リレーエッセイ イワテライフの楽しみ方

吉塚雄志さん第1回(全2回)

 
急斜面の草を当たり前のように食べる牛たち

 「大地に根差し、真の豊かさへ」「農業であれ、酪農であれ、それが人間の真の豊かさへ向かっていかなければならないのだ」

 これらは、山地酪農の創始者である故・猶原恭爾理学博士の言葉です。

 山地酪農とは、牛の生命力を生かし、ニホンシバを主体にした放牧地に1年中放牧する酪農スタイルのこと。表土を生かしながらニホンシバを植えて作った放牧地には、年間約50種類もの野草が季節によって生え変わります。牛は春から秋にかけてこの野草を、冬には夏の間に刈り取った乾草を食べます。外国産飼料に頼らず、草食獣である乳牛が自活することで、牛乳・牛体となる。これこそが「無から有を造る」ということなのだと感じています。

 ただ、このような放牧地を造り上げるまでには、約10年とかなり時間がかかります。特に日本には平地が少ないので傾斜地が対象になり、思うように作業がはかどりません。私の父も現在の吉塚牧場を、十数年かけて開拓しました。しかしそれを乗り越えることができれば、安定経営はもちろん、世界情勢に振り回されることなく、永続的に生産することができるのです。

 猶原博士の提唱する山地酪農を実践している農家は、全国に3軒しかありません。私たちは山地酪農家を増やしていくことを目標に、その魅力を伝えていきたいと思っています。

今月の人 吉塚雄志さん
田野畑山地酪農牛乳を生産する吉塚牧場の四男。高校卒業後、北海道で1年間チーズ作りを学び、2016年に完成した加工場「milk port NAO」でヨーグルトやチーズを製造。チーズの「白仙(山地ダブルクリーム)」は各種大会で受賞多数。