2022.01.13

横浜港守る「ワッチマン」 警備や通訳、業務幅広く

横浜ハンマーヘッドで警備を担当する溝口久美子さん。制服の胸には「WATCHMAN(ワッチマン)」の文字が光る
横浜ハンマーヘッドで警備を担当する溝口久美子さん。制服の胸には「WATCHMAN(ワッチマン)」の文字が光る

 「横浜港にワッチマンという仕事をしている人たちがいますが、どんな仕事なのでしょうか」。横浜市の40代女性から神奈川新聞の特命取材班に疑問が届いた。女性の夫が最近、港関係の仕事を始め、ワッチマンという肩書(かたがき)の男性と名刺(めいし)を交換したとのこと。夫も「どんな仕事なのかな」と首をかしげているという。

 横浜開港150周年記念図書刊行委員会の「横浜港物語みなとびとの記」をめくると、さまざまな○○マンという職業があることが分かった。

 岸壁(がんぺき)で船舶係留(せんぱくけいりゅう)用の綱(ライン)を扱う人は「ラインマン」。貨物の積み降ろしを行う荷役現場の責任者は「フォアマン(Foreman、作業長)」。貨物の数量や状態をチェックする人は「タリーマン(Tallyman、計数係)」と呼び、諸説(しょせつ)あるが英語の呼び名が定着したようだ。

 山下ふ頭(同市中区)に「全日本ワッチマン業協会」という団体があるという情報を耳にした。事務局を訪れ粟竹俊幸会長(56)に質問すると、「よく聞かれますよ」と笑いながら、詳しく教えてくれた。

 「見る、監視するという意味の『ウオッチ』という英語は『ワッチ』とも聞こえるでしょう。だから、監視する人という意味でワッチマン(Watchman)。港の警備員のことですね」

 神奈川県内では終戦直後の1945年ごろ、横浜港に野積みされた物資が盗まれないように配置された人たちが発祥(はっしょう)という。着岸した船に乗り込んで、荷物が満載された船倉(せんそう)や船の出入り口(舷門(げんもん))を見張るようになったそう。徐々に、荷物の紛失や盗難防止、訪船する人のチェックも担うようになっていった。ワッチマンが船内を警備するのは着岸中だけ。出港を見送ると、次の船に乗り込む。

 警備員といえば真っ先に「ガードマン」という言葉を思いつくが和製英語のため、外国人には通じないそう。「陸上の警備業が今のように当たり前になる前に、港ではワッチマン業が確立された。港の世界では、ワッチマンが世界共通語ですよ」

 昔ながらのワッチマンとして横浜港で働く福田幸一さん(74)=日本警備=を訪ねた。

 船員名簿を持ち、船を出入りする人を確認し、不審者(ふしんしゃ)を立ち入らせないのが大切な仕事の一つ。通訳(つうやく)として船と外部のやりとりを仲立ちもする。福田さんは「何でも屋ですよ。船員におすすめの飲食店を教えたり。よく購入を頼まれるのは日本のお土産(みやげ)」と笑う。

 コンテナ船には20人ほどの外国人船員が乗船している。「英語を話せる日本人が一人いることで、安心して滞在してもらえる」と笑顔を浮かべる。

 だが、貨物がコンテナで輸送されるようになると、船倉での監視業務が必要なくなり、経費削減のため、船内警備を船員が担(にな)うようにもなった。そのため、ワッチマンを必要とする船は年々減少。今は米国船だけになり、昔ながらのワッチマンは東京・横浜港では福田さんとその相棒の2人だけになったという。

 港の案内役でもあるワッチマンが船からいなくなると、出港まで船室で過ごす船員が増え、下船(げせん)の機会が少なくなるという。

 船からは消えつつあるワッチマンだが、仕事の場はコンテナターミナルや倉庫などの警備業務にシフトしている。テロ対策を強化するため、国際条約のソーラス条約が2004年に改正され、世界中の国際港の警備が厳重化され、ワッチマンの活躍の場が広がった。

 19年にオープンした複合施設「横浜ハンマーヘッド」(同市中区)には大型クルーズ船が停泊(ていはく)できる客船ターミナルが併設(へいせつ)され、横浜港で初めて女性のワッチマンが誕生した。

 その一人、溝口久美子さん(29)=内外サービス=は施設内の巡回警備などを担当している。「ワッチマンという言葉には愛着(あいちゃく)がある。お客さまの安全、安心のための仕事をずっと続けていきたい」と話す。

(神奈川新聞社提供)

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