第2次世界大戦中の1940年春、北上市から中国湖北省の前線に赴いた青年は、恩師に宛てた手紙にこうつづった。〈内地も近く桜も咲くだろうと思います。今年は展勝地の花と思っておったが、まただめらしい〉。戦争は、地元の風景をめでるひとときすら残酷に奪い去った。

 北上にも戦争が存在したと実感する機会があった。同市の双子の映画プロデューサー都鳥(とどり)拓也さん、伸也さん(38)が企画製作したドキュメンタリー映画を鑑賞した。コンセプトは「足元(地元)から戦争を見つめ直す」。このまちに眠る戦禍の記憶を形に残そうとカメラを回した。

 軍用機の材料を生産した国産軽銀岩手工場の空襲被害や同市在住の元特攻隊員の生々しい証言を記録。別世界のような出来事を身近な現実として描いた。

 監督を務めた伸也さんは「若者が戦争を事実としてのみ込み、自分なりに解釈することが大切」と語る。私はこの地にあった戦争とどう向き合うべきか-。

 青年の手紙は、北上平和記念展示館に保管されている。彼が戦場で思い描いた展勝地の桜は今年、100年目の花を咲かせた。取材で何度も見上げた桜並木。葉の隙間から陽光が降り注ぎ、そよ風が吹き抜ける。そんな「いつもの風景」がありふれる日常の幸せをかみしめたい。

(斉藤元)