押井守氏「日本人変わる契機に」 ILC考、各界著名人に聞く

国際リニアコライダー(ILC)は人類の未来を変える可能性のある研究施設だ。文化的に中立で、資本主義国で、先進7カ国(G7)の中でも核武装していない日本は良い立ち位置。やる意義は大きい。
70年余り前、日本は「二度と戦争はしません」「文化と科学で世界に貢献していきます」って世界に宣言した。その志はどこに行ったのか。戦後教育を受けた自分は、科学に特別な思い入れがある。子どもの憧れであってほしいけれど、科学者は将来なりたい仕事の何番目だろう。ユーチューバーとかアイドルより、はるかに下だよね。日本人は(1964年の)東京五輪の頃から急に生活が良くなり、小金を持ったら初心を忘れちゃった。
日本人は成果が目に見えないとすぐに諦めちゃう。科学と言うと、科学技術にしか関心を示さない。でも、技術を実現するのは基礎科学。これに力を入れないと先はない。ILCの建設費についてカネ、カネというけれど、(2021年の)東京五輪にいくら使ったのよ。すぐ経済効果の話になる。分かるよ、生活に直結するから。でも、それって相当恥ずかしい気がするんだ。
五輪は終わったら施設を税金で維持するしかない。でも、ILCの投資は筋がいい。向こう100年、200年必要な施設で、世界中から優秀な学者が集まってくるから。研究者や家族がお金を地元に落とすとか、工事でお金が動くとかいうけちな話じゃなく、中長期的に世界一の科学都市を造るなんて夢がある。
何となく「この先(日本は)駄目なんじゃないか」って気分が若い人ほどまん延している。だから子どもたちに「すげえ」と言われるものが何かなければいけない。ILCができれば、目がキラキラなるよね。
僕はまともに社会生活をしてこなかった人間だが、自分の関わる世界と無縁ではないとも感じた。科学に理解がある人間を集めれば何かできるのではないかと思って、ILCサポーターズを立ち上げた。好奇心や面白がる気持ちは、世の中を動かしていくのに絶対必要と思う。新型コロナウイルス禍の収束が見え、風が吹き始めた。資金を集め、アイデアを出し合い、あっという間に広がる流れをつくっていきたい。
今、ILCをやらないと日本はこの先、何の面白みもない国になるんじゃないか。どんどん、みんなが貧乏になっていって。それでは情けないよね。日本人が変わるきっかけに、ILCがなってほしい。(談)
(聞き手は東京支社・下石畑智士、随時掲載)