2021.03.02

⑫被災地を歩く 宮古市田老地区

【2011年3月12日】 右手の太平洋から襲来した大津波は巨大防潮堤を乗り越え、商店街や住宅を破壊した
【2011年6月20日】 町を覆っていたがれきは撤去され、復興に向け歩みだした
【2014年6月13日】 右奥の山林が切り崩され、三王団地の造成工事が進む
【2017年5月3日】 左手の土地区画整理エリアは野球場や観光案内施設が完成。右奥の三王団地では住居の建設が進む
【2021年2月9日】 防潮堤左奥の道の駅エリアは台風19号豪雨で被災したが、復旧した
【写真=2011年3月12日、11年6月20日、14年6月13日、17年5月3日、21年2月9日】

新しいまち、活力手探り

 岩泉方面から三陸道を通って宮古市田老の中心部に入った。到着して真っ先に防潮堤に上がり、360度の風景を確かめる。海抜14・7メートルの新防潮堤が完成間近。10年前のあの日を振り返れば、こんな青空が広がり、そして寒かった。

再建した店舗前に立つ山本悦治さん。住民生活を支える決意を強くする=宮古市田老

 かつて宮古支局で勤務した土地勘があり、志願して田老の取材に向かった。国道45号が寸断され、岩泉町から山道を通って到着したのは2011年3月12日昼ごろ。密集していた商店は無残に破壊され、異様な静寂、ガス漏れの臭いがした。「盛岡まで乗せてほしい」。波をかぶったであろう数人が取材車に寄ってきた。自分は今、何をすべきなのか。しばし状況判断に迷ったのを思い出す。

 今年2月、1年ぶりに訪れた現地は、三陸道田老真崎海岸-宮古中央が開通し、沿岸南部や盛岡方面との交通の便が向上した。災害公営住宅のそばには三陸鉄道新田老駅と市田老総合事務所が入る施設が完成。3階から駅ホームに出ると田老一小のグラウンドが目の前に広がる。

 道の駅たろうのエリアに向かい、山長商店を営む山本悦治さん(56)と再会した。中心部に営んでいた自宅兼店舗が津波に流され、共同仮設店舗を経て18年に本設を再建。以前は両親も店に関わっていたが、再建を機に引退した。現在は妻と二人三脚で切り盛りし、高齢者の生活を支えるため週5回、移動販売車で地域を回る。

 この10年は「いろいろな事がありすぎた」と山本さん。ようやく再建にこぎ着けた直後、19年10月の台風19号豪雨で40~50センチ浸水。続いて、新型コロナウイルス禍が襲った。だが、心が折れずに乗り越えてきたのは「地域の皆さんのおかげ。豪雨の時は自主的に清掃に駆けつけてくれた」との感謝を胸に商売に励む。

 道路を挟んで反対側に立つ田老町漁協で小林昭栄組合長(77)に近況を聞いた。震災後、基幹の水産業を立て直すため借り入れた11億9千万円は経営努力で5億1千万円まで減った。だが、主力魚種の不漁に加えて、単価の高いアワビも深刻な不漁。震災前年に39トンあった水揚げは直近では9トンほどに減少した。

 組合員数も震災前の707人から490人に減る厳しい状況にあって、資源保護などに取り組む漁業者の水産規格「マリン・エコラベル・ジャパン(MEL)」認証を取得するなど、特産・真崎わかめを中心とした付加価値向上に活路を求める。「漁協が傾けば、地域を守れない。魅力的な水産物を出し、観光客が来てくれるように頑張る」と力強く語った。

 震災から10年になる田老地区は、ほかの被災地と同様、人口減少が進む。震災直前の4434人が今年1月には2856人。地域経済を支える役割を果たしていたハード整備はほぼ終了し、これからは地域の活力を守っていくためのソフトが重要になる。

 「まちは新しくなった。住民の意識も変えなければ」と中学校用務員の琴畑喜美雄さん(65)は、災害公営住宅で暮らす境遇での実感を口にした。顔の見える関係と助け合う風土がある半面、地区と地区、津波被害の有無、自宅再建を経た新住民と旧住民の間で微妙なすれ違いもあると感じる人が、実は少なくない。「若い世代が住みたくなる魅力的な地域をつくるため、残された人たちが心を一つに協力していくことが今後の課題ではないか」との琴畑さんの言葉は古里の未来を思えばこそだ。

 (報道部・熊谷宏彰)

【2011年3月12日】 右手の太平洋から襲来した大津波は巨大防潮堤を乗り越え、商店街や住宅を破壊した
【2021年2月9日】 防潮堤左奥の道の駅エリアは台風19号豪雨で被災したが、復旧した
【写真=2011年3月12日、21年2月9日】
 

 宮古市田老地区の復興状況 東日本大震災の家屋被害(非住家含む)は1691棟、死者・行方不明者は181人に上った。国道45号沿いに密集していた商店・住宅は高台に造成した三王団地(25・4ヘクタール)と低地の土地区画整理事業(19ヘクタール)の二手に分かれる形となり、結節点に道の駅たろうが立地する。巨大防潮堤(海抜10メートル)のうち、内陸側の第2線堤は0・7メートルのかさ上げが完了。津波で損壊し、新造する海側の第1線堤(同14・7メートル)は防潮堤が2020年度内、乗り越し道路は秋ごろに完成見込み。田老三小は19年、田老一小に統合された。