2022.05.19

雄星、圧巻の投球で2勝目 及川彩子さんのMLBリポート

菊池雄星
菊池雄星

 強い雄星が戻ってきた。

 今季7度目の先発登板の対戦相手は古巣マリナーズ。当然、菊池雄星(花巻東高)の投球を熟知している相手だが、データを超える投球で6回1安打、6三振の好投で今季2勝目を挙げた。

 初回から150キロ前後の直球を軸に、スライダーとチェンジアップの変化球を織り交ぜた配球でアウトを重ね、4回まで無安打という好投。

 5回に先頭打者のウィンカーにライト戦ギリギリの2塁打を打たれ、無死2塁。その後、四球を与え1死1、2塁のピンチを迎えたが、8番ソーザジュニアにはインコースを攻め、最後154キロの直球で空振り三振に仕留めると、思わずガッツポーズも見せた。

 6回、1死から2番フランスへの四球の後、3番クロフォードとの対戦も圧巻だった。

 「一発がある選手。スライダーで張っていたようだったのでカウントを取りに行くと危ないと思って勝負しにいった」

 インコースへの150キロ直球にクロフォードは思わず手を出し、つまった当たりはライトフライに。

 菊池自身も「今日の試合で一番大きなボールだったんじゃないかと思う」と振り返ったが、この試合で勝負を決めたのはすべて直球だった。

 「(マリナーズとの対戦は)楽しみだった。3年間お世話になったので、成長した姿を見せたかった」と話したが、武器である直球を自信を持って投げられたのがこの試合の最大の成長だろう。

 昨季後半、直球に自信を持てず、カットボールの割合が増え、それが狙われた。春季キャンプでも直球とスライダーの精度を高めたい、と話しながらも、ピンチになるとカットボールが増えた。迷いが感じられた。

 自信を取り戻すきっかけを作ってくれたのはピート・ウォーカー投手コーチだ。

 結果が出ない菊池に対し、直球を増やすように提案。ストレートに自信を持てていなかった菊池に対し、「昨季も直球は打たれていないから」とデータを元に説明し、背中を押した。

 配球の変更とともに、フォームの修正にも取り組んだ。

 2段モーションをやめ、リリースポイントを前に置いたことで腕が振れ、球にキレも出てきた。回転数も試合ごとに上がっている。

 150キロ前後で大リーグ屈指のスピンがかかった直球を打つのはトップ選手でも至難の技だ。

 「(スピンは)特に意識していない。気持ちよく腕が触れているところで投げているので結果的に数値に表れているのでは」と満足げな表情。

 ウォーカー投手コーチは「雄星は身体能力が非常に高いし、理解度も高い。アドバイスしたことをすぐに修正できる選手はなかなかいない。とはいえ、まだ模索している部分もあり、目指す場所に向かう途中。シーズンを通してもっと良くなる」と太鼓判を押す。

 怪我から復帰した正捕手のジャンセンも菊池の好投を支えた。

 「わざと首を振らせるサインを出してくれて、投球を組み立ててくれた。(復帰明け)初戦にしてはコミュニケーションを取れたと思う」

 菊池だけではなく、チームにとっても大きな勝利だった。

 「チームが最近、苦しい状態が続いていたので初戦がとれてほっとしている」

 開幕から好調だったチームはオフのない連戦の影響もあり、5月から負けが込み、今日の試合を落とすと勝率が5割になるという苦境だった。

 菊池の気迫の投球に刺激を受けたのか、2本の本塁打を含む10安打と打線も奮起し、6対2で勝利を収めた。

 フォーム修正以降、試合ごとに調子を上げてきているが、満足はしていない。

 「無駄なランナーも出してしまったし、初球ストライクで先行できれば7回、8回までいけると思う。そういうところで信頼が勝ち取れるようにしたい」

 次戦でのさらなる飛躍を期待したい。

 

成長した姿見せたいと準備 一問一答

ー今試合を振り返って
チームが最近、苦しい状態が続いていたので初戦がとれてほっとしている。

ー今日の好投の鍵は
とにかくストレートで押せていけたのがすべて。

ー古巣マリナーズとの対戦で勝利の気分は
対戦を楽しみにしていた。アメリカに来る際に、色んな思いだったり覚悟を持って、3年前に挑戦した。辛い時期にも励ましてくれたり、サポートしてくれた。本当に思い入れのあるチーム。チームメイト、スタッフ、そして街も素晴らしかった。成長した姿を見せたいなと思って準備していた。

ー投手コーチと話し合ってフォーム修正をしてきたと思うが、この数週間の経過は
3週間ほど前にピート(ウォーカー投手コーチ)に攻め方などを変えようと言われた時は、正直そこまでストレートに自信を持てていなかった。ピートに「去年からストレートを打たれていないから使って」と言われ、そこでストレートを使えるようにして毎試合、自信を持っていっている感じ。

ー新しいスライダーはカットボールと比べてどんな効果があると思うか
開幕してすぐにピートから「スライダーを速くして」と言われたが、なかなか難しかった。その後、「カットボールを大きくするのはどうか。その方がしっくりくるのでは」とアドバイスを受けた。毎試合ごとに投げるたびに速くなっているのかなと思う。

ー新しい投手コーチの下で、変化や修正に対してどれくらい柔軟に受け入れているか
足を止めないで投げたり、スライダーやカットを大きくしたりするのは本来はシーズン中にやることではないのかもしれない。ただローテーションを守ることだけが目標ではなく、勝つということを意識してほしいと言われたことが大きい。

ー真っ直ぐに関して。ストライクを取りにいく球と勝負に行く球でスピード差があったと思うが、メリハリは意識していた
できればその差を少なくしていきたいが、96、97は出そうと思えばいつでも出せるが、それをしてしまうと1試合持たないので(笑)三振の時はインコースに行ったり、コースを狙いながら96、97を出す時はアバウトに勝負すると割り切って、最近できている気がする。

ー3週間前にフォームを修正し、よくなってきているように思うが。
まだまだ追いこんでスライダーを決めきれない部分もあるが、順調にやりたいこと、理想の状態に近づいている気がする。無駄なランナーも出してしまった。もっと初球ストライク先行で入るようになれば7回、8回いけると思う。そういうところで信頼が勝ち取れるように。そのためにも追い込んでからの精度をあげたい。

 

新球種「ビター」誕生?

 圧巻の投球内容に、地元メディアの記者たちは「(4月とは)別人みたいな投球だった」と口を揃え、試合後、フォームをどう変えたのか、シーズン中の修正に抵抗はなかったのか、握りは変わったのか、など菊池に矢継ぎ早に質問した。

 シーズン中に細かな修正を加えることはあっても、今回の菊池のようにフォームやリリースポイントを変えることは稀で、さらに菊池がアドバイス通りに修正し、結果に結びつけていることも驚きだ。

 記者からの質問に菊池はユーモアを交えながら返答し、修正を加えた大きなカットボール(ビッグカッター)のことを投手コーチが「ビター」と呼んでいると笑いながら話すと、記者たちは「新球種だ」「スラッターとは違うのか」と盛り上がった。

 菊池の投球をきっかけに、今後大リーグに「ビター」という新球種が定着するかもしれない。

及川 彩子(おいかわ・あやこ)さんPROFILE
及川彩子

 米ニューヨーク在住。陸上、サッカー、ゴルフなどを幅広く取材するフリーライター。45歳。北上市出身。

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