「ガサッ、ガサッ」。夜になると支局内に不気味な音が響く。正体は数年前から支局で飼育しているカブトムシ。今夏も十数匹が元気に動き回っている。中には虫かごのふたをこじ開ける脱走の常習犯もいるが、その力に底知れぬ生命力とロマンを感じる。

 一方で、同じ昆虫でも力が弱く、人間の世話なしには生きられないのが蚕だ。その蚕が来夏、世界の注目を集めようとしている。東京五輪でアラブ首長国連邦(UAE)の代表団が着る民族衣装を、北上市の更木小を含む国内外の子どもたちが育てた蚕から仕立てるプロジェクトが進んでいるのだ。

 同市で子どもたちを指導するのは、更木地区の養蚕業復活に取り組む市地域おこし協力隊の松岡冴(さえ)さん(27)。拠点のビニールハウスでは現在、約4万匹を飼育している。

 人間が桑の葉を与え、清潔な環境を維持しないと生きていけない。そのため飼育には多大な労力を要するが「その分、絹が仕上がったときの感動は大きい」と愛情を注ぐ。

 取材の際、腕に数匹のせてもらったが、その独特の感触は今も忘れられない。あの小さな体が生み出した絹糸がどんな生地に仕上がり、大舞台に上がるのか。好奇心と期待を胸に、プロジェクトの今後を伝えていきたい。

(斉藤元)