2021.03.10

八重樫東と被災地の終わりなき戦い③

飛び級での「挑戦」へ

 震災から2年目となる13年。

 岩手県沿岸部を舞台としたNHKの連続テレビ小説「あまちゃん」が、大きな反響を呼んだ。

 岩手経済研究所が8月に算出したドラマの経済効果は約32億8400万円。

 ロケ地となった久慈地域にとどまらず、近隣自治体や内陸部にも波及した。産直特産品の販売施設は来店者、売り上げが急増。新たな人の流れも生んだ。

東日本大震災から2年。地震発生の午後2時46分に、犠牲者を思い黙とうする遺族ら=13年3月11日、大槌町小鎚・城山体育館

 少しずつ前進する被災地。

 30歳になった八重樫も、歩調を合わせるように新たな領域に入った。

 同年4月、WBCフライ級のタイトルマッチに臨んだ。

 ミニマム級から一気に2階級を上げての挑戦だった。

「被災者を励まし続けたい」

 王者はアマ時代に4戦して一度も勝てなかった五十嵐俊幸(帝拳)。

 両者とも目の上を切って流血する壮絶な試合展開で、「激闘王」の声評は固まった。

計量をパスし、本番に向けて握手を交わす八重樫東(右)と王者の五十嵐俊幸=13年4月7日、東京都内のホテル

 "飛び級"での世界2階級制覇。ベルトを手にした瞬間に涙を浮かべた。

 打たれても、前に出続ける。

 そんな戦いを終えた八重樫は、震災被災者に向けて「諦めなければ報われる。立ち向かい続けてほしい」とエールを送った。

 「フライ級の相手は大きく強いが、自分が1日でも長く王者で在り続けることで被災者を励まし続けたい」

WBCフライ級王座の奪取から一夜明け、記者会見でベルトを肩にポーズをとる八重樫東=13年4月9日、横浜市・大橋ジム

「生きる伝説」あえて指名

 長く王者であり続ける。

 そう言いながらも、八重樫は防衛戦の対戦相手に、分のいい挑戦者を選ぶようなことはなかった。

 それどころか、もっとも厳しい相手を選んだ。

 14年。4回目の防衛戦の相手として、八重樫はローマン・ゴンサレスを指名した。

調印式後にポーズをとる、WBCフライ級王者の八重樫東(右)と挑戦者ローマン・ゴンサレス

 ゴンザレスは当時、プロで39戦して全勝(33KO)。

 アマチュア時代も含めると126戦無敗で「軽量級最強」「怪物」「生きる伝説」と称されていた。あまりの強さに、対戦してくれる王者がいないほどだった。

 誰もが避ける相手との勝負を、あえて選んだ。

 そんな同郷の英雄の戦いを、岩手では多くの人が仮設住宅から見守っていた。

 その年の3月31日、岩手県内では大震災で発生したがれきと津波堆積物の処理が完了していた。

島越駅に到着する三陸鉄道北リアス線の下り一番列車。島越漁港では復旧工事が進む=14年4月6日、田野畑村

 沿岸部を走る三陸鉄道は、被災した南・北リアス線(総延長107・6キロ)が4月6日に全線で運行再開。

 津波に耐え、復興の象徴となった陸前高田市の「奇跡の一本松」の復元作業もほぼ完了した。

 だが、そんな「本格復興期」に入ってなお、岩手県内では3万人以上が仮設住宅での生活を余儀なくされていた。

 恒久住宅の確保は進まず、被災者生活再建支援金の申請状況からみる個人住宅の再建率は33%にとどまっていた。

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 この記事は、岩手日報社が「LINE NEWS」編集部と共同で企画、構成しました。記事全文は「LINE NEWS」でもご覧いただけます。

 

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