2020.07.03

【第3部】亡き人とともに ③オガミサマ

降霊、人々の心を救う

 岩手、宮城両県ではオガミサマ(オカミサマ)、青森県ではイタコと呼ばれる盲目の巫女(みこ)がいる。亡くなった人の霊を呼び、その人の言葉を伝えるという「口寄せ」を行う霊能者だ。「もう一度、あの人の声が聞きたい」。東日本大震災後、家族を亡くした人たちが、彼女たちの元へ向かった。

納められたオシラサマが並ぶお堂で、読経する菊地弘龍住職(右)と巫女の女性=6月30日、一関市川崎町・大乗寺

 6月30日、巫女の修行の場として知られる一関市川崎町の大乗寺(菊地弘龍(こうりゅう)住職)で、口寄せの秘技が特別に公開された。

 仏壇を背にした女性(84)が経を唱え、りんを打ち鳴らすと、体の奥から絞り出したような声が口を突いた。霊が降りた瞬間だ。「必ず守ってやるからな」「あとはよろしく頼んだぞ」。独特の節回しに乗せて、家族への慈愛に満ちた言葉が続く。「ばあちゃんだ…」。同席した女性は涙を流して感謝した。

 あまりにも不思議な体験だった。高齢のため精神を消耗する口寄せをここ数年していなかった女性は、降霊について「何が起きているのか自分にも分からない。何とも言えない」と多くを話さなかった。ただ一言、「私たちの仕事は人生相談のようなものです」と優しく語り掛けてくれた。

 

 「何でも語って」

 大船渡市末崎(まっさき)町に、本県沿岸の「最後の巫女」と呼ばれる菅原征子さん(75)がいる。震災で自宅が浸水しながらも、多くの被災者の依頼に応えてきた。

 「息子が帰ってこない」「どこにいったんだ」。震災後、疲れ切った様子で相談に来た多くの家族。菅原さんは「震災で家族の絆が深まった人もいたでしょう。でも、家族が壊れ、心のやり場のない人もたくさんいました」と語る。

 依頼者には地元の高齢女性が多かった。目は不自由だが、声の様子で心の内が分かる。「胸が楽になるなら聞いてやっから。何でも語って」。口寄せ後にこう促すと、多く人が、せきを切ったように話し出した。

 「息子が亡くなったばかりか、どうして嫁や孫にも見捨てられなきゃならないの」。息子の死後、同居していた嫁や孫が出て行った女性は涙ながらに訴えた。「『もう関わらないでほしい』って、孫にあげた誕生日プレゼントを嫁に突き返されたんだ」。別の女性は悔しさで声を詰まらせた。

 一緒になって泣いたことも一度や二度じゃない。でも「同居していてもギクシャクするだけでつらいでしょ。去る者は追わずだよ」「周囲には友人、知人もいるでしょう。誰もあんたを独りにはしておかないから」。そう語り、最後は一緒になって笑った。

 「泣けるだけ泣いたら、すっきりして、これからのことを考えるのっす」

 

 口寄せ消滅危機

 オガミサマは、幼少期に病気で失明した娘の将来を親が案じ、手に職を付けさせたのが始まりとされる。かつては菅原さんたちが所属する宗派だけで、宮城県北や本県に数百人の巫女がいて、口寄せや加持祈祷(きとう)、占いなどを行い、民間信仰として住民生活と密接に関わってきた。

 昔から頼りにしてきた陸前高田市小友町の女性(72)は「口寄せだけではない。悩みを聞いてくれて安心させてくれる存在。現代で言う心のケアかもしれない」と話す。

 ただ、巫女の高齢化と目の不自由な人がさまざまな職に就くようになった現代では、口寄せは消滅の危機にある。菅原さんも体調を崩し、昨年6月に祭具として用いた「オシラサマ」を大乗寺に納め、現在は加持祈祷だけを行う。

 「寂しいけれど時代の流れだね」。こう語る菅原さん。ただ最近、久しぶりに会った遺族から「当時は混乱していたけど、あの言葉の意味がやっと分かりました」と声を掛けられ、うれしさが込み上げてきた。

 瞳の奥で多くの人生を見てきた巫女たち。亡き人の言葉、そして自らの言葉を通じて、人々の心を間違いなく救っていた。

 

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