参院選結果に影響を与え、今後の社会の行く末をも左右しかねない人々のある傾向を危惧している。政治に対する評価が属性によって決まることが増えている点だ。いわば「属性支配」の政治である。本来選挙では候補者や政党が経済、外交・安保といった政策を競い合い、有権者はその優劣を判断し、1票を投じるのが理想である。だが、われわれは自分たちがどんな人間で、どんなグループに分類されるのかを意識して実際の投票行動を決めているのが実態だ。

 ▽敵か味方か

 分かりやすい例を挙げよう。共和党のトランプ候補(当時)が世紀の大番狂わせを演じた2016年の米大統領選。トランプ氏は米国社会の発展から置き去りにされてきた労働者階級の白人男性の支持を狙い、物議を醸すことを承知で時に差別的な問題発言を繰り返し共感を得た。彼らは地方のさびれた空港に自家用機で乗りつけ「われわれの米国を取り返そう」と呼びかけるマンハッタンの富豪を「自分たちの仲間」とみなし、“忠誠”を誓った。そこにはトランプ氏の政策がいいか悪いかの判断はなく、敵か味方かの区別だけである。

 「トランプ現象は例外的。まして日本には当てはまらない」と反論する向きもあるだろう。ただ「属性支配」は日本でも確実に起きている。7年8カ月の歴代最長政権を成し遂げた安倍晋三元首相はその「最大の恩恵」を受けた1人だ。

 1年で退陣に追い込まれた第1次安倍内閣の失敗を教訓に2012年の政権復帰後、安倍氏は安保法制整備や対中国包囲網、異次元の金融緩和を柱とするアベノミクスといった持論の政策、政治姿勢を打ち出し「安倍ファン」を見事に引き寄せた。

 かつて内閣は「消費税並み」とやゆされるほどの支持率底割れも珍しくなかったが、「モリカケ」など致命傷と思えるスキャンダルに見舞われながら安倍内閣の支持率は3割を切ることはなかった。仲間意識を持つ支持層はどんな事態でも安倍氏を見限らなかったのである。50%代の投票率の中、3割強の鉄板支持は強力だ。「こんな人たちに負けるわけにはいかない」。街頭演説でのヤジに反応した言葉は安倍氏自身が敵味方のしゅん別が大事だと分かっている証左だろう。

 ▽改憲メッセージ

 こわもてではなく、ハト派イメージの岸田文雄首相は無論、安倍氏と同一ではない。だが、安倍政権下で自民党に投票してきた人たちを離反させるほどの違いもない。岸田氏がどこまで計算してるかは不明だが、憲法改正への強い意欲表明は安倍自民党支持者をつなぎとめる材料になっている。

 それぞれの個性や価値観の違いを理解、尊重する多様性の時代。どの党、どの候補に投票するにせよ「属性支配」から抜け出せれば民主主義はもっとたくましくなる。(共同通信編集局次長=木下英臣)