2020.09.24

記憶、遂行機能が低下

もやもや病による脳出血で高次脳機能障害となった阿部類さん。県立大で福祉を研究し、将来は大学教員になる夢を描いていた=滝沢市・同大
もやもや病による脳出血で高次脳機能障害となった阿部類さん。県立大で福祉を研究し、将来は大学教員になる夢を描いていた=滝沢市・同大

 

高次脳機能障害

阿部 類あべ・るいさん(34)=児童指導員、盛岡市三本柳

 

①症状

 2010年11月、阿部類さんは県内を車で運転中、頭に経験したことのない激しい痛みを感じた。

 「やばい。このままじゃ事故を起こす」。近くの駐車場に車を止め、救急車を呼んだ。そして父親に電話した。「たぶん脳出血。意識が持たないと思う」。病院の集中治療室で生死の境をさまよった。4日間は意識がなかった。

 当時は県立大の大学院2年生。福祉の専門職として翌春からの県職員採用が決まっていた。同大の恩師にあこがれ、将来は大学教員になりたかった。県職員は夢をかなえる第一歩だった。脳出血は、その内定者研修の帰り道に起きた。

 脳出血を直感したのは持病があったから。高校2年の夏に、ひどい頭痛と吐き気で病院を受診した。脳の動脈が細くなる難病「もやもや病」が原因の脳出血だった。そのときは意識があり、手術もしなかった。

 2度目の脳出血は出血量が格段に多かった。一命は取り留めたものの、言葉を発することはできず、体の右半身はまひしていた。

 入院から1カ月半ほどした頃のリハビリ記録が残る。空白の升に簡単なひらがなやカタカナを入れる幼児向けの問題だが、所々できていない箇所がある。

 「例えば『コック』の『コ』と入れるのに書き方が分からない。知っていて書ける気がしても微妙に違っていた」。周りからはこんな話もされた。「テレビのリモコンが何をする物か分からず、持ったままずっと首をひねっていたよ」

 脳出血などで脳が損傷され、記憶や行動にさまざまな障害が出る「高次脳機能障害(こうじのうきのうしょうがい)(高次脳)」の一症状だった。

 その後、リハビリでまひは改善し、会話もできるようになった。11年春からは自宅療養になった。

 医師も驚く奇跡的な回復だったが、限界はあった。頭部の手術も、まだ残っていた。結果的に県の採用はかなわなかった。

 感情の起伏が大きい、集中が続かないなど高次脳の症状は程度の差はあれ、現れていた。特にひどかったのが記憶と、物事を順序立てて行う遂行機能だった。

 「自分が言ったこと、相手が話したこと、起こったことを忘れてしまう。誰かにマンツーマンで付いてもらわないと、何もできないということもあった」

 高次脳の当事者には障害があるという認識のない人も多い。阿部さんもそうだったが、脳出血から2年ほどたち「回復はしても、元には戻らないことが分かった」。家族関係の悩みもあった。精神的に不安定になり、ある日自殺を図った。

 「痛くて怖くて苦しかった」。死ねずに家を飛び出し、夜通し山中をさまよった。結局、朝になっても死ねなかった。「人生どうしようもないけど、今は死ねないと感じた」。迎えを請う受話器の向こうに、憔悴(しょうすい)した母がいた。

 その後、友人らの励ましもあり、県立大の大学院に復学した。前向きな心を取り戻し、社会福祉学の修士号を取得した。修了後、最初に就いたのは自治体の生活保護の仕事だった。

 「福祉を教える大学の先生になりたいという夢は諦めていなかった。生保の担当なら将来に生かせると思った」。新社会人として歩み始めた。再び高次脳の現実を痛感した。

 

 高次脳機能障害とは 交通事故やスポーツの事故、脳梗塞、脳出血などが原因で脳が損傷されて生じる認知障害。新しいことを覚えられない(記憶障害)、物事の優先順位を付けられない(遂行機能障害)、集中力が続かない(注意障害)、感情を爆発させる(社会的行動障害)など症状は多岐に渡る。外見から障害が分かりにくいと言動が誤解を招いたり、自身が障害を負っている認識がないケースも多い。国立障害者リハビリテーションセンターの調査による推計対象者数(14年9月現在)は国内約27万4千人、県内2751人。

 

 もやもや病とは 国の指定難病。脳の働きを支える太い動脈が細くなり、脳の血流不足から手足のまひや言語障害を生じる。動脈の閉塞を補うため無数の細い血管が脳の深奥に発達し、それらの細い血管が煙のように「もやもや」とエックス線に写ることから病名が付いた。幼児に多く発症するが、成人の発症も少なくない。一過性の発作のほか、脳梗塞や脳出血の発症からも診断される。後遺症として高次脳機能障害などを負うケースがある。医療費助成対象の患者数は国内1万2356人(19年3月末)、県内151人(20年3月末)。

 

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