奮闘、ナンキョクオキアミ採集 南極days(12)

多くの生物の餌となり、南極の海洋生態系を支える存在の「ナンキョクオキアミ」を昭和基地沖で採集しようと、第63次南極地域観測越冬隊の「漁協係」が試行錯誤を続けている。過去の文献を参考に、仕掛けの構造を考え、漁場を選ぶ。太陽が1カ月半昇らない極夜(きょくや)の空の下、隊員のアプローチは実るか-。
水平線近くが白む午前10時ごろ、基地近くの「北の浦」。設営隊員の桜庭健吾さん(26)=日立製作所、茨城県日立市出身=が、仕掛けを引き上げる。深さ約30メートルに前日沈めておいた網が見えてきた。
「入っていないですね」。薄暗い海氷上で、ヘッドライトの光で網を照らして丹念に探すも生き物の姿は見当たらない。
ナンキョクオキアミは、南極海に生息する体長6センチほどの動物プランクトン。見た目はエビに似ている。クジラやアザラシ、ペンギン、イカなどの餌となる。基地に残る25次越冬隊の記録によると、蛍光灯が付いた仕掛けを使い、基地周辺で5~11月に約800個体を採集。味は桜エビに似ているとあった。
今回の挑戦は、25次隊の記録を手掛かりにして仕掛けや設置場所を決めた。実際はまだ手探り。▽集魚灯の光量▽光の色▽仕掛けの気密性-など今後解決すべき課題を確認した段階だ。
越冬隊員で係長の根岸晃芸(こうき)さん(30)=国立極地研究所、甲府市出身=は「たくさんいるだろうと考えていたが、こんなに苦労するとは」と腕組み。それでも冬の南極で生き物と関われる数少ない機会で「生態をもっと深く調べる必要がある。釣りと同じように、これも生物たちとの対話」と暗い氷上での挑戦に、明るい表情で臨む。
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第63次南極観測越冬隊の活動は、岩手日報本紙をご覧ください。