2021.04.22

悲しみ抱え前を向く

災害公営住宅の敷地で笑顔を見せる久保秋悦さん。いつも周囲への感謝の気持ちで暮らす=釜石市上中島町
災害公営住宅の敷地で笑顔を見せる久保秋悦さん。いつも周囲への感謝の気持ちで暮らす=釜石市上中島町

網膜色素変性症

久保 秋悦くぼ・しゅうえつさん(73)=釜石市上中島町

 

④思い

 日本網膜色素変性症協会(JRPS)は網膜色素変性症(色変)の患者や医療・支援関係者らでつくる全国団体。久保秋悦さんは東日本大震災から間もなく、友人の誘いで県内の組織に入会した。

 色変の発症が50代後半と遅く、もともと病気に関する知識が少なかった。色変の再生医療研究に注目していた。「近い将来、もしかしたら治療を受けられるかもしれない」。JRPSは最新医療の知見と、全国にいる患者たちの思いに触れる〝窓〟になった。

 「自分は目は悪いけど足腰はなんとかなるし、話すこともできる。やれる範囲でやってみよう」。2018年まで4年間にわたって県組織の代議員を引き受け、東京で開かれる会議に出席した。世間の誤解や偏見で肩身を狭くしている多くの患者の存在を知った。

 色変のうち明らかな遺伝性は50%ほど。「病気をよく知らない人たちから、家や育ちの問題と思われている面がある。結婚後に発症して夫婦関係が悪くなり、離縁する人も多い」

 2男1女の親である久保さん自身、目の悪い自分がそばにいることで子どもの結婚への影響を心配した。仕事を辞め、実母の介護のために仙台から釜石に単身で移住した経緯などもあり、今は独身となった。

 久保さんの部屋は居間の床に無駄な物がなく、よく掃除されている。台所の流しもきれいに洗ってある。掃除は自分でするほか、ヘルパーに手伝ってもらう。

 仮設住宅で暮らしていたとき、取材にショックを受けたことがある。

 「目が悪いから部屋にかびが生えていると報じられた。そういうところには普段すごく注意しているから、こけにされているようで納得ができなかった。患者仲間や仮設の他の被災者に申し訳なかった」

 病気を正確に捉えてほしい、そして運命と闘い、試錬を乗り越えようと頑張っている視覚障害者を失望させる内容にはしないでほしい-。今回の取材を引き受けるに当たり、久保さんが特に望んだことだった。

 色変の進行を自覚している。望みを抱いた再生医療は「治療対象は失明して間もない患者。自分は弱視だし、前立腺がんの持病がある高齢者だから難しいようだ」。将来、失明する可能性はある。久保さんは「寿命よりも早いか遅いか。試錬だけど覚悟は決めないといけない」と話す。

 自らを鼓舞するような力強いフレーズが久保さんの会話の特徴でもある。「悩んでいる人はいっぱいいるから、しぼんじゃだめ。はってでも生きる」、「こんなことで負けてたまるかという闘魂だけはある」と。

 震災から10年の今年、折々で弟ら亡き人を思い出す場面が増えた。「いろんなことがあって、やっぱり疲れてきた。俺も弱くなったよね」。久保さんの頬に大粒の涙が伝った。

 計り知れない悲しさ、寂しさ、つらさと生きてきた。日々の感情を文章にすることで、心が浄化されてきたという。

 「生き永らえ、目が見えるなら、スーパーの仕事で全国を歩いていたときのことをエッセーに書きたい」。目に焼き付けた思い出を紡ぐ時間が、これからの日常になる。

(久保秋悦さんの回は終わり)

 

 日本網膜色素変性症協会(JRPS) 94年設立。網膜色素変性症(色変)と類似疾患の患者の自立促進を目的に、治療法の研究促進のための助成活動や患者の生活の質(QOL)の向上、社会への啓発を行う。本部は東京都品川区。総会員数3886人。全国41都道府県協会があり、本県協会は会員49人。9月26日に盛岡市で「2021世界網膜の日in岩手」が開かれ、研究助成金授与式や記念講演が行われる予定。

 

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