国際リニアコライダー(ILC)計画をテーマとする国際会議「LCWS」は建設時期について「2030年までに着手が必要」との内容を盛り込む声明を出した。世界の研究者コミュニティーはこれまで「25年ごろの着工」を目指してきたが、世界の情勢を踏まえて事実上、軌道修正する方向となった。

 声明では、万物に質量を与えるヒッグス粒子の性質を高精度で調べるための「新しい加速器が必要」と主張。ILCはコンパクトさやエネルギー効率などの向上を目指して設計され、建設、運用コストが削減されているとした。

 従来路線と同様に「日本での建設を支援する」とのスタンスを示し、世界的施設とするため「資金調達と運営体制の協定を構築する必要がある」と説いた。

 声明は米SLAC(スラック)国立加速器研究所で5月に開かれた会議で出した。出席者によると、ILCの建設準備に動いている国際推進チームの中田達也議長(スイス連邦工科大ローザンヌ校名誉教授)らが今後の工程表を説明。26年ごろから準備研究所(プレラボ)の設置や政府間協議を進めて30年ごろに着工、建設期間は10年程度とした。

 同チームは20年の発足時に「5年後の着工、建設期間10年程度」とのスケジュールを公表した。ところが文部科学省の有識者会議が昨年2月、プレラボの設置は「時期尚早」と指摘。新型コロナウイルス禍の流行もあり、国内外の動きが鈍っていた。

 同チームのリエゾン(調整役)を務める高エネルギー加速器研究機構(KEK、茨城県つくば市)の岡田安弘理事は岩手日報社の取材に「このタイムラインは理想的に(作業が)進んだ場合のもの。ILCを進めるための議論が深まることを期待する」と説明。加えて「LCWSは科学的、技術的側面を議論する場で、タイムラインを承認する場ではない」としている。

 欧州では、周長約100キロに及ぶ次世代型巨大円形加速器「FCC」計画が検討中で、実現可能性を探る調査の結果が25年ごろに出るとされる。国内の誘致関係者はこの時期に政府判断のタイミングが来るとみて、活動を再構築している。