2022.02.24

温泉の猿、湯冷めしないの? 長野・地獄谷、体毛と汗に秘密か

後楽館の露天風呂に入浴する猿(右奥)=1月19日午後2時40分ごろ、長野県山ノ内町
後楽館の露天風呂に入浴する猿(右奥)=1月19日午後2時40分ごろ、長野県山ノ内町

 厳冬の信州-。長野県山ノ内町の地獄谷温泉では連日、温泉に漬かる猿「スノーモンキー」が見られるようになった。「湯冷めしないの?」。安曇野市の会社員相馬秀喜さん(54)が信濃毎日新聞(長野市)の特命取材班に素朴な疑問を寄せた。確かに入浴中は“極楽そう”な顔をしている猿たちだが、ひとたび湯を出れば氷点下。人間なら地獄に落ちた心地だろう。猿は耐えているのだろうか。

 相馬さんは以前からスノーモンキーを見たいと思っているが、直に見たことはないという。最近は新型コロナウイルス感染拡大で足を運ぶのも難しくなった。ただ、テレビなどで映像が流れるたびに「湯から出たら寒くないのかなと不思議に思う」。

 実際に湯冷めなんてするのだろうか。ここは直接、猿に聞いてみようと、地獄谷温泉で初めて猿の入浴が目撃されたとされる一軒宿「後楽館」を訪ねた。

 1月19日午前、後楽館主人、竹節勝吉さん(55)に事情を話すと「餌付けしない」「猿と目を合わせない」「猿が宿の中に入らないように戸は閉める」という厳しい条件で受け入れてくれた。昼ごろから露天風呂の脇に座って、じっと待った。

 待つこと2時間半-。子猿が誤って湯船に落ち、他の猿が慌てて助ける光景が見られた。だが、じっくりと湯に漬かる猿はなかなか現れない。

 竹節さんによると、気温が氷点下15度を記録したこの日の朝には猿は確かに湯船に入ったという。昼になって気温が上昇したせいか。こちとら人間、やっぱり寒い。はだしの足がかじかんできた。

 なかなか入ろうとしない猿たちに「頼むから入ってくれ」と願ったその瞬間、1匹が「ぽちょん」と飛び込んだ。ゆっくり近づいて撮影した猿は目を閉じて、うっとり。その姿は瞑想にふける仏か、はたまた夢想する修験者か-。微動だにせず5分たつと、湯船の縁に前足を掛けて静かに上がった。

 「お猿さん、寒くないの?」。満を持して、びっしょりと体毛をぬらした猿に尋ねた。目は合わせずに!

 「何だこいつは?」。いぶかるような表情を見せると、ぷいっと背を向けてどこかに行ってしまった-。去る者は追わず…。結局、直接取材では真相はつかめなかった。

 猿の入浴シーンは北海道函館市の熱帯植物園や、埼玉県狭山市の動物園でも見ることができるという。だが、野生の猿の入湯が確認されているのは地獄谷温泉だけだ。

 湯冷めするのかどうか、地獄谷野猿公苑の運営会社社長、萩原敏夫さん(58)に尋ねると「体毛と汗に秘密がある」との答えが返ってきた。

 ニホンザルは北限にすむ野生の猿で寒冷地に適応している。密度が高い体毛に覆われ、入浴後に氷点下の外気に触れても体毛の断熱効果で体毛の先が凍るだけ。肌に近い部分は温かいままという。

 人間や馬などと違って発汗量も少ない。入浴しても気化熱で体温が奪われず、そもそも急激に体温が変化することはない。「湯冷めという概念はここの猿にはないと思うよ」。萩原さんが笑った。

 ただ、チンパンジーなどに詳しく、ニホンザル研究のため地獄谷温泉にも通う信州大理学部助教、松本卓也さん(34)によると、「厳密には科学的な検証がなされていない謎」だ。

 「湯冷めを扱った論文の存在は聞いたことがない」と松本さん。サーモグラフィーでも深部の体温は測れないため証明も難しいとか。その上で「寒冷地に適応したニホンザルの特徴として学術的にも重要な問い」とし「今後の課題とさせてほしい」とした。

 相馬さんに取材結果を報告すると、新たな疑問をぶつけられた。「湯に入るのは雌や子猿だけとも聞きました。本当ですか」。竹節さんからは風呂好きの猿がいるとは聞いていたが…。「うーん、分かりません」。世界的にも知名度が高いスノーモンキーだが、その生態はまだまだ謎だ。

(信濃毎日新聞社提供)

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