「冬来りなば春遠からじ」。応援している将棋棋士の一人、先崎学九段が色紙にしたためる一節として挙げていたことがある。八幡平では、この言葉を額面通りに受け取れない。寒さも雪も別格だった今季は、特に「遠い春」だった。

 年明けには取材中に車の「スタック」を初体験。居合わせた方に助けてもらった。車内に置きっ放しにしたペットボトルは当然凍る。田山地区では眼鏡の曇った部分まで凍り付くという得難い経験もした。

 冬は苦労もあるが、それ以上の恵みを感じる。市内のスキー場のパウダースノーは世界に誇れる資源の一つ。全面結氷した松尾地区の七滝は、この時季しか見られない雄大な姿で訪れた人たちを魅了する。冷え込みが厳しい晴れた朝の岩手山は、ほれぼれするほど美しい。

 暮らす人たちも独特の懐の深さがある。「雪はね、仕方ないよ」。少々のことでは動じない。在任期間の4年間では、その境地に至ることはできなかったが、慌てふためき取材をお願いするたびに助けていただいた。

 今年も春がゆっくり近づいてきた。今月いっぱいで当地を離れることになった。温かく、時に厳しく、そして笑顔の似合う市民の方々には感謝しかない。八幡平のファンの一人として、また来ます。ありがとうございました。

(及川慶修)