2020.06.09

無観客の異様さ痛感

 
 

バイオリニスト(宮古出身)

 梅村 隆一

 新型コロナウイルスの影響で、今なお世界中が大変な状況に置かれています。私はドイツのオーケストラに所属しています。こちらの生活を含め、感じたことを書きたいと思います。

 「アジア圏の話」と思い当事者になることを予想していなかったドイツでも3月上旬、ついにメルケル首相が厳しい政策を打ち出しました。ドイツに生きる人々に向け、はっきり、丁寧に、真摯(しんし)に理解を求め、多くの人が称賛しました。

 日本では、非常時に真っ先に削られるものの一つに芸術があります。しかしグリュッター文化大臣は「アーティストは必要不可欠であるだけでなく、生命維持に必要なのだ。特に今は」と述べ、「政府は、いかなるコストを払っても芸術家を救済する」とし、文化機関と施設の維持を含めた支援を決定したのです。

 実際、外出規制中の部屋で映画や音楽、文学などさまざまな芸術文化に触れる機会が増えました。非常事態であっても、政治が真正面から芸術を認知し守っていくこの国のありように、とても驚かされました。

 厳しい規制措置が始まる直前、私たちはドボルザークのオペラ「ルサルカ」の公演初日を3月16日に控えていました。上演に至るまでには長い準備が必要で、人数もオーケストラ、歌手、そして舞台美術担当者など総勢100人近くが関わります。ところが大詰めとなった3月12日、無観客での公演、そしてインターネットでのライブ配信が決まったのです。

 無観客での演奏会というのは、録音とも違う、とても異様なものでした。普段当然のように行っていたことが、どれだけ人との関わりを通じて実現していたのかを痛感させられました。

 これを最後に一切の仕事が制限されていますが、これまで通り給料が支給されています。そうした中、オーケストラは団員に呼びかけて、ドイツ管弦楽財団の緊急援助基金に寄付をしました。

 これはフリーランスで働く人たちへの支援に充てられます。自分たちが助けられていることを自覚しつつ、表裏一体で他者への助けも必要なことを認識しているのです。自己責任で対処できる状況ではない中、公助、そして共助が大変な速さで行われていきます。

 自粛期間中は、日用品を扱うスーパーや薬局、病院などを除き、全店舗が閉鎖され、街から人の姿が消えました。幸い大きな混乱なく時が過ぎましたが、きちんと情報が共有されたことと、支援がしっかりしていたからだと思います。

 5月6日に規制緩和が発表され、レストランや理容店といったさまざまな店が社会的距離を取ることを前提に続々と営業再開し、街には一気に人の姿が見られるようになりました。入場制限を設けた店舗の前に人が並び、マスクをしてカフェでくつろぐ人がいます。

 これまでの日常になかった光景に、まだまだ普通ではないことを肌で感じつつ、家族の心と体の健康に気をつけて日々の生活を過ごしています。

 

 うめむら・りゅういち 1973年宮古市生まれ。桐朋学園大音楽学部演奏科卒、同大研究科修了。2002年よりドイツのニーダーライン交響楽団に所属。46歳。

 

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