスト側のご尽力もマナーのいいファンが増えた一因だと思います」(シミズオクトイベント運営部一課・チーフ、田丸佳孝氏)

 また、会場でもSNSを上手に活用する例が見受けられるようになったという。

「物販の長蛇の列を解消するために事前に整理番号を配布し、番号順に購入列に並んでもらうという販売方法が増えていますが、さらにSNSで『現在は○から○番がお並びいただけます』といった発信をしている公演もあります。来場者にとっては混雑した場所で待たなくてもよくて便利ですし、物販の周りに人が滞留しないのは警備的にも助かっています」(シミズオクト東京ドーム営業部イベント営業課、芝辻正哉氏)

 トラブルは得てして混雑した場所で起こりやすい。たとえば会場周辺は、友人との待ち合わせなどで人が溜まりがちだ。シミズオクトでは円滑な入退場のための警備や整理も行うが、メガホンで入場を促してもなかなか動いてくれないこともある。

「ただ『すみやかに入場してください』といった定型文を呼びかけても、来場者の耳には届かないのかもしれません。そこである警備チームは、皆で公演アーティストの楽曲を聴き込み、歌詞の一部を盛り込んだアナウンスをしました。するとファンの方が『この警備員、わかっているな』と思ってくれたのか、素直に従ってくださいました」(芝辻氏)

 コンサートのいい思い出を持ち帰ってもらいたい。そんな同社の警備チームの思いが感じられるエピソードだ。もちろん、トラブル内容によっては厳格な手段に出ることもある。しかしそれもあくまで会場および周辺でのこと。問題は冒頭で挙げた会場外で一部ファンが起こすトラブルだ。

 今回話を聞いた3人も「難しいが…」と口を揃えるが、主催者側が会場周辺の地域と業界を超えた協力関係を築くことは1つの打開策になるかもしれない。

「チケットの半券があれば会場周辺の飲食店が○%オフといった取り組みをしている公演もあります。人が集まれば、地域の経済も回るということですね。地域ぐるみで公演に関わり、長年続いているフェスなどはまさにその成功例だと思います」(青木氏)

 地域にも“自分ごと”として公演に関わってもらい、さまざまな方向から来場者に視線が集まるようになれば、迷惑行為の抑制効果にもなるのではないだろうか。

 当然ながらこれですべてのトラブルがなくなるとは言い切れない。根本的にはファン1人ひとりのマナー意識向上を求めたいところだが、主催者側もそれを啓蒙するだけでなく、トラブル解決に向けたさまざまな試行錯誤を続ける必要があるだろう。
(文/児玉澄子)