陸前高田市で東京五輪聖火リレーが行われた翌日、走者の一人が支局を訪ねてきた。「持ってみて」と促され手にしたトーチは光り輝き、ずしりと重かった。

 走者は同市の理容師米沢伸吾さん(45)。東日本大震災で父や消防団の仲間を亡くし、2018年に母から生体腎移植を受けた。復興支援や周囲への「ありがとう」を込め、笑顔で走りきった。

 母は大役を終えた姿に「ごくろうさま」とねぎらいの言葉を掛けた。辞退者分と合わせて2区間を走った米沢さん。「思いは伝わった」と振り返る充実の表情が印象的だった。

 阪神ファンの米沢さんは、野球競技での選手の活躍を祈願し「阪神パンツ」をはいて参加した。さまざまな願い、誓い、周囲の人が寄せる気持ち。トーチの重みを感じたのは、多くの思いが詰まっていたからに違いない。

 メダルラッシュに沸いた東京五輪が終わり、パラリンピックが始まった。沿岸各地の聖火リレーや採火式で参加者が手にしたトーチには「復興五輪」への思いも込められている。

 新型コロナウイルス禍で支援国との交流は難しくなっているが、10年かけて培った絆は簡単に切れるものではない。将来にしっかりリレーされ、大切な財産になっていくと信じている。

(向川原成美)