2020.07.23

同人誌制作通じた絆

郷家準一さん(中央)と旅の同人誌を見る佐藤貴義さん。「(郷家さんは)大学が東京で、自分にとっては〝都〟の文化を持ち帰ってくれる存在だった」と語る=奥州市水沢・郷家さん宅
郷家準一さん(中央)と旅の同人誌を見る佐藤貴義さん。「(郷家さんは)大学が東京で、自分にとっては〝都〟の文化を持ち帰ってくれる存在だった」と語る=奥州市水沢・郷家さん宅

 

筋萎縮性側索硬化症(ALS)

郷家 準一ごうけ・じゅんいちさん(42)=奥州市水沢

 

④趣味、仲間

 「CRUSH!(クラッシュ)」。郷家(ごうけ)準一さんが大学時代に地元の仲間たちと始め、20年来育ててきた同人誌の即売会がある。

 奥州市のZホールを拠点にゲームやアニメなどの愛好家が、こだわりを込めた作品を持ち寄って交流する。コスプレを楽しむ人も多い。近く60回を数える同イベント。郷家さんは長く、運営の実質的なリーダーを担っていた。

 大学1年のときにサークルの部誌を手掛けたのが、同人誌制作のスタートだった。同4年時には音楽ゲーム・ダンスダンスレボリューションをテーマに自作し、同人誌即売の一大イベント「コミックマーケット(コミケ)」(東京都)に〝初参戦〟。「達成感」から創作のとりこになった。その後もゲームや祭りなどの同人誌を作り続けた。

 5年前にALSの診断を受けた。イベントの運営からは退いたが、創作活動をやめることはなかった。

 2018年発行の「ALS患者 老師の車いす旅行記」は、郷家さんがALS患者として家族や友人と行った国内旅行の体験集。〝老師〟は自身のネット上の名前の一つで、東京ディズニーリゾート(千葉県)や富岡製糸場(群馬県)など訪れた施設のバリアフリーの評価や、見学・移動時の注意点を患者の立場から分かりやすくまとめた。

 同旅行記は昨年の県障がい者文化芸術祭で特別賞を受けた。その秋には過去2年ほど闘病の様子を発信していたブログをやめ、パート2づくりに専念。完成後は大学時代の友人にコミケで販売してもらった。

 同人誌の制作は、わずかに動く右手の指先でマウスを操作して文章を打つ根気のいる作業。病気の進行に伴い、マウス操作が難しくなってきた自覚もある。

 「ALSでも旅行に行けることを伝えたかった。多くの人に読んでもらえて良かった」。郷家さんにとって同人誌の制作とは、達成感を得られると同時に「生きた証しみたいなもの」。趣味の域を超えた、強い思いが伝わってきた。

 郷家さんは13年からALSの症状が出始めた15年までの3年間、同市の黒石寺蘇民祭に参加していた。きっかけは常連だった同市水沢の飲食店ディーディーズカフェ。クラッシュの仲間と共にカフェチームの一員となり、祭りの同人誌も毎年作るようになった。

 店のオーナー近藤一大(かずひろ)さん(55)は「昨年はうちのいものこ会に来てくれた。(郷家さんは)仲間が多く、病気になった後も、みんなが彼を柔らかく受け止めている」と語る。

 郷家さん宅には週末になると、クラッシュ仲間の同市水沢の会社員佐藤貴義(たかよし)さん(36)ら友人が訪ねてくる。一緒に旅行をすれば道案内から介助、長女菜七子ちゃん(4)の世話まで率先してくれる。

 「仲間とは、全てを理解している存在」。郷家さんは絆に感謝する。

 

 本県の難病対策とは 国主導で進められ、主に医療費の自己負担軽減、患者・家族支援、医療従事者らの人材育成・関係団体支援に大別される。難病法に基づく指定難病患者への医療費助成は、窓口負担(通常3割)のうち自己負担上限(同2割)を超える部分を国、県が折半で助成。県内の助成対象者は2020年3月末現在で9255人、19年度助成額は計13億6800万円。身体障害者手帳1、2級の交付者ら重度心身障害者の支援策として市町村が自己負担分をさらに軽減する制度もある。県内は難病の専門医不足が課題。患者団体は就労促進や福祉サービス充実に向け「難病手帳」の制度化などを求めている。

 

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