リレーエッセイ イワテライフの楽しみ方

伊吹有喜さん第4回(全4回)

 
『マドカ珈琲店』のご主人・佐藤浩司さん

 私の「イワテライフの楽しみ方」も最終回となりました。本日は香り高い一杯のお話を。

 旅先ではいつも夜明け近くに散歩をしています。静かな町を歩くと、風景が記憶に残りやすいのです。

 盛岡の朝の散歩で好きなルートは神子田の朝市。地物の野菜や果物、お菓子を眺めたあとに「ひっつみ汁」をいただき、マドカ珈琲店で熱いコーヒーを一杯。

 この朝市でコーヒーを楽しむ人は、さっと買ってぱっと去っていきます。その様子を見るたび、バールと呼ばれる、イタリアのカウンター形式のカフェで見た朝の風景を思い出しました。

 ヴェネツィアの有名な橋のたもとにあるその店では、近くのリアルト市場で働く人々やお客が訪れ、店主と挨拶を交わしながらカプチーノやエスプレッソをキュッと飲み、鮮やかに去っていきます。

 神子田とリアルト。国は違えど一日の始まりを告げるコーヒーを楽しむのは同じ。旅に出るたびに世界の広さを感じますが、どこへ行っても人が何に喜びを見いだすかは似ているものです。

 『雲を紡ぐ』は主人公の「美緒」が家を出て、世界を広げていく物語でもありました。執筆を通して私も、視点の広がりを得た気がします。

 盛岡で出会った素敵なものは他にも豊かにあります。いつかまた、お話できたら嬉しいです。

今月の人 伊吹有喜さん
出版社勤務を経て、2008年『風待ちのひと』で第三回ポプラ社小説大賞特別賞を受賞し作家デビュー。『ミッドナイト・バス』(2018年に映画化)、『彼方の友へ』が直木賞候補作となる。盛岡を舞台にした『雲を紡ぐ』の執筆のため、岩手県を何度も訪れた。